IA期末梢性非小細胞肺癌に対しては、縮小切除術で十分か(NEJM誌より海外データ)
薬物療法の進歩した現代でも、肺がんを根治させるには早期発見および手術にかなう治療法はありません。それは何十年も前から変わりない基本的な診療方針です。肺がんに対する標準的な手術は、肺葉切除+所属リンパ節の郭清(右肺の場合は1/3、左肺であれば1/2を切除する方法)です。患者さんがもつ手術前の肺機能がどの程度にもよりますが、切除する肺が大きいと、術後に肺機能が低下し、患者さんによっては息切れなど日常生活に影響を及ぼすことになります。
しかし、最近はCTの解像度など画像技術が進歩し、CT機器やCT検診が普及したこともあり、昔より小さな肺がんが見つかるようになりました。胸部X線写真では見えない、CTでしか分からないような小さな肺がんに対して、昔ながらの肺葉切除が必要なのかという疑問がでてきました。
昨年(2022年)の4月のLANCET誌に日本から、重要な研究結果が発表されましたDOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02333-3。
腫瘍径2cm以下の臨床病期IA期の非小細胞肺がん患者を対象に、肺葉切除術と解剖学的区域切除術を比較した大規模ランダム化試験(JCOG0802)を行ったところ、中央値約7年の追跡の結果、肺区域切除術は肺葉切除術より全生存期間(主要評価項目)で優位、無再発生存期間で非劣性でした。つまり、切除する肺を小さくした区域切除の方が、生存期間が延長される可能性が示唆されたのです。
今回紹介する論文では、米国、カナダ、オーストラリアの病院における腫瘍径2cm以下の臨床病期IA期の非小細胞肺がん患者において、肺縮小切除術(楔状切除術または区域切除術)と肺葉切除術を比較した国際無作為化試験の結果を報告しています。日本の研究では区域切除のみでしたが、本試験ではさらに小さく切除する楔状切除術も含まれています。実際、縮小切除に割り付けられた340人のうち、201人(59.1%)が楔状切除を受け、129人(37.9%)が区域切除を受けたようです。その術式の差が関連あるかどうかわかりませんが、本試験では全生存率は両群で同等でした。今回の研究結果は、肺癌診療ガイドライン2022ですでに反映されており、詳しくはこちらを参照してください。
CQ3.臨床病期ⅠA1-2期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する適切な術式は何か?https://www.haigan.gr.jp/guideline/2022/1/2/220102010100.html#cq2
IA期末梢性非小細胞肺癌に対する肺葉切除術または縮小切除術
Lobar or Sublobar Resection for Peripheral Stage IA Non–Small-Cell Lung Cancer
N Engl J Med 2023; 388:489-498
DOI: 10.1056/NEJMoa2212083
概要
背景
小型の末梢型非小細胞肺癌(NSCLC)の発見が増加したことにより、肺葉切除術に代わる縮小切除術への関心が高まっている。
方法
臨床病期がT1aN0(腫瘍径2cm以下)のNSCLC患者を対象に、術中にリンパ節転移陰性の確認後、肺縮小切除と肺葉切除にランダムに割り付ける多施設共同非劣性第3相試験を実施した。主要評価項目は無病生存期間であり、無作為化から疾患の再発またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次的評価項目は、全生存期間、局所および全身再発、肺機能であった。
結果
2007年6月から2017年3月までに,合計697人の患者が,肺縮小切除術(340人)または肺葉切除術(357人)を受けるように割り付けられた。中央値7年の追跡の結果,無病生存期間において,肺縮小切除術は肺葉切除術に対して非劣性であった(疾患再発または死亡のハザード比,1.01;90%信頼区間[CI],0.83 ~ 1.24)。また、肺縮小切除後の全生存率は肺葉切除後と同程度であった(死亡のハザード比、0.95;95%CI、0.72~1.26)。5年無病生存率は、肺縮小切除術では63.6%(95%CI、57.9~68.8)、肺葉切除術では64.1%(95%CI、58.5~69.0)であった。5年全生存率は、肺縮小切除術で80.3%(95%CI、75.5~84.3)、肺葉切除術で78.9%(95%CI、74.1~82.9)であった。局所再発と遠隔再発の発生率に2群間の実質的な差は認められなかった。術後6ヵ月の時点で、予測される強制呼気1秒量の中央値における群間差は2%ポイントであり、肺縮小切除群に有利であった。
結論
腫瘍サイズが2cm以下で、肺門リンパ節および縦隔リンパ節転移陰性が病理学的に確認された末梢性NSCLC患者において、無病生存率に関して肺縮小切除術は肺葉切除術より劣っていなかった。全生存率は両手術で同程度であった。(米国国立がん研究所、他より資金提供;CALGB 140503 ClinicalTrials.gov 番号、NCT00499330)。
:院長 石本 修 (呼吸器専門医)