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COPDとは言えないPRISm(=一秒率正常かつ一秒量低下)でもフレイルは進行する(CHEST誌より)

[2023.09.06]

院長による概説

COPD(慢性閉塞性肺疾患)とPRISmのついて、下記ブログで詳しく説明しましたので、ここでは簡潔に説明します。

COPDとは言えないPRISm(=一秒率正常かつ一秒量低下)を疾患として認めるべきか(AJRCCM誌より日本人データ)(2022.11.06更新)

COPDを診断するためには「気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで一秒率(FEV1/FVC)が70%未満」である必要があります。しかし、この基準は、COPDの国際的な指針であるGOLD(Global Initiative on Obstructive Lung Disease)が簡潔明瞭な基準を作るために、“えいやっと”ばかりに決めたものであり、一部の閉塞性肺障害を認識できない場合があります。その中にはPRISmという病態が含まれており、一秒率が正常なためCOPDの基準には該当しないが、一秒量が基準値より低下しているという特徴があります。最近、PRISmに関する研究が注目されています。

今回紹介する論文では、PRISmと「フレイル」との関連性に焦点を当てて調査されています。フレイルとは、「加齢とともに心身の活力が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態」(厚生労働省)を指します。体重減少、疲れやすさ、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下のうち3項目以上該当すればフレイルと判断します。健常者とPRISm患者を長期にわたり追跡したところ、PRISm患者の方がフレイルになる可能性が高いことが示されました。したがって、COPDに該当しなくても、PRISmに該当する場合、積極的な追跡と管理が必要です。

 

PRISmとCOPDはフレイルの進行を促進する: 前向きコホート研究によるエビデンス

Preserved Ratio Impaired Spirometry and COPD Accelerate Frailty Progression: Evidence From a Prospective Cohort Study

Chest . 2023 Jul 26;S0012-3692(23)01055-3. 

DOI: 10.1016/j.chest.2023.07.020

要旨

背景 

COPDはフレイル(虚弱)と関連していることが判明している。しかし、COPDとフレイルの進行に関する縦断的なエビデンスは不十分である。さらに最近の研究で、肺機能障害の新たな表現型であるPRISm(preserved ratio impaired spirometry)の所見が明らかになった。PRISm所見やその推移と虚弱の進行との関連は不明である。

研究課題:

PRISm所見、PRISm所見の遷移、COPDとフレイル進行との関連は?

研究デザインと方法 :

PRISm所見およびCOPDと虚弱進行との関連を解析するため、English Longitudinal Study of Ageingから5,901人の患者を対象とした。患者は、正常スパイロメトリー所見(NS)、PRISm所見、COPDの3つの肺機能パターンに分類された。フレイルの進行は、追跡期間中にフレイル指数(FI)を繰り返し測定することで評価した。これら5,901例のうち、3,765例がPRISm所見の推移とフレイル進行との関連を解析するために組み入れられた。PRISm所見の推移は、4年後の肺機能パターンの変化に基づいて評価した。統計解析には線形混合効果モデルを用いた。

結果:

追跡期間の中央値は、PRISm所見とCOPDによるフレイル進行の解析では9.5年、PRISm所見の移行によるフレイル進行の解析では5.8年であった。正常所見の参加者と比較すると、PRISm所見とCOPDを有する患者は、1年毎にそれぞれ0.301(95%信頼区間、0.211-0.392;P<0.001)および0.172(95%信頼区間、0.102-0.242;P<0.001)ポイントずつフレイル指数が加速的に増加した。正常所見からPRISm所見に移行した患者も、正常肺機能で安定している患者と比較して、フレイル指数が加速的に進行した(β = 0.242; 95%CI、0.008-0.476; P = 0.042)。しかし、正常所見に移行したPRISm所見の患者では、フレイル指数進行の加速は認められなかった(β = 0.119; 95%CI、-0.181~0.418; P = 0.438)。

解釈 

今回の所見から、PRISm所見とCOPDはフレイル進行の加速に関連することが示された。PRISm所見およびCOPDとフレイルとの関連の因果関係を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

 

持ち帰りポイント

研究課題 

PRISm(preserved ratio impaired spirometry)所見、PRISm所見の遷移、COPDとフレイル進行との関連は?

結果 

PRISm所見とCOPDを有する患者は、スパイロメトリー所見が正常な患者と比較して、フレイル進行が加速している。また、正常所見からPRISm所見に移行した人はフレイルの進行が加速したが、PRISm所見から正常所見に移行した人は、肺機能所見が安定している人と比較して、フレイルの進行は同程度であった。

解釈 

今回の結果より、PRISm所見とCOPDはフレイル進行の加速に関連することが示された。PRISm所見およびCOPDとフレイルとの関連の因果関係を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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