息切れ、長引く咳や痰の症状は呼吸器科へ
- 風邪でもないのに咳や痰がいつもでる。
- 最近、息ぎれがひどく、2階まで階段を上れない。
これらの症状にお困りではありませんか?
そんなあなたは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)かもしれません。
COPDは、喫煙歴のある高齢者に多く見られる病気です。喘息とCOPDを合併している患者も多く、喘息とCOPDを混同されることも少なくありません。しかし、COPDが発症すると死亡リスクが高まることがわかっていますので、しっかりとCOPDを診断することが大切です。
- 20年以上タバコを吸っている。
- 大気汚染のひどい地域に住んでいる。
という方は、COPDに限らず呼吸器疾患を発症する可能性が非常に高くなります。
異変を感じたら、すぐに呼吸器科へ相談しましょう。
COPDとは
COPDは日本語で慢性閉塞性肺疾患と呼ばれます。かつては慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれていた病気が、COPDという名前に統一されました。しかし、この病気の認知度は低いため、聞き慣れない方も多いでしょう。
COPDの定義は簡単で明確です。呼吸機能検査で一秒率が70%未満であり、かつ可逆性がない(=元に戻らない)ことです。 気管支喘息はその逆で、可逆性がある病気です。
ロウソクの火を消すときを想像してください。大きく息を吸って、ふうーと息を一気に吐きますね。ゆっくり息を吐いてもロウソクの火は消えません。COPDの患者さんは、健康な人よりも息を吐く速度が遅くなっており、ロウソクの火を消すのが難しくなります。一秒間で肺全体の70%未満の量の息しか吐けない場合、それがCOPDと診断されます。
COPDの患者さんは、気管支内腔(=空気の通り道)が慢性的に狭くなっています。人は息を吸って空気を肺に取り込んだのち、肺から気管支、気管を通って外界に空気を吐き出します。空気の通り道である気管支が狭くなると、空気を吐くのに時間がかかります(ストローをくわえて息をすべて吐くのが大変なのと同じ原理です)。
COPDになると、気管支が慢性的に炎症を起こし、結果として咳や痰が絶えず出ます。気管支の狭窄により息をうまく吐き出せなくなり、労作時に息切れを感じるようになります。
COPDのリスク
日本では、COPDが男性の死因の第9位に位置しています(2021年、厚生労働省)。2022年には1万6千人がCOPDで亡くなりました。また、40歳以上の100人中約9人、つまり約530万人がCOPDを患っていると推定されています(NICE study, 2001)。
しかし、GOLD日本委員会の2023年の調査によると、日本でCOPDについてよく知っているか、またはその名前を聞いたことがある人は約33%でした。つまり、日本人の10人中7人はCOPDという病名を全く聞いたことがないということになります。
このように、COPDは決して珍しい病気ではありませんが、認知度が低い原因は医療者側にあると考えられます。医療者は、COPDを正しく診断し、患者さんに正確な情報を提供することがますます求められています。
COPDの症状
先にも述べた通り、
- 風邪でもないのに咳が止まらない。
- 常に咳や痰が出る。
- 息が切れやすい。
このような症状が続く場合、COPDや他の呼吸器疾患の可能性が高いです。
特にタバコをやめられない方、ヘビースモーカーの方は注意が必要です。少しでも気になる症状があれば一度医師を受診し、自分の肺の状態を確認しましょう。知らないうちにCOPDが進行していたというようなことにならないように、なるべく早めに相談することをお勧めします。
COPDの原因
COPD患者のほとんどが喫煙者か元喫煙者です。高齢者がCOPDになりやすい理由の一つは、長期間喫煙しているケースが多いことです。タバコの煙は毎日気管支粘膜を刺激し続けるため、気管支粘膜が慢性的に炎症を起こします。この炎症を毎日修復するために、気管支粘膜は肥厚していきます。その結果、気管支内腔が狭くなり、COPDが発病します。
肺が壊れると、もはや元に戻りません。酸素を取り込んだり空気を吐き出すのが難しくなり、軽い運動でも息切れを感じたり、せきや痰が長引くようになります。
また、COPDのリスクは喫煙者だけでなく、非喫煙者にもあります。周囲に喫煙者がいる環境では副流煙を吸い込む可能性がありますので、注意が必要です。さらに、喫煙者ではない場合でも、大気汚染、排気ガス、化学物質、細菌、ウイルス、粉塵、花粉などのさまざまな要因が肺の状態を悪化させ、COPDのリスク因子となります。
COPDの検査診断
COPDの主な検査は次の通りです。
- 問診
- 呼吸機能検査
- 画像検査
問診では、患者の喫煙歴や息切れの症状、咳や痰の有無などを確認し、診断に役立てます。
呼吸機能検査では、特殊な装置を使って肺の機能を評価します。この検査は喘息の場合にも行われます。検査結果をもとに、COPDと喘息などを鑑別します。
画像検査では、胸部X線や胸部CTを用いて、肺や気道に異常がないか調べます。これにより、他の疾患の可能性を排除します。また、心電図や血液検査などの結果も考慮し、COPDの確定診断を行います。
COPDの治療
まずは禁煙が必須
COPDのほとんどの原因はタバコですので、禁煙は治療の中で非常に重要で効果的な方法です。喫煙者にとって、禁煙は治療の第一歩となります。ただし、節煙ではなく完全な禁煙が重要です。
COPDは慢性疾患であり、根治を目指す根本的な治療法は存在しません。治療の主な目標は、症状を抑えて生活の質(QOL)を向上させ、増悪の頻度を減らして疾患の進行を抑制し、死亡率を下げることです。そのために、治療薬が開発されています。
COPD治療の主役は吸入薬
現在、COPDの主な治療薬は3種類の吸入薬です。
それぞれの薬の作用機序は異なります。
- LAMA(吸入抗コリン薬)
- LABA(吸入β2刺激薬)
- ICS(吸入ステロイド)
と略されます。
COPDが診断された場合、まず最初に投与されるべき治療薬はLAMAです。その後、病状が進行するにつれて、LABA、ICSの順に追加されていきます。
患者さんが複数の薬を別々に吸入するのは負担が大きいです。そのため、複数の薬を一つにまとめた吸入薬が販売されています。これまでは、LAMA単剤、LABA単剤、LAMAとLABAの組み合わせ、ICSとLABAの組み合わせが使われてきました。しかし、最近ではLAMA、LABA、ICSの3つの薬を一つにまとめた3剤合剤も承認され、日本でも使用できるようになりました。
咳や痰、息切れでお悩みの方や、長年タバコを吸っていて肺機能に不安のある方は、お気軽に当院までご相談ください。
COPDに関するよくあるご質問
喘息とCOPDの違いは何ですか?
最大の違いは、COPDによって損傷を受けた肺組織は元に戻らないことです。
喘息とCOPDは、どちらも気管支が慢性的な炎症によって狭まり、呼吸に困難をもたらす病気です。しかし、これらの疾患の大きな違いは、COPDの診断基準に含まれる「非可逆性(元に戻らない)」です。
喘息の場合、発作が治まれば呼吸機能も通常の状態に戻ります。しかし、COPDの場合、肺組織に受けた損傷は回復せず、呼吸機能も元に戻りません。
さらに補足しますと、喘息はアトピー素因によって発症することが多く、一方でCOPDはタバコ感受性が原因とされます。喘息は幅広い年齢層で見られますが、COPDは主に中高年から高齢者に発症することが多いです。若くて喫煙歴のない人は、喘息の可能性が高まります。
喘息もCOPDも、しつこく続く咳や痰、息切れ・息苦しさといった初期症状があります。喘息発作は夜間や早朝などに起こりやすい一方で、COPDによる呼吸困難は、日中や動いているときに起こることが多いです。
高齢で喫煙歴のある方が呼吸困難を訴える場合、この喘息とCOPDの鑑別はとても難しくなります。まずは呼吸器科に相談し、呼吸機能検査やアレルギー検査、画像検査を受けるようにしましょう。
注意が必要な合併症はありますか?
気管支や肺の病気だけでなく、他の生活習慣病も併発することがあります。
COPD患者は、健康な人と比べて肺がんのリスクが非常に高くなります。また、動脈硬化や心筋梗塞などの心臓疾患の発症リスクも高まります。
COPDが進行すると、少しの運動でも息切れなどのつらい症状が出やすくなり、外出を避けて家にこもりがちになることがあります。そのため、筋力の低下や寝たきり、抑うつ状態に陥るリスクなど、生活の質(QOL)の低下は無視できません。