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TP53とATMの両方に遺伝子変異がある非小細胞肺がんでは、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高い

[2019.09.29]

 

そのシステムの中でキーとなるのが、ガン抑制遺伝子です。ガン抑制遺伝子がコードする蛋白質によって、遺伝子の傷を修復し正常化したり、傷が修復できないときは細胞をアポトーシス(≒自殺)に誘導します。そうすることでガン細胞にならないように予防します。しかし、そのガン抑制遺伝子に変異などが生じて機能が喪失すると、その他の遺伝子変異ができても修復ができなくなり、ガン細胞の中に多数の遺伝子変異が蓄積されていくことが考えられます。

 

体内にガン細胞ができると、それを異物と認識し免疫細胞が攻撃し、ガン細胞を殺すような免疫システムがヒトにはもともと備わっています。しかし、ガン細胞の中にはPD-1というマーカーを細胞表面に出して、免疫細胞の攻撃から逃れて増殖していくものがでてきます。免疫細胞は癌細胞を異物だと思っても、PD-1があると攻撃にブレーキをかけてしまいます。本庶佑先生のノーベル賞で話題となった免疫チェックポイント阻害剤は、この免疫細胞のブレーキを外して、ガン細胞を再び攻撃するように仕向ける薬です。

 

免疫チェックポイント阻害剤の問題点として、治療費が高額であることと、治療効果のある患者さんが限られていることがあります。そのため患者さん毎に治療前に治療効果があるかどうかわかると助かる訳です。今回紹介する論文では、p53とATMというがん抑制遺伝子の変異が両者にあれば、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことを示しています。今までにもがん細胞に遺伝子変異の種類が多い方が免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が高いことが報告されていました。今回の研究で、p53とATMという二つの遺伝子のみを調べれば、多数の遺伝子変異を調べなくても良いことが示唆されました。

 

TP53とATMの両方に遺伝子変異がある非小細胞肺がんでは、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高い

JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1911895. 

Published: September 20, 2019. doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.11895

キーポイント

質問 

腫瘍タンパク質p53(TP53)および毛細血管拡張性小脳失調症原因遺伝子(ATM)の両方が変異している非小細胞肺癌(NSCLC)患者はどれぐらいいるのか、また免疫チェックポイント阻害剤に対する治療効果はどれぐらいか?

結果 

この複数コホート研究では、分析された遺伝子のなかにTP53およびATMがどちらも変異している群がみられた。 TP53およびATMがともに変異している患者では、どちらか一方の変異あるもしくは変異なしの患者と比較して、腫瘍変異数が多く、全生存期間も良好であった。

意義 

TP53およびATMがどちらも変異している患者では、腫瘍変異数が増加し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が高いNSCLC患者群を構成する。 NSCLCの免疫療法適応を考える上で、TP53およびATMは臨床上のバイオマーカーとなるかもしれない。

要旨

重要性

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、非小細胞肺癌(NSCLC)に対し長期的な抗腫瘍効果を期待できるが、治療効果のある患者はわずか20%〜25%である。 DNA損傷応答経路に関わる重要な遺伝子である腫瘍タンパク質p53(TP53)および毛細血管拡張性小脳失調症原因遺伝子(ATM)(ATM)がともに変異することにより、ゲノムが不安定となり変異数が増加する可能性がある。ただし、TP53とATMがともに変異することがどれぐらいあるのか、ICIの治療が奏効するか否かに関連しているかについてあまり分かっていない。

目的

NSCLC患者において、TP53およびATMがともに変異する頻度、可能性のあるメカニズム、およびICI治療の反応性との関連を調べること。

設計、設定、および参加者

この複数コホート研究には、Geneplus InstituteおよびCancer Genome Atlas(TCGA)、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)のデータベース、POPLARおよびOAK無作為化対照試験のNSCLC患者が含まれた。 Geneplusコホートのサンプルは、2015年4月30日から2019年2月28日まで収集され、分析された。TCGA、MSKCC、POPLARおよびOAKコホートからのデータは、2019年1月1日に取得され、2019年1月1日から4月10日まで分析されました。Geneplus Instituteにおいて腫瘍サンプルの次世代シーケンシングアッセイを実施された。ゲノム、トランスクリプトーム、および臨床データは、TCGAおよびMSKCCデータベースから取得された。

暴露 介入

 包括的な遺伝子プロファイリングを実施して、TP53およびATMの同時変異の頻度と、予後およびICIの治療効果との関連を判定した。

主な評価と測定項目

 主な評価項目は、TP53とATMの同時変異の頻度、全生存期間(OS)、無増悪生存期間、遺伝子セット濃縮分析、NSCLCの免疫プロファイルであった。

結果

 この研究で分析されたNSCLC患者には、Geneplusコホートの2,020例(平均年齢[SD]、59.5歳[10.5]; 男性1,168例 [57.8%])、TCGAコホートの1,031例(平均年齢[SD]、66.2歳[9.5]; 男性579例[56.2%])、MSKCCコホートの1,527例(男性662例[43.4%])、ISIで治療されたMSKCCコホートの350例(平均年齢[SD]、61.4 歳[13.8]) ; 男性170例 [48.6%])、およびPOPLARおよびOAKコホートの853例(平均年齢[SD]、63.0歳[9.1]; 男性527例 [61.8%])が含まれた。 TP53変異およびATM変異の部位は遺伝子全体に散在しており、組織型およびドライバー遺伝子によってTP53およびATM同時変異の頻度に有意差は認められなかった。NSCLC患者の独立した5つのコホートでは、TP53およびATMの同時変異があると、単独の突然変異しかないおよび突然変異がないのに比べて、腫瘍変異負荷(tumor mutation burden)が有意に高かった(TCGA、MSKCC、Geneplus、およびPOPLARおよびOAKコホート)。 MSKCCコホートでICIによる治療をされた患者では、TP53およびATMがともに変異していると、単一の変異がある患者や変異のない患者よりも、がんの種類にかかわらずOSが良好であった(OS中央値:TP53およびATM同時変異、未到達; TP53変異のみ、14.0ヶ月; ATM変異のみ、40.0ヶ月;変異なし、22.0ヶ月; P = .001; NSCLC のOS中央値:TP53およびATM同時変異、未到達; TP53変異のみ、11.0ヶ月; ATM変異のみ、16.0ヶ月; 変異なし、14.0ヶ月; P = .24)。POPLARおよびOAKコホートでも同様の結果がみられ、TP53およびATM同時変異の患者では他の3つのグループと比較して、病勢コントロール率、無増悪生存率、およびOSがすべて良好であった(無増悪生存期間中央値:TP53とATM同時変異, 10.4か月; TP53変異, 1.6か月; ATM変異, 3.5か月; 変異なし, 2.8か月; P = .01; OS中央値: TP53とATM同時変異, 22.1か月; TP53変異, 8.3か月; ATM変異,  15.8か月; 変異なし, 15.3か月; P = .002)。

結論と関連性

 今回の研究により、NSCLC患者の中にはTP53とATMが同時に変異している群があり、腫瘍変異負荷とICIの治療効果の増強と関連していることが示唆された。TP53およびATMが同時に変異しているかを調べれば、ICIの治療をするかの指針となるバイオマーカーとなる可能性が示唆された。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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