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MSD社のモルヌピラビル(ラゲブリオ®)とファイザー社のニルマトレルビル+リトナビル(パキロビッド®パック)はどこが違うのか

[2022.02.20]

新型コロナウイルス感染症(COVIDー19)に対して相次いで承認された経口薬として、MSD社のモルヌピラビル(ラゲブリオ®)とファイザー社のニルマトレルビル+リトナビル(パキロビッド®パック)があります。薬剤の有効性を検証する第3相無作為化試験がそれぞれの薬で実施され、プラセボと比較しどちらの薬も有効であることが確認されました。

非入院Covid-19患者に対する経口モルヌピラビル N Engl J Med 2022;386:509-520.

非入院の高リスクCovid-19成人患者に対する経口ニルマトレルビル N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2118542.

この二つの研究結果を並べてみると、かなり有効性に違いがありそうです。入院または死亡のリスクを、プラセボ(偽薬)と比較して、モルヌピラビルが30%(9.7%→6.8%)低下ニルマトレルビル+リトナビルが88%(6.3%→0.8%)低下させました。もちろん、結論を出すには、直接2剤を比較する無作為化比較試験(モルヌピラビル対ニルマトレルビル)を実施する必要があります。しかし、どちらの薬も不足している現在は、そのような比較試験をする前に薬を普及させる方が先かもしれません。

下記は、ニルマトレルビルの試験結果が発表された同じ号のNEJM誌に掲載されたEditorial(社説)を翻訳し、解説を加えます。

The Potential of Intentional Drug Development

計画的な医薬品開発の可能性

Eric J. Rubin, M.D., Ph.D., and Lindsey R. Baden, M.D.

February 16, 2022 DOI: 10.1056/NEJMe2202160

2年以上前にCovid-19の大流行が始まったとき、病気の重症度を下げ、命を救う迅速な治療介入に対して大きな期待が寄せられた。既存薬や治験薬には、原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対して試験管内である程度の活性を持っていた。多くの再利用薬がすぐに採用されたが、結局、Covidに対して意味のある臨床活性を示すことはなかった。2つの治験薬、レムデシビルとモルヌピラビルは、最終的にある程度の臨床効果を示した。しかし、どちらもかなりの欠点をある;つまり、レムデシビルは非経口製剤であり、モルヌピラビルの効果はわずかである。これらの薬剤とモノクローナル抗体の研究によって一つ明らかになったことは、抗ウイルス剤による治療介入は可能であるが、それは病気の初期に限られるということであった。

コロナに限らず、全く新しい薬を作るにはかなりの時間がかかります。そこで、その他の病気ですでに使われている薬の中で、試験管内(in viro)で効果がありそうなものを選んで、新しい病気に使えないかをまずは検討するわけです。抗寄生虫薬のイベルメクチン®、抗インフルエンザ薬のアビガン®がCOVIDに試験的に臨床使用されましたが、満足のいく効果は得られず承認されることはありませんでした。

今回、SARS-CoV-2を特異的に阻害するために設計された初めての低分子抗ウイルス剤がJournalに発表された。有効成分であるニルマトルビルは、SARS-CoV-2ウイルスがコードする2つの必須プロテアーゼのうちの1つである、3-キモトリプシン様システインプロテアーゼ酵素の阻害剤である。プロテアーゼ阻害剤は、HIVの治療薬として導入されて以来、ウイルス感染症の治療において成功を収めてきた。抗レトロウイルス薬と同様に、ニルマトルビルはチトクロームP450 3A4(CYP3A4)により速やかに分解されるため、この酵素の強力な阻害剤であるリトナビル低用量と併用投与されることになる。試験管内でニルマトルビルは低濃度でウイルスの複製を阻害し、リトナビルとの併用すると、有効な血漿中濃度を達成することができる。

ニルマトルビルは新型コロナウイルスがもつプロテアーゼを阻害する作用があり、併用されるリトナビルはニルマトルビルが分解されるのを防いてニルマトルビルの効果を高める効果があります。

この第3相ランダム化比較対照試験では、SARS-CoV-2に感染し、重症化リスクが高く、ランダム化前の5日以内に発症した、ワクチン未接種の外来患者に、ニルマトルビル+リトナビルまたはプラセボを投与した。主要評価項目は、初回投与が症状発現後3日以内に初回投与し、モノクローナル抗体療法を受けていない患者における、28日目までのCovid-19による入院およびすべての原因による死亡の複合であった。本試験は、約3000名の患者を対象に実施される予定だったが、予定していた中間解析の時点で有効性のエンドポイントに達したため、データモニタリング委員会が終了とした。本報告では、中間解析時点に達した患者と、その後に登録された28日目評価に達していない患者の合計2246名をニルマトルビル群とプラセボ群に分け、すべての登録患者を対象とした。

中間解析を行って、有効であることが明らかであれば、試験を早めに終わらせることはよくあります。中間解析を行って試験終了が決定されるまでに時間があり、その間に患者が登録されるので、最終解析では半分以上の患者が解析されます。

ニルマトルビル+リトナビルは、軽度の味覚障害と下痢を伴うが、特に問題となるような安全性の懸念は確認されなかった。本剤の投与は、主要評価項目に対して実質的な効果を示した。最終解析集団は中間解析集団とほぼ同じで、ニルマトルビル群では697例中5例(0.72%)が入院または死亡したのに対し、プラセボ群では682例中44例(6.45%)が入院または死亡した。また、死亡例はニルマトルビル群では0例、プラセボ群では9例であった。この効果は、症状発現後5日以内に初回投与が行われたすべての参加者を対象とした二次解析でも維持され、ニルマトルビル+リトナビル投与群1039人中8人(0.77%)、プラセボ投与群1046人中66人(6.31%)が複合エンドポイントに到達した。中間解析と最終解析の結果と一致したことは、すべてのCovid-19試験でそうだったわけではなく。心強いことである。

ニルマトルビル+リトナビルには問題となる副作用はなく、治療効果はプラセボ(偽薬)と比較し明らかです。

(中略)この試験は2021年7月中旬から12月上旬にかけて実施されたが、この時期はデルタ株が感染の大半を占めていた可能性が高い。オミクロン株などの新しい変異が出現したときに、ニルマトルビル+リトナビルがどのように機能するかはまだ分からない。しかし、試験管内の試験で、ニルマトルビルは試験したすべてのウイルス株で活性が維持されることが示唆されている。この新薬に対する耐性はまだ確認されていないが、新しいウイルス株が免疫制御薬(モノクローナル抗体薬など)に対し感受性が低くなるように進化したように、ニルマトルビルのような単剤は耐性が問題になる可能性がある。

今回のニルマトルビル+リトナビルは、デルタ株患者に対して投与されたので、オミクロン株の患者には同じ効果がみられるかはわかりません。そして、ウイルスは変異して進化してしまうので、いずれ効かなくなってしまう可能性もあります、

そのような中で、この有効な薬をどのように使っていけばよいのか。現在、薬の供給は制限されており、しばらくはこの状態が続くと思われる。では、誰がこの少ない資源を受け取るべきなのか?今回の研究でいくつかの指針が示されている。つまり、絶対的な利益は、主として重症化リスクが最も高い患者、特に複数の重い合併症をもつ患者や免疫抑制状態にある患者には絶対的に利益がもたらされるであろう。ニルマトルビル療法の開始時期もおそらく重要である。今回の試験では、発症から3日以内に治療を開始した場合と5日以内に治療を開始した場合とでは差はほとんどなかったが、5日よりもずっと遅く治療を開始した場合は効果が低くなる可能性が非常に高い。これは他の抗ウイルス剤にも言えることで、例えばレムデシビルは入院中の患者にはほとんど効果がないが、感染初期に投与すればはるかに大きな効果が得られる。リトナビルは、抗けいれん薬、免疫抑制剤、抗凝固剤など、多くの治療薬の代謝を阻害するため、患者を個別に評価することが非常に重要となる。そして最後に、耐性ウイルス出現の可能性についてより良い知見が得られるまでは、この薬の良き理解者であることが必要である。もっとも有用な患者に限定してこの薬を使用することで、その薬の有用年数を延ばせる可能性がある。

今回のニルマトレルビル+リトナビル(パキロビッド®パック)で注意が必要なことは、薬剤相互作用です。重症化リスクのあるCOVID患者に投与するべきなのですが、そのような患者はえてして多くの薬を飲んでいます。それらの薬にリトナビルが影響しないか個別に考えなければなりません。

下表はJAMA誌のViewpointに掲載されていた表が分かりやすかったので、和訳してみました。

COVID-19 非入院患者に対する治療薬. JAMA. January 14, 2022. doi:10.1001/jama.2022.0335

 

軽症から中等症COVID-19を有する高リスクの非入院患者に対する治療薬の比較
    Nirmatrelvir-ritonavir   Sotrovimab   Remdesivir   Molnupiravir

治療効果(入院または死亡の回避)

       
  リスク低下の絶対値 6.3%→0.8%   7%→1%  5.3%→0.7%  9.7%→6.8%
  相対的リスク低下 88% 85% 87% 30%
  NNT(No. needed to Treat) 18 17 22 35
利点   ・高い有効性
・経口薬
・リトナビルは妊娠中も安全であることが確認
・高い有効性
・モノクローナル抗体は一般的に妊娠中も安全
・薬物相互作用 が少ない/ない
・高い有効性
・妊娠中の研究あり
・薬物相互作用 が少ない/ない 
・経口薬
・薬物相互作用がないと予想
欠点    薬物相互作用  静脈内注射の後、1時間観察 が必要  連続3日間の点滴が必要 ・低い有効性
・変異原性が懸念
・妊娠中/小児には推奨しない
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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