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COPDに長時間作用型気管支拡張薬を2種類併用すると、急性冠症候群(心筋梗塞など)のリスクが1.3倍になる(BMJ誌の報告)

[2021.03.14]

 

現在、COPDの治療薬として3種類の吸入薬が使用されています。作用機序がそれぞれ異なり、LAMA(長時間作用型吸入ムスカリン拮抗薬)、LABA(長時間作用型吸入β2作動薬)、ICS(吸入ステロイド薬)と略語で呼ばれます。その中でも、長時間作用型気管支拡張剤であるLAMAとLABAがCOPD治療の主役です。

 

COPDの世界的なガイドライン(GOLD)では、1種類の長時間作用型気管支拡張剤で症状を十分にコントロールできない場合に、LAMAとLABAの併用が推奨されています。また、米国胸部学会(ATS)の診療ガイドラインでも息切れや運動能低下のある患者には単剤療法ではなく、LAMAとLABAの併用が強く推奨されています。

 

しかし、長時間作用型気管支拡張薬をCOPD患者に使用することにより、狭心症や心筋梗塞など急性冠動脈イベントのリスクをさらに高めるのではないかということが以前から言われていました。

 

これらの長時間作用型気管支拡張薬が承認されるにあたり、無作為化比較試験(RCT)が行われ、安全性について評価されています。しかし、臨床試験(治験)は、安全性を主要な評価項目として設計されたものではなく、治療効果を主な評価対象としているため、安全性評価の検出力にが限界があります。特に、心血管系疾患やその他の疾患を既に持っている患者さんは除外され、登録されてません。

 

でも、実地診療(リアルワールド)ではそうではありません。臨床試験では評価されていない、心血管疾患を合併しているようなCOPD患者さんでも、患者さんの症状を良くするためにLAMAとLABAが併用されていると考えられます。そのため、実地と臨床試験では薬を投与される患者さんの特徴が異なり、安全性評価も変わってきます。

 

今回紹介する論文では、LAMAのみ使用した患者さんと比較して、LAMAとLABAを併用した患者さんで急性冠症候群(ACS)のリスクが高いのかを推定するために、ニュージーランドにおいて全国調査を実施しています。

 

その結果、LAMAとLABAの2剤併用療法を行っているCOPD患者では、LAMA単独療法を行っているCOPDを患者と比較して、ACSによる入院や死亡の可能性が約1.3倍高かったのです。長時間作用型気管支拡張薬を2種類使用するメリットとデメリットを十分に考えて、投与すう患者さんを選択しなければなりません。

 

実際の臨床現場において、COPD患者に長時間作用型気管支拡張薬を2種類使用すると、急性冠症候群のリスクが高くなるのか?

Is the use of two versus one long-acting bronchodilator by patients with COPD associated with a higher risk of acute coronary syndrome in real-world clinical practice?

BMJ Open Respiratory Research 2021;8:e000840. 

doi: 10.1136/bmjresp-2020-000840

http://dx.doi.org/10.1136/bmjresp-2020-000840

 

キーメッセージ

現実の臨床現場において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者に長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)と長時間作用型β2作動薬(LABA)の併用すると、 LAMAの単独使用よりも急性冠症候群のリスクが高くなるか?

 

LAMA単独ではなく、LAMAとLABAを併用すると、急性冠症候群のリスクがすでに高い集団であるCOPD患者において、急性冠症候群のリスクが約30%増加する可能性がある。

 

この研究は、長時間作用型気管支拡張薬を2剤もしくは1剤使用することに利益と害が潜在していることを考える医療提供者と患者にとって、重要な意味を持っている。

 

概要

背景

心血管合併症は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者によく見られ、長時間作用型気管支拡張薬(長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)および長時間作用型β2作動薬(LABA))を使用すると、急性冠動脈イベントのリスクがさらに高まる可能性が懸念される。 実際の臨床現場の設定において、急性冠症候群(ACS)リスクに対して治療を強化した際の影響に関する情報は限られている。 LAMA単剤の使用者と比較して、LAMAとLABAの両剤の使用者において、ACSのリスクを推定するために、全国でネステッドケースコントロール研究を実施した。

 

方法

定期的に収集されていた国民健康および医薬品調剤データを使用して、COPDに対し2006年2月1日から2013年12月30日までに長時間作用型気管支拡張剤を開始した45歳以上の患者コホートを確立した。退院記録と死亡記録を使用して、致死的なACSイベントと非致死的なACSイベントを特定した。 ケースごとにリスクセットサンプリングを使用して、生年月日、性別、コホート登録の日付(最初のLAMAおよび/またはLABAの調剤)、COPDの重症度が一致する最大10例のコントロールをランダムに選択した。

 

結果

コホート(n = 83,417)から、281,292人年の追跡期間中に5,399例のACS症例を特定した。 LAMA使用中の患者と比較して、LAMAとLABAの2剤使用中の患者でACSのリスクが高かった(OR 1.28(95%CI 1.13から1.44))。 致死的な症例に限定した解析では、ORは1.46(95%CI 1.12〜1.91)であった。

 

結論

実際の臨床現場では、COPD患者が1剤と比較して2剤の長時間作用型気管支拡張薬を使用すると、ACSのリスクが高くなる。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

COPDについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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