脂質異常症とは
血液中には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4つの脂質があります。これらは体に必要な成分です。脂質異常とは、これらの脂質のバランスが乱れた状態を指します。
脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断などの血液検査で発見されることが一般的です。脂質異常症には診断基準があります。血液中の脂質濃度が基準値より高いか低いかで、脂質異常症と判断されます。
ただし、基準に合致していても、必ずしも薬を服用する必要はありません。
脂質異常症の診断基準(すべて空腹時採血)
- 高LDLコレステロール血症=LDLコレステロールが140mg/dL以上
- 低HDLコレステロール血症=HDLコレステロールが40 mg/dL未満
- 高中性脂肪血症=中性脂肪が150 mg/dL以上
脂質異常症(高脂血症)を放っておくと
脂質異常症は、糖尿病や高血圧、肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝を合併することもあります。高血圧が併発すると、血管に負担がかかり、血管壁が傷つきやすくなり、動脈硬化が進みやすくなります。そのため、脂質異常症を放置せずに、早めに治療することが重要です。
脂質異常の原因
脂質やコレステロールという言葉から、脂質異常症の原因は「生活習慣の乱れ」というイメージを持つ方は多いかもしれません。確かに生活習慣が関わる疾患ですが、実際には他にも様々な原因があります。
脂質異常症の原因は大きく3つのケースに分けられます。
1:遺伝や体質
LDLコレステロールの処理機能に異常がある遺伝子を持っていると、生活習慣に問題がなくても脂質異常症を発症することがあります。これを遺伝性脂質異常と呼びます。たとえば、生まれつき血液中のLDLコレステロールが異常に増える病気は「家族性高コレステロール血症」と診断されます。
2:ほかの病気や薬剤の影響
ほかの病気や薬剤の影響で、脂質異常症が起こることがあります。例えば、糖尿病や甲状腺機能低下症、慢性腎臓病などが挙げられます。これらは二次性脂質異常と呼ばれます。また、降圧薬や免疫抑制薬などの薬も、脂質の代謝に影響を与えることがあります。
3:生活習慣の乱れ
生活習慣の乱れには、以下のような要因があります。
- 過剰なカロリー摂取
- 動物性脂肪や糖分の過剰摂取
- 運動不足
- 内臓脂肪型肥満
- 喫煙
- 大量の飲酒
これらが脂質異常症の原因として一般的に知られていますが、ただこれだけが原因ではなく、個々の体質も影響しています。
脂質異常症の原因は単一ではなく、複数の要因が絡み合って発症することがあります。例えば、特定の遺伝子や体質を持つ人でも、健康的な食事や生活習慣を実践することで、発症リスクを抑えることができます。逆に、脂質異常症になりやすい体質の人が生活習慣を乱すと、発症リスクが高まります。
当院では、患者のライフスタイルを詳しく把握し、原因を特定することに注力しています。そして、個々に適した治療法を選択しています。
脂質異常症(高脂血症)の症状
コレステロールは細胞膜の材料として必要であり、血液中ではLDLやHDLという脂質によって運ばれます。LDLコレステロールが過剰になると、動脈壁に蓄積して動脈硬化を引き起こし、さまざまな疾患の原因となります。
一方、HDLは余ったコレステロールを回収し、肝臓に運ぶ働きがあります。HDLが不足すると、動脈壁に傷がつき、コレステロールがたまりやすくなります。これらが動脈硬化を進行させる要因です。
脂質異常症には、動脈硬化によって引き起こされる症状として、胸痛、息切れ、めまい、倦怠感、手足のしびれや痛み、視力低下などがあります。しかし、自覚症状がないことが多く、定期的な健康診断で脂質異常症の有無を確認することが重要です。
動脈硬化によってリスクが高まる病気
脳梗塞や虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
中性脂肪は、生命活動に必要なエネルギー源の一つですが、過剰になると脂肪が蓄積されて内臓脂肪となります。中性脂肪が過剰になると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が増え、HDL(善玉)コレステロールが不足すると、細胞にコレステロールが取り込まれて血管壁に軟らかくて壊れやすいコブ(プラーク)が形成されます。
これにより、血管が狭くなり、プラークに亀裂が入りやすくなります。亀裂を修復するために、血小板が集まって血栓ができ、血管が詰まる可能性があります。
心臓の血管が詰まると心筋梗塞や狭心症になり、脳の血管が詰まると脳梗塞になります。重篤な病気になるまで気づかない人もいるため、脂質異常症の予防が重要です。
急性膵炎
脂質異常症の人は、胆石ができやすいとされています。胆石が詰まると激しい腹痛が起こります。さらに、胆石は膵炎を引き起こすリスクが高まるので注意が必要です。特に女性は、胆石による膵炎の発症が多い傾向があります。
中性脂肪が多いと、HDLコレステロールが減少し、余分なコレステロールが血管壁に蓄積されます。これにより、血管が詰まりやすくなります。
中性脂肪1000以上は要注意
中性脂肪が1000mg/dL以上の非常に高い場合、急性膵炎が起こる可能性があります。急性膵炎の最大の危険因子は習慣的な大量飲酒であり、男性の急性膵炎の主要原因です。脂質異常症や膵炎を予防するためには、アルコール摂取の量と頻度を見直すことが非常に重要です。
脂質異常で重要となる生活習慣の改善
悪玉コレステロールを下げるために
まず、食事で摂取する飽和脂肪酸を減らすことが大切です。
飽和脂肪酸は悪玉コレステロールを増加させる傾向があり、肉の脂身(バラ肉の白い部分や鶏肉の皮など)やバター、ラード、生クリームに多く含まれています。また、パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなどの加工食品にも多く含まれています。サラダ油や魚油のように冷蔵しても液体の油は不飽和脂肪酸が主体ですが、冷蔵して固まる油脂には飽和脂肪酸が多く含まれています。
次に、食事中のコレステロールを減らしましょう。主に鶏卵の黄身や魚卵に多くのコレステロールが含まれています。高LDLコレステロール血症と診断された場合、まず飽和脂肪酸を減らし、それからコレステロールが多い食品(例えば卵)の摂取を控えることが重要です。
中性脂肪を下げるために
食べ過ぎや飲み過ぎにも気をつけましょう。特に、甘いものやアルコール、油っこい料理、高糖分の食品は控えたほうが良いです。
ソフトドリンクにはたくさんの砂糖が入っていることが多いので、過度に飲まないようにしましょう。こうした食べ物や飲み物を減らし、運動を取り入れて体重を減らすと、中性脂肪を下げることができます。また、青魚に含まれる多価不飽和脂肪酸は中性脂肪を減らす効果があるため、積極的に摂取することをお勧めします。
HDLコレステロールが低いと、中性脂肪も上昇しやすくなります。運動や体重減量、禁煙などを行うことで、HDLコレステロールが上昇する可能性があります。
また、アルコールを過剰に摂取すると、高血圧や肝臓機能の悪化を引き起こすことがあります。1日のアルコール摂取量を抑え、休肝日を設けるようにしましょう。
脂質異常症(高脂血症)の治療
脂質異常症と診断された人は、生活習慣の改善が重要です。改善方法としては、食事療法や運動療法を行います。しかし、これだけでは脂質異常症が治らない場合は、薬物療法を検討する必要があります。
薬物療法には様々な種類の薬があります。ただし、どの薬を使うかは、患者さんの年齢や性別、危険因子の数、合併症の有無、過去の病歴、家族歴などを考慮して決定されます。
高血圧や糖尿病など他のリスク要因がある場合や、家族性高コレステロール血症と診断された場合は、動脈硬化による疾患リスクが高いため、早めに薬物治療を始めることがあります。
ただし、どの薬を使っても副作用が起こる可能性があるため、注意が必要です。薬によって、副作用の種類や症状の出方が異なります。また、他の薬と併用すると副作用が生じることもあります。
薬を飲み始めたからといって、食事や運動の改善を止めないでください。生活習慣の改善が薬の効果を高め、最終的には薬を不要にすることもあります。
ただし、長い間生活習慣が乱れていた場合、治療期間も長くなることがあります。血液検査の数値が良くなったからといって、薬を自己判断で中止してはいけません。数値の改善は通常薬の効果によるものです。そのため、薬を中止すると数値が元に戻ることがほとんどです。
脂質異常症や高脂血症は、生活習慣の改善や薬の治療によって管理できます。定期的に内科で検査を受け、治療を継続することが重要です。症状がなくても、心配なことがあれば、お気軽に当院に相談してください。
脂質異常症に関するよくあるご質問
脂質異常症を予防するためにはどうすればいいですか?
バランスの良い食事と運動、定期的な健康診断が大切です。
脂質異常症を予防するためには、バランスの取れた栄養を摂取し、脂質だけに偏らずに食事をし、適度な有酸素運動を行い、健康的な体重を維持することが重要です。また、定期的に健康診断を受けて、血液中の脂質値を確認することも大切です。
脂質異常症を持っている場合、どのような食事が良いですか?
低脂肪・低コレステロールな食品、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取しましょう。
脂質異常症になった場合は、動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸や、コレステロールが含まれる食品を減らし、代わりに野菜や果物、魚などの低脂肪・低コレステロールな食品を積極的に摂取することが大切です。また、植物や魚の脂に多く含まれる不飽和脂肪酸や、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取することをおすすめします。