肝機能障害/肝機能の数値異常

肝機能障害とは

肝臓が何らかの原因で障害を受け、炎症が起こることで肝細胞が破壊され、肝機能に障害が生じる状態を肝機能障害(肝機能異常)と言います。血液検査では、肝機能に関する数値が異常値を示します。

肝臓の役割と病気の進行

肝臓は腹部の右上に位置し、横隔膜の直下にあります。腹腔内の臓器の中で最も大きな臓器です。肝臓はアルコールの分解だけでなく、タンパク質の合成、胆汁の生成、薬物の分解など、3つの重要な役割を果たしています。

肝細胞は再生能力が高く、壊れても修復されます。しかし、ウイルスやアルコールの影響で、長期間にわたって肝細胞が少しずつ障害されると、肝臓が硬くなる線維化が進行し、肝硬変と呼ばれる病態が生じます。

肝硬変になると症状が現れ、進行すると治療が非常に困難になります。現在、これらの機能を代替する人工臓器は存在せず、肝移植を受けない限り生存することはできません。

肝機能障害の原因と種類

ウイルス感染や薬物の使用、アルコールや脂肪の過剰摂取などの食生活、自己免疫疾患、遺伝的要因、環境要因など、さまざまな原因によって肝細胞が傷害や壊死を起こし、それによって肝機能障害が生じます。

これらの原因に基づいて、

  •  アルコール性肝疾患
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患
  • B型慢性肝炎
  • C型慢性肝炎

など、様々な疾患名が付けられています。

最も一般的な肝疾患としては、生活習慣が原因で脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝/脂肪肝炎や、飲酒が原因となるアルコール性肝障害があります。また、B型やC型などの肝炎ウイルスが原因となる慢性肝炎もあります。

これらは肝臓に炎症を引き起こし、肝細胞の傷害と再生を繰り返すことで肝硬変と呼ばれる線維化の進行を招きます。肝硬変が進行すると元に戻ることは難しくなります。

肝機能の数値異常

血液検査で見られる

  • AST
  • ALT
  • γGTP
  • ALP
  • LDH
  • ビリルビン

などの数値は、肝機能の状態を知るために役立ちます。

これらの数値が高ければ、肝機能に影響が大きいことを示唆します。しかし、数値が高い場合でも、最初の段階では自覚症状はほとんどありません。健康診断や人間ドックで指摘を受けたら、症状がなくても放置せず、必ず受診して詳しい検査を受けましょう。

肝機能の数値を簡単に解説

ASTとALT

アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST、別名GOT)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、別名GPT)は、もともと肝細胞内にある酵素です。肝細胞が炎症などでダメージを受けると、これらの酵素が血液中に漏れ出し、血液検査で高い値が示されます。

ASTやALTが500IU/Lを超えるような明らかに高い値の場合、肝細胞が急速にダメージを受けている可能性があり、急性ウイルス性肝炎、毒性物質や薬物による肝炎、虚血性または低酸素性肝炎、肝梗塞、自己免疫性肝炎の急性増悪、B型慢性肝炎の再活性化、総胆管内結石などが考えられます。

ASTやALTが300IU/L未満の軽度な増加が見られる場合、ウイルス性肝炎に続発した肝硬変、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、胆汁うっ滞性肝障害、肝細胞癌、アルコール性肝疾患およびアルコール性肝炎などが考えられます。

ASTは肝臓以外の臓器にも存在するため、AST値が上昇していても肝臓以外の臓器のダメージを反映している可能性があります。一方、ALTは比較的肝臓に特異的に存在するため、ほとんどの肝疾患ではAST/ALT比は1未満となります。ただし、アルコール性肝疾患ではAST/ALT比が2以上となることがよくあります。

γ-GT(別名γ-GTP)

γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γGT)は、肝臓だけでなく胆汁のうっ滞する病気でも上昇し、次に説明するアルカリホスファターゼ(ALP)と同様の動きを示します。また、γGTは飲酒によって高い値を示すことが知られており、アルコール性肝炎などでは特に高い値となります。γ-GTと飲酒量は比例しないこともありますが、禁酒によってγ-GTを低下させることができます。

ALP

アルカリホスファターゼ(ALP)の値が高い場合、胆汁のうっ滞が起こっている可能性があります。ウイルス性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、薬剤性肝障害などが考えられます。ただし、ALPは肝臓以外の様々な臓器にも存在しているため、高い値が出ていても必ずしも肝臓の病気とは限りません。

LDH

乳酸脱水素酵素(LDH)は肝機能検査の一つとして測定されますが、肝臓以外の多くの臓器にも存在しています。LDHが高いからといって、必ずしも肝臓に問題があるとは限りません。他の検査項目の値も考慮しながら、総合的に判断する必要があります。

ビリルビン

ビリルビンは、主に古くなった赤血球内のヘモグロビンが分解されて作られる物質です。肝臓でグルクロン酸と結合した後、胆汁として腸内に排出されます。血液検査では、結合されていないビリルビンを「間接ビリルビン」とし、結合されたビリルビンを「直接ビリルビン」として測定し、両者の合計を「総ビリルビン」として測定します。

総ビリルビンが高い場合は、ビリルビンの生成が亢進しているか、肝臓への取り込みや結合が減少している可能性が考えられます。間接ビリルビンが高い場合は、溶血などによりヘモグロビンの分解が増加している可能性や、肝臓への取り込みや結合の問題が考えられます。直接ビリルビンが高い場合は、胆汁の生成や排出が減少している可能性があり、胆汁がうっ滞していることが示唆されます。

肝機能障害によって起こる症状

肝臓の病気はかなり進行しないと自覚症状が現れないことが多いため、「沈黙の臓器」と呼ばれています。

肝機能障害を放置すると、やがて肝細胞が損傷され、ASTやALTなどの臨床検査値が異常になります。病状が進行すると、自覚症状や他覚症状も出ることがあります。

肝臓はタンパク質の合成や胆汁の生成、薬物の分解などを担っているため、肝機能が障害されると全身的な疲労感や黄疸、むくみ、肝性脳症などの症状が出現し、肝疾患に伴う消化管出血の合併症も起こることがあります。

さらに、肝臓の解毒機能が低下すると、肝不全と呼ばれる状態に進行し、肝性脳症と呼ばれる意識レベルの変化を引き起こします。また、肝臓への血流が滞ると、脾臓が大きくなり、食道静脈瘤や腹水が発生します。また、黄疸や手の震え(羽ばたき振戦)なども現れます。

肝不全や肝硬変に進行すると、治療が難しくなり、肝移植が唯一の治療法となります。

そのため、自覚症状が出る前に、臨床検査値の異常だけで早期に肝機能障害を発見し、早めの治療を行うことが非常に重要です。

肝臓の検査

肝臓の血液検査

肝臓の病気を検査する方法の中で、手軽で感度が高いのが血液検査です。血液検査は手軽なので、健康診断でもよく使われていますし、多くの人が知っているかもしれません。

肝臓の血液検査は一般的に肝機能検査と呼ばれています。この検査では、血中に放出された肝酵素(アミノトランスフェラーゼやアルカリホスファターゼなど)や胆汁排泄障害によるビリルビンを測定して、肝機能を評価します。また、肝臓の合成能を評価するためにプロトロンビン時間(PT)やアルブミンなども使われます。

肝機能の精密検査

肝臓の精密検査には、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などがあります。これら以外の精密検査は、通常の内科医では実施できないことがありますので、専門の高度医療機関をご紹介させていただきます。

腹部超音波(腹部エコー)検査

腹部超音波(腹部エコー)検査では、超音波を使って腹部の内臓を観察します。肝臓、胆嚢、胆管、膵臓、腎臓、脾臓などが対象です。これは最も安全で費用対効果が高い方法であり、超音波技師または医師が行います。検査の前に3〜4時間は食事を抜く必要がありますが、水分だけは摂取しても問題ありません。

この検査により、肝硬変や脂肪肝などの肝臓全体の病気だけでなく、肝血管腫、胆石、胆のうポリープなどの良性疾患、肝臓がんや胆管がんなどの病変、脾腫などの門脈圧亢進症の可能性も見つけることができます。ただし、腸管ガスが多い場合や肥満の患者の場合は、観察が難しくなることがあり、微小な病変を見つけられるかどうかは検査者の技量にも影響されます。

CT検査

CT検査では、造影剤を使って肝臓の詳細な画像を得ることができます。特に肝臓がんなどの腫瘍を見つけるのに役立ちます。また、肝膿瘍や脂肪肝などの病気も発見できることがあります。

*当院では、造影剤を使ったCTは撮影できません。

肝機能障害の治療

肝機能障害の治療は、その原因によって異なります。どんな病気が原因であっても、傷ついた肝細胞が再生しやすいようにするために、適切な健康管理が必要です。

アルコールの摂取を控え、脂肪の摂取を制限する食事療法や脂肪を燃焼させる運動療法が必要です。肝機能を早く回復させるためには、早期に問題を発見して治療することが重要です。

アルコール性肝疾患の治療

アルコール性肝疾患を改善するためには、禁酒が最も重要です。ただし、禁酒を達成することは難しい場合もあります。そのため、患者のモチベーションを高めるためには、行動面や心理社会的なサポートも必要です。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/MASLD)の治療

まずは生活習慣の改善が重要です。食事や運動療法による体重減少は肝機能の改善やNAFLD/MASLDの治療に役立ちます。体重を5%減らすと生活の質が向上し、7%以上減らすと非アルコール性脂肪肝炎における肝内脂肪蓄積や炎症の緩和につながります。エネルギー摂取量の調整に加えて、炭水化物や脂質の摂取制限も推奨されます。

NAFLD/MASLDの治療にはまだ十分に効果的な薬物はありませんが、多くの場合、糖尿病や脂質異常症も同時に存在していることがあります。それぞれの疾患に対する薬物治療により肝機能が改善することがあります。

B型慢性肝炎の治療

B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルスによる肝臓の長期的な炎症です。ただし、B型肝炎ウイルスに感染しているすべての人が治療が必要というわけではありません。

HBV持続感染者に対して抗ウイルス治療を行うかどうかは、年齢、病期、肝病変(炎症と線維化)の程度、病態進行のリスク、特に肝硬変や肝細胞癌の進展のリスクなどを総合的に判断します。治療の適応を選ぶ際には、個々の患者の組織学的進展度、血液中の肝酵素(ALT)検査値、およびHBV DNA量が特に重要です。そのため、治療は通常、経験豊富な肝臓専門医によって行われます。

C型慢性肝炎の治療

C型慢性肝炎は、C型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の長期にわたる慢性炎症です。C型肝炎治療の目標は、HCV持続感染による慢性肝疾患の長期的な予後改善であり、つまり肝臓がんや肝硬変の発生を防ぎ、肝疾患に関連した死亡を防ぐことです。この目標を達成するためには、抗ウイルス治療を行い、HCVの除去を目指します。HCVが排除された後でも、予後改善のためには肝臓がんの発生の有無をフォローアップする必要があります。

肝硬変を含むすべてのC型肝炎患者が抗ウイルス治療の対象とされ、年齢やALT値、血小板数に関係なく、すべてのC型肝炎患者に対して抗ウイルス治療の検討が推奨されています。特に、ALT値が上昇している例(ALTが30 U/L以上)や血小板数が低下している例(血小板数が15万/μL未満)のC型肝炎患者は、抗ウイルス治療の適切な候補です。治療は通常、経験豊富な肝臓専門医によって行われます。