肺がんと診断される前に禁煙していた年数と、死亡率は関連がある(JAMA誌の報告)
院長による概説
肺がんの原因はタバコだけではありません。タバコを吸ったことがない人でも肺がんになる可能性があります。喫煙者の方は、「じゃあ、タバコ吸ってても同じでしょ」と思うかもしれません。しかし、喫煙者の肺がんは非喫煙者の肺がんよりも悪性度が高いことが示唆されています。
今回紹介するコホート研究では、この疑問に答えるために、1992年から2022年の間に米国マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ総合病院で登録された肺がん患者を対象に、喫煙本数と死亡率の関連を調査しました。
調査結果によれば、非小細胞肺がんと診断された元喫煙者と現喫煙者は、非喫煙者と比較して死亡率が高くなることが示されました。具体的には、元喫煙者は非喫煙者と比較して死亡率が26%増加しました(HR、1.26;95%CI、1.13-1.40)。また、現喫煙者は68%増加していました(HR、1.68;95%CI、1.50-1.89)。さらに、肺がんと診断される前に禁煙していた期間が2倍になると、生存期間が有意に改善されていました。
喫煙者の肺がんが本来悪性度が高いのか、喫煙歴が肺がんの治療内容に影響を与えた結果なのかは明確ではありません。しかし、同じ肺がんであっても「タバコを吸っていても同じ」というわけではありません。できるだけ早期に禁煙を始めることが重要です。
Original Investigation Oncology
May 5, 2023
Prediagnosis Smoking Cessation and Overall Survival Among Patients With Non–Small Cell Lung Cancer
非小細胞肺がん患者における診断前の禁煙と全生存率について
JAMA Netw Open. 2023;6(5):e2311966.
doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.11966
キーポイント
疑問点
非小細胞肺がん患者において、診断前の禁煙は全生存期間と関連するか?
調査結果
肺がん生存者の長期追跡コホート研究において、非喫煙者と比較して、元喫煙者は26%、現喫煙者は68%死亡率が高く、診断前の禁煙からの年数を対数変換したものが、元喫煙者の死亡率の有意な低下と関連していた。
意味
これらの結果から、早期に禁煙することは、肺がん診断後の死亡率の低下と関連することが示唆さ れた。そして、喫煙歴と全生存率との関連は、診断時の臨床病期によって異なる可能性があり、潜在的には、診断後に喫煙曝露に関連して治療レジメンや有効性が異なるためであると考えられる。
要旨
重要性
非小細胞肺がん(NSCLC)は肺がん症例の85%を占め、喫煙はそのリスクと最も有意に関連する因子である。しかし、肺がん診断後の全生存期間(OS)と診断前の禁煙年数および累積喫煙量の関連については、ほとんど知られていない。
目的
肺がんサバイバーコホートにおいて、診断前の禁煙からの年数および累積喫煙パック年とNSCLC患者のOSとの関連を特徴付けること。
デザイン、設定、参加者
1992年から2022年の間にマサチューセッツ総合病院(マサチューセッツ州ボストン)のBoston Lung Cancer Survival Cohortに登録されたNSCLC患者を対象としたコホート研究である。患者の喫煙歴とベースラインの臨床病理学的特徴をアンケートで前向きに収集し、肺がん診断後のOSを定期的に更新した。
エクスポージャー(Exposures )
肺がん診断前の禁煙期間。
主要アウトカムと測定法
主要アウトカムは、詳細な喫煙歴と肺がん診断後のOSとの関連であった。
結果
NSCLC患者5594人(平均[SD]年齢65.6[10.8]歳、男性2987人[53.4%])のうち、795人(14.2%)が喫煙歴なし、3308人(59.1%)が既喫煙者、1491人(26.7%)が現喫煙者だった。Cox回帰分析では、元喫煙者は非喫煙者と比較して死亡率が26%高く(ハザード比[HR]、1.26、95%CI、1.13-1.40、P < .001)、現在喫煙者は68%高い(HR、1.68、95%CI、1.50-1.89、P < .001)と考えられた。診断前に禁煙してからの年数を対数変換した値は、既喫煙者における死亡率の有意な低下と関連していた(HR, 0.96; 95% CI, 0.93-0.99; P = 0.003).診断時の臨床病期で層別化したサブグループ解析では、早期病期の患者において、元喫煙者と現喫煙者はOSがさらに短いことが明らかになった。
結論と関連性
NSCLC患者を対象とした本コホート研究において、早期禁煙は肺がん診断後の死亡率の低下と関連し、喫煙歴とOSとの関連は診断時の臨床ステージによって異なる可能性があり、診断後の喫煙歴に関連する治療レジメンと有効性が異なることに起因する可能性がある。肺がんの予後や治療法の選択を改善するために、今後の疫学・臨床研究に詳細な喫煙歴の収集を取り入れる必要がある。
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)