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BCGワクチンを接種しても、新型コロナウイルス感染の予防にはならない(NEJM誌の報告)

[2023.06.18]

院長による概説

2020年4月、コロナ禍初期の頃、まだ新型コロナウイルスに対するワクチンの開発前、看過できないニュースを読みました。

日本小児科学会と日本ワクチン学会から、0歳児の結核予防のためのBCGワクチンが供給不足になる可能性があるという報告がありました。

最近のBCGワクチンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する報道に関連して~乳児へのBCGワクチンの優先接種のお願い~

日本ワクチン学会ウェブサイト.http://www.jsvac.jp/pdfs/kenkai.pdf

コロナ禍初期では、各国の新型コロナウイルス感染者数は大きく異なりました。BCGワクチンを接種した人々は新型コロナウイルスに感染しにくい可能性があるという仮説が出されました。そのため、多くの人々が仮説を信じ、BCGワクチンを定期接種以外でも受けた結果、定期接種対象の0歳児へのBCGワクチンが不足する事態が発生しました。

現在の2023年においては、新型コロナウイルスは世界中に広がり、BCGワクチンの接種歴は関係がないことが明らかです。時間の経過により、この仮説はほぼ否定されていますが、真偽を確かめるためには十分な計画が立てられた臨床試験が必要です。今回紹介する論文では、医療従事者を2つのグループに分け、一方にはBCGワクチンを接種し、もう一方にはプラセボ(生理食塩水)を注射した後、6ヶ月間の間にどちらのグループが新型コロナウイルス感染症を発症したかを比較しています。結果は否定的であり、BCGワクチンには新型コロナウイルス感染予防効果がないことが証明されました。

BCGワクチンには免疫調節作用があり、結核以外の感染症にも効果(オフターゲット効果)があると言われています。しかし、パンデミックなどの災害時には、根拠のない噂や科学的根拠のないもっともらしい仮説が増える傾向があるため、それに惑わされずに真偽を慎重に考え、行動することが重要です。

 

医療従事者における Covid-19 の予防を目的とした BCG ワクチンの無作為化試験

Randomized Trial of BCG Vaccine to Protect against Covid-19 in Health Care Workers

April 27, 2023

N Engl J Med 2023; 388:1582-1596

DOI: 10.1056/NEJMoa2212616

概要

背景

バシル・カルメット・ゲラン(BCG)ワクチンには、コロナウイルス疾患2019(Covid-19)から保護するという仮説がある、免疫調節「オフターゲット」作用がある。

方法

この国際共同二重盲検プラセボ対照試験では、医療従事者をBCG-Denmarkワクチン投与群と生理食塩水プラセボ投与群にランダムに割り付け、12カ月間追跡調査した。主要評価項目である症候性Covid-19および重症Covid-19は6ヵ月後に評価された。主要解析では、修正intention-to-treat集団が用いられ、ベースラインで重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2に対する検査が陰性である参加者に限定された。

結果

合計3988人の参加者が無作為化を受けたが、Covid-19ワクチンの入手が可能になったため、予定サンプル数に達する前に募集を終了した。BCG群1703人、プラセボ群1683人であった。6ヵ月後までの症候性Covid-19の推定リスクは、BCG群で14.7%、プラセボ群で12.3%であった(リスク差、2.4%ポイント;95%信頼区間[CI], -0.7~5.5;P=0.13).6ヵ月後までに重度のCovid-19が発生するリスクは、BCG群で7.6%、プラセボ群で6.5%(リスク差、1.1%ポイント;95%CI、-1.2~3.5;P=0.34)であった。重度のCovid-19の試験定義を満たす参加者の大半は入院はしなかったが、少なくとも連続3日間仕事ができない状態にあることが確認された。より控えめの打ち切りルールを用いた補足解析および感度解析では、リスク差は同様であったが、信頼区間はより狭かった。Covid-19による入院は各群で5件(プラセボ群の死亡1件を含む)であった。プラセボ群と比較したBCG群における何らかのCovid-19エピソードのハザード比は1.23(95% CI, 0.96~1.59 )であった。安全性に関する懸念は確認されなかった。

結論

BCG-Denmarkのワクチン接種により、医療従事者のCovid-19のリスクがプラセボより低くなることはなかった。(ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受け、BRACE臨床試験.gov番号、NCT04327206.)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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