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咳(セキ)の原因と診断、治療を説明します

咳(セキ)の仕組み

我々を悩ます咳(セキ)、そもそも何のためにあるのでしょうか?

例えば、食べ物が誤って気管に入ってしまったとき(=誤嚥)、咳をしてそれを吐き出さないと、肺炎になる可能性があります。特に、嚥下反射が弱まる高齢者では上手く咳き込みができずに、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。ウイルスや細菌など外敵が鼻やノドを通って気管支に入ってくることもあります。このとき、外敵に反応した白血球は痰(タン)を作り、咳をして外敵を排除しようとします。

 

咳は生体の防御機構の一部であり、異物や痰を体外に排出する役割があります。そのため、咳をただ抑える薬(鎮咳薬)は、異物や痰を取り除けなくなる可能性があるため、慎重に使用する必要があります。咳の原因を特定し、根本的な原因を解決することが重要です。

ただし、時には防御反応が過剰になり、病的な咳が起こることがあります。過度な咳は体力を消耗し、肋骨骨折を含む痛みや呼吸困難などの不快な症状を引き起こします。このような病的な咳は治療の対象となります。

咳が起こる仕組みを図1で見てみましょう。気管や気管支などの粘膜には、咳を感じるための受信機である「咳受容体」があります。これに何かしらの刺激が加わると、信号が神経を通り、脳の一部である「咳中枢」に届きます。咳中枢は、横隔膜や胸郭の筋肉に指令を送り、急速な筋肉の収縮によって咳を引き起こします。このプロセスは「セキ反射」とよばれ、通常、私たちの無意識によって制御されています。

しかし、私たちは意識的に咳を止めることができることから、大脳皮質には咳中枢をコントロールする役割も備わっています。また、咳をしたくなくても咳を能動的に起こすこともできるため、咳受容体からの信号が伝わっていなくても、大脳が咳をするように咳中枢に命令する機能も存在すると考えられます。これが病的な場合、それを「心因性咳嗽」と呼びます。

 

図2から図4は、気管支の内部を拡大して見た図です。

図2では、気管支の表面には痰と呼ばれる粘液があります。この痰が気管支の粘膜に付着した場合、異物を感じる神経が刺激を受け、脳に信号を送り、結果的に咳反射を引き起こします

 

 

図3では、ウイルス感染など何らかな炎症が起きた結果、気管支粘膜の細胞が剥がれ落ちています。そのため、神経の末端が露出し、咳受容体が過敏となり、少しの刺激でも、咳反射を起こしてしまいます。例えば、風邪をひいた後、会話をしたり、冷たい空気を吸っただけでも咳がでるのは、このメカニズムによります。

図4では、気管支喘息(咳喘息を含む)による咳のメカニズムを示しています。通常、気管支の内側で好酸球性の炎症が起き、それによって気管支の筋肉(平滑筋)が収縮します。この収縮によって気管支が狭くなり、それを感知する神経が咳反射を引き起こします。

X線やCTスキャンで異常がある咳について

咳の原因となる病気は、大きく二つに分かれます。一つは胸部X線写真やCTスキャンなどの画像で異常が確認できる病気で、これには命にかかわる疾患である肺炎や肺がんなどが含まれます。そのため、咳の原因を早く特定し、治療につなげるために画像検査が重要です。

咳の原因を考える際には、まずは問診によって発熱や黄色い痰、血痰、胸痛、呼吸困難などの他の症状があるかどうかを確認します。これに基づいて、胸部X線写真やCTスキャンなどの画像検査が必要かどうかを判断します。このようなステップを踏んで、咳の原因を正確に診断し、適切な治療を開始できるようにします。

肺炎

肺炎は、細菌、ウイルス、または真菌が肺に感染し、肺の組織に炎症を引き起こす感染症です。症状には高熱、呼吸困難、胸の痛みなどが現れることがあります。

過敏性肺炎(HP)。

カビや羽毛などの特定のアレルゲンを吸い込むことが原因で、免疫系が異常な反応を引き起こし、両肺に広範な炎症を引き起こす病気です。急性HPと慢性HPでは症状や画像所見に違いがあります。

好酸球性肺炎(EP)

アレルギー反応の結果、肺に特定の白血球である好酸球が過度に集まる病気です。急性EPと慢性EPでは、症状や画像で見られる変化が異なります。

肺がん

肺内でがん細胞が増殖し、腫瘍を形成する病気です。X線写真やCTで早期発見することが治療の鍵です。

間質性肺炎

肺がもともと持っている組織である間質に炎症が生じる病気です。原因や症状、画像所見は多様で、原因不明のことも多い病気です。診断と治療は特定の原因に基づいて行われます。

薬剤性肺炎

薬の副作用の一つとして、肺に炎症が引き起こされる病気です。抗ガン剤が有名ですが、抗菌薬や漢方薬など身近な薬でも起こりえます。

肺結核

結核菌によって引き起こされる伝染病で、肺に感染が広がり、咳、発熱、体重減少などの症状を引き起こします。気管支結核といって胸部X線写真では発見しづらい結核もあります。

肺非結核性抗酸菌症

結核ではない抗酸菌による肺感染症で、Mycobacterium avium complex(MAC)などが原因です。無症状患者もいますが、長年にわたって少しずつ病状が進行し致命的となり得る病気です。結核と異なり人から人への感染力はないと考えられています。

肺気腫

主に喫煙が原因となり、肺の最小単位である肺胞が壊れ、肺組織の弾性が失われる病気です。症状として息切れと咳があります。

X線やCTスキャンで異常がない咳について

日常で経験する咳のほとんどは、画像検査で異常が見当たりません。これらの咳は通常すぐに致命的とはなりませんが、非常に激しい咳で肋骨を骨折することもあり、患者さんは苦しむことがあります。しかし、画像に異常がないため、診断には問診だけを頼りにすることが多く、確定診断が難しいことがあります。初診で診断ができず、数か月間にわたって治療をしながら診断をしていくこともあります。初診で診断できず、数か月にわたり治療と診断が進行することもあります。

以下で、画像に異常がない咳について詳しく説明します。

日本呼吸器学会と日本咳嗽学会のガイドラインによれば、画像に異常のない咳はその持続期間に基づいて分類されます。期間に応じて、以下のように分けられます:3週間未満の急性咳嗽、3−8週間の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽です。

 

3週間に満たない咳(急性咳嗽)

急性咳嗽(3週間未満の咳)の主な原因は感染症です。一般的に、クリニックなどで診察を受ける患者さんの咳の話を聞くと、ほとんどが1−2週間の急性咳嗽とされます。感染症の種類としてはウイルス(風邪)が最も多く、マイコプラズマや百日咳菌などの細菌感染が続きます。治療は、ウイルス性に対しては対症療法、細菌性に対しては抗菌薬+対症療法となります。ただし、細菌感染に対して鎮咳薬(セキ止め薬)を安易に使用すると、細菌を含んだ痰の排出が阻害され、病状が悪化する可能性があるため、慎重に処方されるべきです。咳が始まってまだ3週間経っていない場合は、原因疾患として、セキ喘息など感染症以外の病名をつけることはしばしば困難です。

3週間未満の咳の主な原因は以下の通りです:

 急性気道感染症:咳の原因として最もよく見られます。咳以外に、発熱、鼻水、のどの痛みなどを通常伴います。

  1. ウイルス感染(いわゆる風邪)
  2. 細菌感染(急性扁桃炎、急性気管支炎など)

3週間以上の長引く咳(遷延性咳嗽および慢性咳嗽)

3週間以上続く咳の主な原因は以下のような疾患です。これらの疾患はしばしば単一の原因ではなく、複数の要因が組み合わさっていることがあり、原因がはっきり特定できないこともあります。咳の原因は多岐にわたるため、一度の診察で全てが明らかになるわけではありません。そのため、診断と治療を同時に進める「診断的治療」が行われ、治療の効果を評価しながら最終的な診断が確定されます。その間、患者さんには咳で辛い思いをさせてしまうこともあるかもしれません。

感染後咳嗽

感染症(例:風邪)の一環として発生する咳です。ウイルスなどの病原体は既に体内から消えていますが、気管支粘膜に残る炎症により、咳の感受性亢進が長期間にわたって持続し、軽微な刺激(例:会話や深呼吸)によって咳が引き起こされます。この状態は徐々に改善する傾向がありますが、時には8週間以上も長引くこともあります。

セキ喘息

セキ喘息(Cough-Variant Asthma)は、喘息の一種で、呼吸困難や喘鳴音がなく、咳が主な症状です。喘息と同様に、気管支平滑筋の収縮が原因です。セキ喘息と喘息は別の病気と誤解されることがありますが、セキ喘息は喘息のさまざまな形態の一つと考えられます。気管支喘息とは異なり、セキが唯一の症状であるため、診断が難しいことがあります。呼気NO検査や呼吸機能検査が異常を示す場合、診断に役立ちます。しかし、正常値を示す場合、診断が難しく、喘息治療を行い、その治療効果を観察する「診断的治療」が必要です。

胃食道逆流症

胃食道逆流症は、胃酸が食道に逆流して、喉や気道を刺激して咳を引き起こす病気です。食事後や寝ている時に咳が増えることが特徴的です。感染後咳嗽や咳喘息による咳があると、腹腔内の圧力が上昇し、胃酸が食道に逆流しやすくなり、咳を悪化させる悪循環が考えられます。治療には胃酸を抑える薬であるプロトンポンプ阻害剤などが使われ、その治療効果を見て診断が行われます。

アレルギー性鼻炎・後鼻漏

アレルギー性鼻炎・後鼻漏は、花粉やハウスダストなどのアレルゲンによって引き起こされるアレルギー反応により、鼻水が生じます。この鼻水が前ではなく喉の方に流れて、後鼻漏を引き起こし、喉を刺激して咳の原因となります。治療の際には、まず鼻水の管理が重要です。

副鼻腔気管支症候群

副鼻腔気管支症候群は、鼻や副鼻腔の炎症が気管支に広がり、咳を引き起こす疾患の集まりです。鼻づまり、鼻水、喀痰などが一般的な症状です。治療にはマクロライド系抗菌薬の使用が検討され、診断と治療が同時に行われます。

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽はアレルギーに関連した原因によって引き起こされる咳の一種です。この症状に対しては、ヒスタミンH1受容体拮抗薬の服用が効果的です。また、セキ喘息の吸入薬もアトピー咳嗽の治療に有効であり、これらの疾患の鑑別が時折難しいことがあります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙による呼吸器系の慢性疾患で、咳、痰、息切れが特徴です。咳はCOPDの主要な症状で、気道の狭窄や炎症により、慢性的な咳が起こります。通常、咳には痰が伴います。COPDの治療には禁煙と吸入薬の使用が含まれます。

心因性(ストレスなど)

心因性咳嗽は精神的な要因によって引き起こされる咳のことです。ストレス、不安、抑うつなどが原因で発生し、身体的な問題ではなく、心理的な要素に関連しています。心の健康を管理し、心理療法を受けることが治療に役立つことがあります。

文責:院長(呼吸器専門医、喘息専門医)


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