肥満症に対する週一回セマグルチド注射による体重減少効果(リアルワールドのデータ,JAMA誌の報告)
肥満症は年々増加傾向にあり、世界的な問題となっています。肥満症自体には外見上の問題以外はないかもしれませんが、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳卒中、冠動脈疾患、種々の癌などの複数の合併症を併発して致死的となるため、肥満を治療することが重要であると考えられます。本ブログでも肥満治療について紹介してきました。
肥満症の薬物療法(やせ薬)の進歩(JAMA誌の総説を紹介)(2021.08.01更新)
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるセマグルチドは、2型糖尿病の治療薬として日本でも承認されています。さらに、セマグルチドは血糖降下作用以外にその体重減少効果が注目されており、大規模な無作為化比較臨床試験において、セマグルチドの肥満症治療に対する有効性が示されました(下記ブログ記事参照)。
糖尿病薬セマグルチド(オゼンピック®)が、やせ薬として使える日は来るのか(NEJM誌より報告)(2021.03.07更新)
肥満症の小児(12-17歳)における糖尿病薬セマグルチド投与が有効(NEJM誌の報告)(2022.11.13更新)
プラセボ(偽薬)と比較した無作為化臨床試験は、ある物質を薬剤として承認されるために製薬会社が主体となって、まさに死活をかけて実施するものです。対象患者を厳密に選定し、結果がでるようにプロトコールを厳正に守って治療を受けてもらいます。そのため、試験結果は信頼できるものとなるのですが、逆に選ばれた患者と実際の患者とは異なってしまう危険をはらんでいます。
今回、紹介する論文では、セマグルチドが承認後に実際の患者に投与して本当に効果があったのか過去に遡って調査(=レトロスペクティブ研究)した結果を報告しています。
その結果、実際の患者では3ヶ月間で約6.7kg減量(体重減少率として5.9%)、 6ヶ月間で約12.3kg減量(体重減少率として10.9%)していました。これは、これまでの無作為化臨床試験で証明されてきたように、実際の臨床現場でもセマグルチドを適用できることを示しています。(2023年現在の日本では未承認であり、健康保険適用もありません。副作用の管理も十分にされない自費診療で安易に処方されるものではないと考えます。)
過体重または肥満症患者に対するセマグルチド治療による体重減少効果
Weight Loss Outcomes Associated With Semaglutide Treatment for Patients With Overweight or Obesity
September 19, 2022
JAMA Netw Open. 2022;5(9):e2231982.
doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.31982
キーポイント
質問
セマグルチドによる治療は、無作為化臨床試験の結果と同様の体重減少の結果をもたらすのか?
結果
過体重または肥満の患者175名を対象とした本コホート試験において、3ヶ月間で5.9%、6ヶ月間で10.9%の総体重減少率が達成された。
意味
一般臨床におけるセマグルチド投与は、無作為化臨床試験と同様の体重減少をもたらし、過体重または肥満患者の治療への適用を示唆するものであった。
概要
重要性
肥満症に対する無作為化臨床試験で使用された用量(すなわち,1.7 mg および 2.4 mg)でのセマグルチドの治療有効性を評価したレトロスペクティブコホート研究は今までにない。
目的
過体重または肥満患者に対する無作為化臨床試験で使用された用量のセマグルチド投与による体重減少効果を調査すること。
デザイン、設定、参加者
このコホート研究では、体重管理のために紹介された治療センターで行われ、2021年1月1日から2022年3月15日の間に、過体重または肥満の成人に対するセマグルチドの使用に関するデータをレトロスペクティブに収集し、最大6ヶ月のフォローアップを実施した。体格指数(BMI)が27以上の患者408名に、週1回のセマグルチドを3カ月間以上皮下注射した。肥満治療歴のある患者、他の抗肥満薬を服用している患者、活動性の悪性新生物の患者は除外された。
投与方法
週1回1.7mgまたは2.4mgのセマグルチド皮下注射を3~6ヶ月間行う。
主要評価項目および評価方法
主要評価項目は体重減少率とした。副次的評価項目は、3ヵ月後および6ヵ月後に5%以上、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少を達成した患者の割合と、2型糖尿病のある患者またはない患者における3ヵ月後および6ヵ月後の体重減少率であった。
結果
本試験では、175名(女性132名[75.4%]、平均年齢[SD]49.3歳[12.5]、平均BMI[SD]41.3[9.1])が3ヵ月時点、102名が6ヵ月時点での解析の対象であった。3ヵ月後の平均体重減少は6.7kg(SD4.4)で、平均体重減少率5.9%(SD3.7)に相当し(P < .001)、6ヵ月後の平均体重減少は12.3kg(SD6.6)で、平均体重減少率10.9%(SD5.8)に相当した(P < .001、ベースラインより)。6ヵ月後に追跡調査した102名の患者のうち、5%以上の体重減少を達成したのは89名(87.3%)、10%以上の体重減少を達成したのは56名(54.9%)、15%以上の体重減少を達成したのは24名(23.5%)、20%以上の体重減少を達成したのは8名(7.8%)であることがわかった。2型糖尿病患者は、2型糖尿病でない患者と比較して、3ヶ月後および6ヶ月後の平均体重減少率(SD)が低かった:3ヶ月では3.9%(3.1)対6.3%(3.7)(P = .001)、6ヶ月では7.2%(6.3) 対 11.8%(5.3)(P = 0.005).
結論と関連性
このコホート研究の結果では、1.7mgおよび2.4mgの週1回のセマグルチド投与が、無作為化臨床試験で見られたのと同様の体重減少と関連することを示唆された。長期間の体重減少の結果を評価するために、より長い期間のフォローアップを行う研究が必要である。
:院長 石本 修 (呼吸器専門医)