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ヒドロコルチゾン(ステロイドホルモン)を投与することで、重症市中肺炎の死亡率が低下する(NEJM誌よりフランスの報告)

[2023.03.26]

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)にともなう肺炎の治療で脚光を浴びたステロイドホルモン剤は、実は10年以上前から重症肺炎(細菌性を含む)に有効ではないかと言われてきました。ウイルス性に限らず細菌性肺炎においても、ウイルスや細菌に対する免疫反応として、肺および全身に激しい炎症を引き起こし、ガス交換障害、敗血症、臓器不全を引き起こし、死亡リスクが高まると考えられています。

グルココルチコイド(ステロイドホルモン剤)は強力な抗炎症作用と免疫調節作用を有しており、肺炎の転帰を改善させるかどうか検証する複数のランダム化比較試験がすでに実施されています。その結果、グルココルチコイドは様々な重症度の市中肺炎患者において好ましい効果を示しました。しかし、1つの試験を除いて、グルココルチコイドは死亡率に関して効果を示すことができず、病状安定までの期間と入院期間を短縮することしか示せていませんでした。

今回紹介する論文では、重症の市中肺炎の死亡率を主要評価項目として、ヒドロコルチゾンの効果を検証しています。

研究参加患者には、抗菌薬や支持療法などの重症市中肺炎に対する最新の標準的治療が行われ、人工呼吸器の適応は医療チームの裁量に任されました。ヒドロコルチゾン投与群では、重症度基準のいずれかに該当してから24時間以内に、ヒドロコルチゾンを1日あたり200mgの用量で最初の4日間に静脈内持続投与されました。投与4日目に医療チームがあらかじめ設定した基準で患者の状態が改善したを判定し、ヒドロコルチゾンを合計8日間または14日間投与するかどうかを決定しました。治療期間にかかわらず、ヒドロコルチゾンの投与量は、あらかじめ定められた計画に従って徐々に漸減されました。対照群の患者には、ヒドロコルチゾン群と同じレジメンに従い、プラセボ(生理食塩水)が静脈内投与されました。

その結果、登録後28日目までにヒドロコルチゾン群では400人中25人(6.2%;95%信頼区間[CI],3.9~8.6)が死亡し、プラセボ群では395人中47人(11.9%;95% CI,8.7~15.1) が死亡しました(絶対差,-5.6%ポイント;95% CI,-9.6~-1.7;P=0.006 )。つまり、ヒドロコルチゾンは重症市中肺炎の死亡率を半減させる効果(約12%から約6%)があることになります。

なぜ、死亡率が低下するのでしょうか。

副次評価項目の結果はみると、下図のようにプラセボ群では登録時に人工呼吸を使用していない患者が、ヒドロコルチゾン群よりも研究参加後に人工呼吸が導入される割合が多いことが分かります。グラフの傾きを見ると分かるように、最初の1週間で両群に差が付き、その後28日後までその差は変わりません。つまり、ヒドロコルチゾンを標準的な肺炎治療に追加することで、最初の1週間の呼吸不全進行を予防し、それが死亡率の改善につながっていることが想定されるわけです。

重症市中肺炎におけるヒドロコルチゾン

Hydrocortisone in Severe Community-Acquired Pneumonia

March 21, 2023

DOI: 10.1056/NEJMoa2215145

要旨

背景

グルココルチコイドの抗炎症作用や免疫調節作用が、重症の市中肺炎患者の死亡率を低下させるかどうかは不明である。

方法

この第3相多施設共同二重盲検ランダム化比較試験において、重症の市中肺炎で集中治療室(ICU)に入院した成人を、ヒドロコルチゾンの静脈内投与(200mg/日を4日間または8日間を臨床的な改善により決定し、その後8日間または14日間漸減する)またはプラセボ投与に割り付けた。すべての患者は、抗菌薬と支持療法などの標準療法を受けた。主要評価項目は、28日後の死亡であった。

結果

計画された2回目の中間解析の後に試験が中止され、その時点で合計800人の患者が無作為化を受けていた。795人の患者のデータが分析された。28日目までに,ヒドロコルチゾン群では400人中25人(6.2%;95%信頼区間[CI],3.9~8.6)で,プラセボ群では395人中47人(11.9%;95% CI,8.7~15.1) で死亡した(絶対差,-5.6%ポイント;95% CI,-9.6~-1.7;P=0.006 ).ベースライン時に人工呼吸を受けていなかった患者において,気管内挿管が行われたのは,ヒドロコルチゾン群では222例中40例(18.0%),プラセボ群では220例中65例(29.5%)だった(ハザード比,0.59;95% CI,0.40~0.86 ).ベースライン時に昇圧剤を投与されていなかった患者において,28日目までに昇圧剤が投与開始されたのは,ヒドロコルチゾン群では359例中55例(15.3%),プラセボ群では344例中86例(25.0%)だった(ハザード比,0.59;95% CI,0.43~0.82 ).院内感染および消化管出血の頻度は両群で同様であった。ヒドロコルチゾン群の患者は、治療開始後1週間はインスリンの1日投与量が多くなっていた。

結論

ICUで治療中の重症市中肺炎患者において、ヒドロコルチゾン投与群はプラセボ投与群に比べ、28日目までに死亡するリスクが低いことが示されました。(フランス保健省の助成を受け、CAPE COD ClinicalTrials.gov 番号、NCT02517489)

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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