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「酒は百薬の長」とは言えない(JAMA誌よりメタ解析の結果)

[2023.04.30]

「酒は百薬の長」という言葉があります。これは、中国古代の言葉で、適量の酒はどんな薬にも勝る効果があるという意味です。しかし、飲みすぎは健康に悪影響を及ぼすことはよく知られています。「過ぎたるは百薬の長ならず」とも言われます。

適度な飲酒には薬のような効果が本当にあるのでしょうか?それを検証する臨床研究が多数行われており、飲まない人より少量の飲酒がある程度の健康効果があるというデータが出ています。ただし、このような観察研究では様々な偏りがあり、解釈が難しいとされています。

今回紹介する論文では、このような偏りを極力省いた上で、107件の研究をレビューし、メタアナリシスを実施しています。

その結果、適度な飲酒をしている人は、非飲酒者と中程度飲酒者の両群と比べて、若干死亡リスクが高かったものの、有意な差は見られませんでした(非飲酒者のリスク比は1.04、95%信頼区間は0.94-1.16、P値は0.44、中程度飲酒者のリスク比は1.09、95%信頼区間は0.96-1.25、P値は0.19)。

しかし、多量飲酒や大量飲酒をしている人では、有意な死亡リスクの上昇が見られました(多量飲酒者のリスク比は1.24、95%信頼区間は1.07-1.44、P値は0.004、大量飲酒者のリスク比は1.41、95%信頼区間は1.23-1.61、P値は0.001)。

つまり、適度な飲酒は「百薬の長」とは言えないが、過度の飲酒は確実に命を縮めると言えます。

Association Between Daily Alcohol Intake and Risk of All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-analyses

JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e236185. 

DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.6185

キーポイント

クエスチョン  

一日当たりの平均アルコール摂取量と全死亡率の関連は?

所見  

480万人以上が参加した107件のコホート研究のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、研究コホートの年齢中央値や性別などの主要な研究特性で調整しても、1日あたりのエタノール摂取量が25g未満(生涯非飲酒者と比較してカナダ標準酒2杯程度)の飲酒者における全死亡リスクの有意な減少を認めなかった。1日25g以上飲む女性の飲酒者、1日45g以上飲む男性の飲酒者では、全死亡のリスクが有意に増加した。

意味  

少量のアルコール飲用は、すべての原因による死亡に対する予防とは関連していなかった。

 

要旨

重要性  

アルコール使用と全死亡の関連について以前に行われたメタ分析では、生涯非飲酒者と比較して、低レベルの消費量では死亡リスクの統計的有意な低下は認められなかった。しかし、そのリスク推定値は、当時利用可能だった研究の数と質、特に女性や 若年コホートに関する研究の数によって影響を受けた可能性がある。

目的  

アルコール使用と全死亡の関連を調査し、バイアスの要因がどのように結果を変化させるかを調べる。

データソース  

1980年1月から2021年7月までに発表された研究を特定するため、PubMedとWeb of Scienceの系統的検索を行った。

研究選択  

禁酒者と飲酒者の区別に影響するバイアスを一定程度コントロールした研究とそうでない研究の比較を容易にするため、システマティックレビューによりコホート研究を特定した。このレビューでは、1980年から2021年7月までに発表されたアルコール使用と全死因死亡率に関する107の研究を特定した。

データ抽出と合成  

混合線形回帰モデルを用いて相対リスクをモデル化し、まず全研究についてプールし、次にコホート中央値年齢(56歳未満 vs 56歳以上)および性別(男性 vs 女性)で層別化した。データの解析期間は2021年9月~2022年8月とした。

主なアウトカムと指標 

 1日平均アルコール摂取量と全死亡の関連についての相対リスク推定値。

結果  

解析のために107のコホート研究(4 ,838 825人の参加者と425 564人の死亡が確認できた)から、アルコール摂取による全死亡のリスク推定値が724件あった。サンプリングのばらつき、過去に飲酒したことのある人のバイアス、その他事前に指定した研究レベルの品質基準による潜在的な交絡効果を調整したモデルにおいて、対象となった全107件の研究のメタ分析では、機会的飲酒(>0~<1. 3g/日;相対リスク[RR]、0.96;95%CI、0.86-1.06;P = .41)または少量飲酒者(1.3-24.0g/日;RR、0.93;P = .07)には生涯非飲酒者と比べ、全死亡リスクの有意な低下は認められなかった。

完全調整モデルでは、1日あたり25~44gの飲酒者では全死亡リスクが非有意に増加し(RR, 1.05; P = .28)、1日あたり45~64gおよび65g以上の飲酒者ではリスクが有意に増加した(RR, 1.19 および 1.35; P < .001)。女性の生涯非飲酒者と比較して、女性の飲酒者の死亡リスクは有意に大きかった(RR, 1.22; P = .03)。

結論と関連性  

今回更新されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、1日の低・中程度のアルコール摂取量は全死亡リスクと有意な関連はなかったが、リスク増加は摂取レベルが高いほど顕著で、男性より女性の方が低いレベルから始まっていた。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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