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IL-33を阻害する抗体薬イテペキマブは中等症~重症喘息に有効かもしれない(NEJM誌の報告)

[2021.11.03]

昨今、ぜん息に対する新規薬剤は生物学的製剤が主流となっています。

基礎研究の結果によりぜん息の病因となる物質が次々と同定されており、その物質を標的として作られた薬を生物学的製剤と呼ばれています。

IgEを阻害するオマリズマブ(ゾレア?)が日本で最初に承認され、IL-5を阻害するメポリズマブ(ヌーカラ?)、IL-5受容体を阻害するベンラリズマブ(ファセンラ?)、IL-4/13受容体を阻害するデュピルマブ(デュピクセント?)が次々に承認されました。

最近では、TSLPを阻害するテゼペルマブが重症喘息に有効という研究結果が報告されました。

今回紹介する論文では、インターロイキン33(IL-33)を阻害するItepekimab(イテペキマブ)が、中等~重症喘息の喘息コントロール不良を示す事象(イベント)の発生を減らすという研究結果を示しています。この研究は第2相試験であり、症例数が比較的少ないため、確定的な結論を導き出せません。しかし、IL-33のような上流因子を抑えても、臨床的に意味のある結果につながる可能性があることを示したことに意味があります。

 

IL-33は、気管支粘膜上皮のような上皮細胞に存在するタンパク質であり,気管支粘膜を傷害するような刺激が加わると細胞外へ放出されます。

ゲノムワイド関連研究では、IL-33と喘息感受性の間に遺伝的な関連性があることが示されています。IL-33が受容体と結合して下流のシグナル伝達を開始すると、自然免疫系と適応(獲得)免疫系の両方の細胞が活性化されます(下図)。IL-33は、2型および非2型の炎症を起こしている喘息や慢性閉塞性肺疾患などの気道疾患の原因になっている可能性があります。また、マウスモデルでは、IL-33の阻害が2型と非2型の両方の炎症を改善することが示唆されています。

 

イテペキマブは、インターロイキン33に対する新しいヒトIgG4Pモノクローナル抗体です。

今回紹介する研究の目的は、中等度から重度の喘息を有する成人を対象に、プラセボと比較して、イテペキマブ治療の有効性と安全性を評価することでした。デュピルマブは、この集団で有効性が示されており、抗IL-33(イテペキマブ)と抗IL-4/13(デュピルマブ)の併用療法が相加効果をもたらすかどうかについても検討しています。

プラセボと比較し、イテペキマブとデュピルマブは喘息コントロールが不良となる患者が少なくなっています(プラセボ30人、イテペキマブ16人、デュピルマブ14人)。しかし、イテペキマブとデュピルマブを併用すると、単剤より逆に増えています(20人)。症例数が少ないので、確かなことは言えませんが、併用すれば相加効果や相乗効果が得られるわけではないようです。

 

中等症~重症喘息患者に対するイテペキマブの有効性と安全性

Efficacy and Safety of Itepekimab in Patients with Moderate-to-Severe Asthma

October 28, 2021

N Engl J Med 2021; 385:1656-1668

DOI: 10.1056/NEJMoa2024257

 

要旨

背景

IgE、IL-4およびIL-13、IL-5を標的としたモノクローナル抗体は、重症の2型喘息の治療に有効であるが、新たな標的が求められている。イテペキマブ(Itepekimab)は、上流のアラーミンであるIL-33に対する新しいモノクローナル抗体である。喘息患者におけるイテペキマブの単剤療法、およびデュピルマブとの併用療法の有効性と安全性は不明である。

方法

第2相試験において,吸入グルココルチコイドと長時間作用型β-アゴニスト(LABA)の投与を受けている中等症から重症の喘息を有する成人を,イテペキマブ(用量300 mg)の皮下投与群,イテペキマブとデュピルマブ(ともに300 mg)の併用群,デュピルマブ(300 mg)の投与群,またはプラセボ群に,1:1:1:1の割合で無作為に割り付け,12週間にわたり2週間ごとに投与した。無作為化後、LABAは4週目に中止し、吸入グルココルチコイドは6~9週目に漸減した。主要評価項目は,喘息のコントロールが失われたことを示す事象で,プラセボ群と比較して,イテペキマブ群と併用群で評価した。副次的評価項目およびその他の評価項目には、肺機能、喘息コントロール、QOL、2型のバイオマーカー、安全性が含まれた。

結果

296 名の患者が無作為化を受けた。12 週目までに喘息のコントロールを失う事象が発生したのは,プラセボ群の 41%に対し,イテペキマブ群では 22%,併用群では 27%,デュピルマブ群では 19%であり,プラセボと比較したオッズ比は,イテペキマブ群では0.42(95%信頼区間[CI],0.20~0.88,P=0.02),併用療法群では0.52(95%CI,0.26~1.06,P=0.07),デュピルマブ群では0.33(95%CI,0.15~0.70)であった.プラセボと比較して,気管支拡張剤使用前の1秒量は,イテペキマブとデュピルマブの単剤療法では増加したが,併用療法では増加しなかった.イテペキマブの投与は,プラセボと比較して,喘息のコントロールとQOLを改善し,平均血中好酸球数のより大きな減少をもたらした。有害事象の発生率は、4つの試験グループすべてで同程度であった。

結論

イテペキマブによるインターロイキン33の阻害は,中等症から重症の喘息患者において,プラセボと比較して喘息コントロールの喪失を示す事象の発生率が低く,肺機能が改善した.(サノフィ社およびリジェネロン社が資金提供。ClinicalTrials.gov番号はNCT03387852。)

 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

ぜん息について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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