COVID-19の制限解除により、喘息増悪がリバウンドしている(Thorax誌より英国の報告)
院長による概説
日本では今年の5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症となり、それに伴いマスク着用の緩和やコンサート開催、スポーツでの声出し応援などが解禁されました。いつまでも2類感染症のままにしておく訳にはいかない感染症であることは確かであり、5類変更そのものに反対するわけではありません。私自身も日々診療を行っていて、5類に変更されてからの変化として実感しているのは、COVID-19の増加だけでなく、他の上気道感染症の増加もあります。ヘルパンギーナやRSウイルス、インフルエンザウイルスなど、コロナ禍の3年間で抑えられていたウイルスが一気に活動を再開したように思われます。コロナ禍の行動制限のおかげで、新型コロナウイルスだけでなく、すべてのウイルスが抑えられていたことが分かります。
喘息は普段は症状が出ないため、自分が喘息だということを忘れてしまう患者さんも多い疾患です。しかし、風邪などの急性呼吸器感染症にかかると、喘息が増悪(発作)することがあり、咳が止まらなくなったり、ゼーゼー(喘鳴)するようになります。喘息の増悪は最悪の場合、命にかかわることもあるため、日頃から喘息治療を継続し、ウイルス感染を予防することが重要です。
5類に変更されてから、私自身呼吸器内科医として実感していることは、喘息が増悪した患者の増加です。以前から風邪が増えたのかと漠然と考えていたのですが、今回紹介する論文でそれが証明されています。英国では日本より1年早く行動制限が解除され、それによって社会生活が拡大されました。その結果、COVID-19と他の急性呼吸器感染症が増加し、それに伴い喘息増悪の患者数も増加していることが分かります(下図参照)。喘息増悪と急性呼吸器感染症の関連性は直接証明されているわけではありませんが、患者数の増加傾向が似ているため、関連があると考えて良さそうです。喘息を持っている人は、コロナが流行するかどうかに関わらず、マスク着用や手洗いなどで風邪を引かないように、注意する必要がありようです。
Rebound in asthma exacerbations following relaxation of COVID-19 restrictions: a longitudinal population-based study (COVIDENCE UK)
(COVID-19制限解除後の喘息増悪のリバウンド:縦断的集団ベース研究)
要旨
背景
COVID-19パンデミックの初期に社会的接触を制限したところ、世界中のさまざまな環境で喘息増悪が減少した。COVID-19の制限緩和後の社会的交流、急性呼吸器感染症(ARI)発症、および喘息増悪の時間的傾向はまだ報告されていない。
研究方法
2020年11月から2022年4月にかけて、英国の成人喘息患者2312人を対象に集団ベースの縦断研究を行った。フェイスマスクの使用、社会的接触、喘息発作、重症喘息増悪の詳細を、毎月のオンラインアンケートで収集した。これらの指標の経時的変化は、ポアソン一般化加法モデルを用いて可視化した。多重レベルロジスティック回帰を用いて、潜在的交絡因子を調整した上で、ARI発症と喘息増悪リスクとの関連を検定した。
結果
2021年4月からのCOVID-19制限緩和は、フェイスカバー使用の減少(p<0.001)、公共の場所や他の家庭への屋内訪問頻度の増加(p<0.001)、COVID-19(p<0.001)、COVID-19以外のARI(p<0.001)、重度の喘息増悪(p=0.007)の発生率の上昇と一致した。非COVID-19型ARIの発症は、SARS-CoV-2のomicron変異体の出現以前(5.89、3.45~10.04)およびそれ以降(5.69、3.89~8.31)のCOVID-19の発症と同様に、喘息増悪のリスク増加と独立して関連していた(調整OR 5.75、95%CI 4.75~6.97)。
結論
COVID-19の制限緩和は、フェイスカバーの使用の減少、社会的接触の増加、ARIおよび喘息増悪のリバウンドと一致した。ARI発症と重症喘息増悪リスクとの関連は、SARS-CoV-2 omicron変種の出現前と出現後の両方において、COVID-19以外のARIとCOVID-19とで同様であった。
このテーマについてすでに知られていること
COVID-19のロックダウンの実施に伴い、喘息の増悪は世界中の様々な環境で減少した。これらの規制を緩和した場合の影響についてはまだ報告されておらず、SARS-CoV-2と他の呼吸器系病原体の喘息増悪リスクに対する相対的影響も不明である。
この研究で追加されたこと
英国の成人喘息患者2312人を対象としたこの集団ベースの縦断的研究により、COVID-19の制限解除は、フェイスカバーの使用の減少、社会的接触の増加、急性呼吸器感染症(ARI)と喘息増悪のリバウンドと一致することが示された。ARI発症と喘息増悪リスクとの関連は、SARS-CoV-2 omicron変異体の出現の前後で、COVID-19以外のARIとCOVID-19とで同様であった。
本研究が研究、実践または政策にどのような影響を与えるか
我々の研究結果は、喘息増悪のリスクを軽減するためにフェイスカバーを使用するなどの介入の可能性を強調し、COVID-19が他のARIよりも喘息増悪を誘発する可能性が有意に高いわけではないことを再確認させるものである。
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)