メニュー

免疫チェックポイント阻害療法(ICI)導入前後で進行期非小細胞肺がんの生存率は改善したのか(JAMA Oncology誌の報告)

[2023.02.11]

肺がんの薬物治療は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場により、大きく変わりました。本庶佑先生がPD-1を発見して、ノーベル賞を獲得したことは記憶に新しいところですが、小野薬品が開発したニボルマブ(オプジーボ🄬)が最初の薬として登場して以来、海外の製薬会社が複数の薬を次々に開発し、成果をみせて承認されています。私(院長)が肺がん治療を現役で行っていた時代と比較すると、隔世の感があります。

新薬が承認されるためには、製薬会社が主体となって治験を実施し、治療効果があるかを統計学的手法を使って証明しなければなりません。治験には多額の費用がかかるため、当然のことながら、製薬会社は新薬の治療効果を証明するために、事前に綿密な計画を練ってプロトコールを策定します(もちろ倫理的に問題のない範囲で)。そのため、ガン以外の病気を持っていないような(治療の副作用を起こしにくい)患者さんや、治療が効きそうな患者さん達を選んで、治験に参加するようにします。しかし、新薬承認後の実際の臨床現場では、患者さん達はガン以外の病気を持っていたり、新薬が効くかどうか判定する検査ができるとは限りません。治験で効果が確認されていても、新薬が実際の現場で本当に効果があるのか確認することが重要です。

そして、統計学的に有意差をもって治療効果が認められた場合でも、その差は臨床的に意味があるのか考えなければなりません。例えば、新薬を使うことで生存期間が8カ月から9カ月に統計学的有意に延長されたという治験結果だったとしても、その1か月にどの程度意味があるでしょうか?米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、肺がんの全生存期間において意味のある改善は、非扁平上皮癌の患者では3.25カ月以上、扁平上皮癌の患者では2.5カ月以上と定義しています。

今回紹介する論文では、米国で2015年にICIが導入されたのち、実際の臨床現場で生存期間がどれぐらい延長したかをコホート研究で調査しています。下の図では、2015年からICIの使用率が年々増加していることが分かります。

すべての年齢層でICIが急速かつ大幅に導入されているにもかかわらず、ICI導入後の生存期間延長の程度は、年齢によって大きく異なることが分かりました。

55歳未満の若い患者においては、生存期間中央値が4~5ヶ月の単位で延長しました。一方、75歳以上の高齢患者では、生存期間の改善はそれほど顕著ではなく、生存期間は約1ヶ月の改善であり、ASCOの臨床的に意味のある生存期間延長の基準を満たすものではありませんでした。

今後は、高齢者においても意味のある改善を示すように、ICIの使い方が課題となってくるように思います。

 

がん免疫療法導入後の進行期非小細胞肺がん生存率推移と年齢の関連性

Association Between Age and Survival Trends in Advanced Non–Small Cell Lung Cancer After Adoption of Immunotherapy

JAMA Oncol. Published online January 26, 2023. 

doi:10.1001/jamaoncol.2022.6901

キーポイント

質問  

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の導入により、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の若年層と高齢層の生存率は変化したか?

調査結果 

 成人NSCLC患者53,719人を対象としたこのコホート研究では、ICIは米国食品医薬品局の承認後、すべての年齢層で急速に臨床に普及した。しかし、生存率への影響は様々であった。55歳未満の患者には臨床的に意味のある生存期間の延長が見られたが、75歳以上の患者には見られなかった。

意味 

 新規のがん治療薬による生存率の向上は、臨床試験にあまり参加されていないことの多い高齢者には一般化できない可能性がある。

 

概要

重要性  

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の導入により、進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療が大きく変化している。臨床試験では生存率の大幅な向上が示唆されているが、臨床現場において治療成績がどのように変化しているかは不明である。

目的  

年代別の進行性 NSCLC 患者における ICI 使用の経時的な傾向と生存率を評価すること。

デザイン、設定、参加者 

本コホート研究は、主に地域ベースの米国のがんクリニック約280施設で実施され、2011年1月1日から2019年12月31日までに診断されたIIIB、IIIC、またはIV期のNSCLCを有する18歳以上の患者を対象として、2020年12月31日までフォローアップを行った。データの解析は2021年4月1日 から2022年10月19日まで行われた。

主な結果および指標 

全生存期間中央値と2年生存率。2年生存の予測確率は、人口統計学的および臨床的特徴を調整した混合効果ロジットモデルを用いて算出された。

結果  

調査サンプルは53,719人(平均[SD]年齢、68.5[9.3]歳、男性28,374人[52.8%])で、その大多数が白人(36,316人[67.6%])であった。がんに対する治療の全体的な受療率は、2011年の69.0%から2019年には77.2%に増加した。NSCLCに対するICIの米国食品医薬品局による最初の承認後、ICIの使用は2015年の4.7%から2019年の45.6%に増加した(P < 0.001)。2019年のICIの使用は、若年者と高齢者の間で同様であった(55歳未満、45.2% vs 75歳以上、43.8%;P = .59)。2011 年から 2018 年にかけて,2 年生存の予測確率は,55 歳未満の患者では 37.7% から 50.3% に,75 歳以上の患者では 30.6% から 36.2% に増加した(P < .001).同様に,55 歳未満の患者の生存期間中央値は試験期間中に 11.5 ヵ月から 16.0 ヵ月に増加し,75 歳以上の患者の生存期間は 2011 年の 9.1 ヵ月から 2019 年の 10.2 ヵ月に増加した.

結論と関連性 

 このコホート研究により、進行性NSCLC患者において、米国食品医薬品局の承認後、ICIの導入がすべての年齢層で急速に進んだことが明らかになった。しかし、それに伴う生存率の向上は、特に高齢の患者において、わずかなものであった。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

HOME

ブログカレンダー

2023年12月
« 10月    
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME