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BioNTechとファイザーによる新型コロナウイルスワクチンの詳細なデータがNEJM誌より発表

[2020.12.13]

BioNTechとファイザー社による新型コロナウイルスワクチンの接種がイギリスで始まりました。ワクチンの有効率は95%だという報道がなされていましたが、詳細なデータは今まで明らかにされていませんでした。

 

今回、12月10日号のNEJM誌において、ファイザー社のワクチンの臨床研究論文が発表されましたので、紹介したいと思います。

 

まずは同日号のNEJM誌のEDITORIAL(論説)を抜粋して翻訳、解説を加えます。

なお、2020/12/28 日本感染症学会が「COVID-19ワクチンに関する提言」を出していますので、こちらも参照してください。

 

DEC 10, 2020

SARS-CoV-2 Vaccination — An Ounce (Actually, Much Less) of Prevention 

新型コロナウイルスワクチン:1オンス(実際はもっとすくない)の予防

Rubin E.J. and Longo D.L.

10.1056/NEJMe2034717

 

「BNT162b2というワクチンは、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質の一つをコードする改変RNAであり、中和抗体反応を誘導できるような構造にタンパク質を固定するような変異を含んでいる。早期臨床試験では体液性免疫と細胞性免疫の両方を誘導できることが示されていたが、これらの反応が症状のある感染症を防止するかは今までわかっていなかった。」

 

 

⇨今回のワクチンは今までのワクチンとは全く製法が異なります。新型コロナウイルスの遺伝子情報をもとに、ウイルスの表面にあるトゲ(spike)のみの遺伝子(mRNA)を作成します。mRNAを油でできたカプセルに包み、ヒトに接種すると、mRNAの情報通りにヒトの細胞がウイルスのトゲの部分のみ作成し、細胞表面に提示します。それをヒトの免疫細胞が認識し、トゲに対する抗体を作ります。そして、本物のウイルスが入ってきたときに、ウイルス表面にあるトゲを抗体がブロックし、ウイルスがヒト細胞に感染できなくするのです。従来のワクチンは、実験室レベルで増殖させたウイルスを弱毒化または不活性化させたものでした。mRNA技術で作成された今回のワクチンは歴史上初めてです。

 

「この試験では、21,720名の参加者にBNT162b2を投与し、21,728名にプラセボ(偽薬)を投与した。両群とも21日間隔で2回の注射を受けた。肥満やその他の併存疾患を持つ人が多く、参加者の40%以上が55歳以上であった。その後、Covid-19と一致する症状が出現した場合には、治験施設に参加者は通知し、診断するための検査を受けた。有害事象があれば、参加者は毎日の日記に記録することになっていた。」

 

⇨実際のワクチンを投与された約2万人と、偽薬(生理食塩水)を投与された2万人とで、どちらがCovid-19に発症しやすいかを比較しています。

 

「結果はimpressive(素晴らしいもの)でした。一次解析では、Covid-19の発症はワクチン接種群では8例のみであり、プラセボ群では162例であった。全体の有効率は95%であった(95%信頼区間は90.3~97.6%)。ーーー有害事象はワクチンの反応原性とほぼ一致しており、注射部位の痛みや発赤など主に一過性の軽い局所反応であった。発熱、疲労、リンパ節腫脹などの全身反応はまれであった。」

 

⇨ワクチンを受けないと162人発症するが、ワクチンを受ければ8人しか発症しないということは、162−8=154人の発症をワクチンが予防したことになります。154÷162×100=95%の効果という計算のようです。

 

「ただし、多少の問題はある。重症Covid-19の症例数(ワクチン群で1例、プラセボ群で9例)が少ないため、ワクチン接種者において稀に生じる症例が実際にはもっと重症であった可能性を否定できない。現実的な理由から、試験参加者が症状を報告し、検査のために来院してくれることが研究の前提である。ワクチン接種者では反応原性がより普通にあるため、軽い症状がでてもCovid-19によるものであると考える傾向が弱く、検査を受けに来院することが少なかった可能性がある。また、無症状感染者の発生率(ワクチンの成分ではないウイルス核タンパク質への血清転換によって測定される)などの重要なデータはまだ報告されていない。」

 

⇨ワクチン接種者は注射した腕が赤くなったり腫れたりしやすいので、偽薬(生理食塩水)ではないだろうと自分で判断してしまう人がいたのではないでしょうか。軽い症状がでても、自分は腕が反応していたから重症にはならないと思って、連絡しない人がいたかもしれないということだと思います。また、感染していても症状がない人はカウントされていません。

 

「ほとんどのワクチンは開発に何十年もかかっているが、このワクチンは構想から大規模な接種に移るまで1年以内である可能性が高い。ワクチンの設計に必要な特定のRNA配列の開発につながったウイルスの配列は、2020年1月に中国疾病管理予防センターが決定し公開するまで知られていなかった。データを共有し、基礎となる手法を開発し、ワクチン生成につなげた科学者に対して、健康上の緊急事態の中で質の高い作業を行った臨床試験担当者に対して、試験へ参加した何千人ものボランティアに対して、そしてワクチンの性能基準を作り市場へ提供することを支援した政府に対して、多くの賞賛の声が寄せられている。これらは、現在開発中の他の多くのCovid-19ワクチン(そのうちのいくつかはすでに第3相試験を終了)のひな形となっている。」

 

⇨今回のmRNAワクチンが成功すれば、今後のワクチンの標準になるのではないでしょうか。今後どんなウイルスが出現しても、ウイルスの遺伝子配列さえ分かれば、1年以内にワクチンが作れる時代になるのかもしれません。

 

「もちろん重要な疑問も残っている。このワクチンを受けた人は約2万人に過ぎない。この数が数百万人、場合によっては数十億人に増えたとき、予期せぬ安全性の問題が生じるのか?より長い追跡調査で副作用は発生するのか?2回の接種が必要なワクチンの実施は困難をともなう。2回目の接種をできない人が多数でることが予想されるが、その人達はどうなるのか?ワクチンの効果はどのくらい持続するのか?ワクチンは無症状感染も予防し、感染伝播を抑えることができるのか?また、この試験に参加していない子供、妊婦、様々な免疫不全患者などはどうなのか?」

 

⇨今回報告された95%という効果は、2回とも接種した参加者での数字です。論文の本文(Results)には次のような記述があります。“1回目の投与から2回目の投与までの間に、BNT162b2群で39例、プラセボ群で82例のCovid-19症例が観察され、この間隔でのワクチン有効率は52%(95%CI、29.5~68.4)となる。”

 

2021/1/6付で米国疾病予防管理センター(CDC)が発表したところによると、2020/12/14-23にファイザー社のCOVID-19ワクチンが189万人に接種され、21例(11.1例/100万回)がアナフィラキシーと診断されたようです。21例中15例(71%)がワクチン投与から15分以内にアナフィラキシー症状が発現しました。(2021/1/11に補足のため追記しました)

 

 

⇨このグラフを見ると、1回目のワクチン投与から12日後くらいから、Covid-19の発症率に差がでてくるようです。

 

「ワクチンの製造と配送といった物流上の課題は難しいままである。特に、このワクチンは-70℃での保管が必要であり、地域によっては展開が制限される可能性がある。とはいえ、これまでに実証されたこのワクチンの驚くべき安全性と有効性は、この問題をなんとか解決するべきである。ワクチン接種の劇的な成功は、数え切れないほどの命を救い、世界的な災害に見舞われている状況から抜け出す道筋を与えてくれると期待されている。」

 

次に、論文要旨を翻訳します。

新型コロナウイルスワクチンの安全性と有効性

Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine

December 10, 2020
DOI: 10.1056/NEJMoa2034577

抄録

背景

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染によるCovid-19は、世界的なパンデミックで数千万人の人々を苦しめている。安全で効果的なワクチンが緊急に必要とされている。

方法

現在進行中の多国籍、プラセボ対照、オブザーバー盲検、重要な有効性試験において、16 歳以上の参加者を 1:1 の割合で無作為に割り付け、プラセボまたは BNT162b2 ワクチン候補(1 回量あたり 30 μg)を 21 日間隔で 2 回投与しました。BNT162b2は、脂質ナノ粒子で形成されたヌクレオシド修飾RNAワクチンであり、前溶解し安定化された、SARS-CoV-2の膜固定型スパイク蛋白の完全長をコードしている。主要評価項目は、実験室で確認されたCovid-19に対するワクチンの有効性と安全性であった。

結果

合計43,548人の参加者が無作為化を受け、そのうち43,448人が注射を受けた。BNT162b2投与群が21,720例、プラセボ投与群が21,728例であった。2回目の投与から7日以上経ってから発症したCOVID-19の症例は、BNT162b2投与群では8例、プラセボ投与群では162例であった。すなわり、BNT162b2はCOVID-19の予防に95%の効果を示した(95%信頼区間、90.3~97.6)。年齢、性別、人種、民族、ベースラインの肥満度、および併存疾患の有無によって定義したサブグループにおいても、同様のワクチン効果(概して90~100%)が観察されました。初回投与後に発症した重篤なCOVID-19症例の10例のうち、9例はプラセボ群に、1例はBNT162b2群に発生した。BNT162b2の安全性プロファイルは、短期的で軽度から中等度の注射部位の痛み、疲労、頭痛を特徴とした。重篤な有害事象の発生率は低く、ワクチン群とプラセボ群で同程度であった。

結論

BNT162b2の2回投与法は、16歳以上の人においてCOVID-19に対して95%の予防効果をもたらした。中央値2ヶ月間での安全性は、他のウイルスワクチンと同様であった。(BioNTechとファイザーの資金提供あり; ClinicalTrials.gov番号、NCT04368728)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

新型コロナについても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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