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COPD(慢性閉塞性肺疾患)における3剤併用療法と2剤併用療法の治療効果は血中好酸球数で異なるのか

[2019.08.11]

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は少しずつ息切れが進行していく慢性疾患であるとともに、風邪などを契機に増悪(発作)を来す病気です。COPD増悪時には、息切れや咳の悪化、喘鳴(ゼーゼー)の出現などで外来治療、重症の場合には入院治療が必要となります。そのため、COPDに対する普段(安定期)の治療の目的には、咳や息切れといった普段から認める症状の軽減だけではなく、増悪の予防が含まれます。

 

COPDに使用できる吸入薬には、長時間作用型吸入抗ムスカリン薬(LAMA)、長時間作用型吸入β2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド(ICS)の3種類があります。3つともCOPD増悪の予防効果があることは示されていますが、ICSには肺炎リスクがあり使用する患者を選択する必要があります。患者選択する上で有望なマーカーとして血中好酸球数が報告されており、IMPACT試験の前回の論文では、血中好酸球数が150/μL以上ではICSによるCOPD増悪抑制効果が高いと軽く触れられていました。

 

今回のIMPACT試験事後解析では、血中好酸球数にさらに焦点をあてて増悪抑制効果を調査しています。

その結果、ICSを含まない治療では血中好酸球が増加するにつれ増悪率は次第に上昇していくのに対し、ICSを含む治療では血中好酸球が増加していっても増悪率はほとんど変わりせんでした。つまり、血中好酸球数が増加するに伴って、ICSのCOPD増悪抑制効果は次第に高くなっていくという連続的な関係にあることが分かりました。

 

さらに、現在の喫煙状況の影響も調査しています。過去に喫煙していたCOPD患者さんと現在も喫煙しているCOPD患者さんではICS治療効果に差があり、同じ血中好酸球数でも、現喫煙者では喫煙者よりもICSの効果が低下していました。

 

LAMA+LABA+ICS(テリルジー®)とLAMA+LABA(アノーロ®)を比較すると、血中好酸球数がおよそ100/μL未満の場合は増悪抑制効果にほとんど違いはありませんでした。しかし、100を超えると次第にその効果の差が広がっていくので、LAMA+LABA+ICSの方が有用と考えられます。

 

IMPACT試験は登録症例数が計1万人を超える大規模な試験であり、第3相試験の中でもエビデンスレベルが高い研究と考えられます。まず個々のCOPD患者さんでそれまでの増悪歴や重症度などを評価した上で、血中好酸球が100未満であればICS使用を控え、血中好酸球が100を超えていればICS追加を考慮し、300を超えていれば積極的にICS追加するという治療方針になろうかと思います。そして現喫煙者ではその好酸球数の基準を厳しくする必要があります。

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)における3剤併用療法と2剤併用療法の治療効果は血中好酸球数で異なるのか:IMPACT試験の分析

Lancet Respir Med 2019
Published Online
July 4, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30190-0

サマリー

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において吸入コルチコステロイド(ICS)を含む治療法によるCOPD増悪率の低下と治療前の血中好酸球数との関連性を既存の研究で強調されてきています。1日1回の単回吸入による3剤併用療法が2剤併用療法よりもCOPD増悪を有意に減少させることがIMPACT試験で示されました。血中好酸球数および喫煙の有無は、ICSに対する治療効果に影響を与え得る重要な因子と考えられる。血中好酸球と喫煙との関連および相互作用(喘息増悪以外の結果を含む)をモデル化することを本研究の目的とした。

方法

IMPACT試験は、2剤吸入療法(フルチカゾンフロエート+ビランテロールまたはウメクリジニウム+ビランテロール)と3剤吸入療法(フルチカゾンフロエート+ウメクリジニウム+ビランテロール)を比較した52週間の第3相、無作為化、二重盲検、並行群間グローバル試験でした。ビランテロール)。中等症から最重症のCOPDであって、前年に少なくとも1回の中等症または重症のCOPD増悪をきたした患者が登録適格でした。変数変換し、血中好酸球数を連続してモデル化した。中等症および重症の増悪、重症の増悪、および肺炎の数に対して負の二項回帰を使用した。反復測定の混合効果モデルを使用して、FEV1最低値、St George呼吸質問票(SGRQ)の合計スコア、および息切れ評価指数(TDI)における52週目の違いをモデル化した。 IMPACT試験はClinicalTrials.gov、番号NCT02164513に登録された。

結果

ICSを含まない長時間作用型気管支拡張薬併用療法(ウメクリジニウム – ビランテロールn = 2070)と比較して、ICSを含む治療法(フルチカゾンフロエート – ウメクリジニウム – ビランテロールn = 4151と、フルチカゾンフロエート – ビランテロールn = 4134)により、血中好酸球数が増えれば増えるほど中等症および重症のCOPD増悪が減少し、その治療効果は増強された。ウメクリジニウム+ビランテロール併用療法に対して3剤併用療法による中等症および重症の増悪率の比は、血中好酸球数が90/μL未満では0.88(95%CI 0.74~1.04)であり、310/μL以上では0.56(0•47~0.66)であった。フルチカゾンフロエート+ビランテロールとウメクリジニウム+ビランテロールによる増悪率の比はそれぞれ1.09(0.91~1.29)と0.56(0.47~0.66)であった。同様の結果が一秒量および息切れ評価指数(TDI)、SGRQ合計スコアについても観察された。しかしながら、一秒量と好酸球数との関連性はそれほど顕著ではなかった。血中好酸球数が90/μL未満および310/μL以上では、3剤併用療法とウメクリジニウム+ビランテロール併用療法治療による最低一秒量の差はそれぞれ40mL(95%CI 10〜70)と60mL(20〜100)でした。息切れ評価指数はそれぞれ−0•01(−0.68~0.66)および0.30(−0.37~0.97)、SGRQ合計スコアはそれぞれ-0.01(−1.81から1.78)および−2.78(−4.64〜-0.92)であった。中等症または重症の増悪、息切れ評価指数、一秒量において、観察されていた治療効果と血中好酸球数との関係性は喫煙の有無で変化した。つまりどの好酸球数レベルでも既喫煙者は現喫煙者よりもICS治療に敏感に反応した。

解釈

IMPACT試験の今回の解析により、血中好酸球数と喫煙状態を評価すると、増悪歴のあるCOPD患者に対してICSを最適に臨床使用できる可能性が示された。

資金提供:グラクソスミスクライン

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

COPDについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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