モルヌピラビル(ラゲブリオ)は、オミクロン株流行期の新型コロナ感染症にも有効なのか(LANCET誌の報告)
新型コロナウイルス感染症(COVIDー19)に対して承認された飲み薬として、MSD社のモルヌピラビル(ラゲブリオ®)とファイザー社のニルマトレルビル+リトナビル(パキロビッド®パック)、そして日本では塩野義製薬のエンシトレルビル(ゾコーバ®)があります。薬剤の有効性を検証する第3相無作為化試験がそれぞれの薬で実施され、プラセボと比較しどちらの薬も有効であることが確認されました。
非入院Covid-19患者に対する経口モルヌピラビル N Engl J Med 2022;386:509-520.
非入院の高リスクCovid-19成人患者に対する経口ニルマトレルビル N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2118542.
入院または死亡のリスクを、プラセボ(偽薬)と比較して、モルヌピラビルが30%(9.7%→6.8%)低下、ニルマトレルビル+リトナビルが88%(6.3%→0.8%)低下させました。エンシトレルビルの第3相試験の結果は、2022年12月時点で論文発表がなされていませんが、入院や死亡リスクを低下させず、症状軽快を1日程度早めたと報道されています。
モルヌピラビルの第3相試験(MOVe-OUT10試験)では、重症化リスクをもつ非入院COVID-19患者を対象として、プラセボ(偽薬)と比較してモルヌピラビル投与により入院および死亡が30%減少することが示唆されました。しかし、対象患者は新型コロナのワクチンを接種しておらず、オミクロン株より重症度の高いCOVID-19(主にデルタ株)の流行期に実施されため、オミクロン株流行期とは薬効も異なる可能性があります。
今回紹介する研究では、英国のオミクロン株流行期において、ワクチン接種済かつ重症化リスクが高いCOVID-19患者を対象としています。2023年1月現在の状況と似ているため、モルヌピラビルの現在の治療効果が類推できる設定となっています。
オミクロン株流行期では、入院や死亡リスクが非常に低くなっています。そのため、モルヌピラビルはプラセボと比較して、入院または死亡者数を減少させることを証明できませんでした。しかし,モルヌピラビルは,全体および主要な個々の症状に対する回復までの時間の短縮、医療機関受診の減少、ウイルス量の減少と関連していました。
予後不良のリスクが高いCOVID-19の成人患者に対する早期治療として、モルヌピラビル+通常治療と通常治療単独の比較(PANORAMIC試験):オープンラベル、プラットフォーム適合性無作為化対照試験
Molnupiravir plus usual care versus usual care alone as early treatment for adults with COVID-19 at increased risk of adverse outcomes (PANORAMIC): an open-label, platform-adaptive randomised controlled trial
Published:December 22, 2022
DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)02597-1
概要
背景
SARS-CoV-2の経口抗ウイルス薬であるモルヌピラビルの安全性、有効性、費用対効果は、COVID-19による罹患および死亡のリスクが高い、ワクチン接種済の市中患者においては、確立されていない。われわれは,この集団において,通常治療にモルヌピラビルを追加することで,COVID-19 に関連する入院と死亡が減少するかどうかを確認することを目的とした.
方法
PANORAMIC試験は、英国を拠点とする全国規模の多施設共同非盲検多群前向きプラットフォーム適応無作為化対照試験である。対象者は、50歳以上、または18歳以上かつ関連する併存疾患があり、COVID-19が確認されて5日以内の有症状の市中患者であった。参加者は、モルヌピラビル800mgを1日2回、5日間投与する群と、通常治療のみを行う群に、1対1で無作為に割り付けられた。無作為化には安全なWebベースのシステム(Spinnaker)が使用され、年齢(50歳未満 vs 50歳以上)およびワクチン接種状況(あり vs なし)で層別化された。COVID-19の転帰は,無作為化後28日間,自己記入式のオンライン日誌で追跡した。主要アウトカムは、無作為化後28日以内の理由を問わない入院または死亡で、無作為に割り付けられたすべての適格参加者においてベイズモデルを用いて解析された。本試験はISRCTN番号30448031に登録されている。
結果
2021年12月8日から2022年4月27日の間に、26,411人の参加者が無作為に割り当てられ、12,821人がモルヌピラビル+通常治療、12,962人が通常の治療のみ、628人がその他の治療群(別途報告予定)に振り分けられた。モルヌピラビル+通常治療群から12,529名、通常治療群から12,525名が一次解析集団に含まれた。集団の平均年齢は56.6歳(SD 12,6)で、25,708人のうち24,290人(94%)がSARS-CoV-2ワクチンを少なくとも3回接種していた。入院または死亡は,モルヌピラビル+通常治療群 12,529 例中 105 例(1%),通常治療群 12,525 例中 98 例(1%)で記録された(調整オッズ比 1.06 [95% Bayesian 信頼区間 0.81-1.41]; 優越確率 0.33).サブグループ間での治療相互作用の検出はできなかった。重篤な有害事象は、モルヌピラビル+通常治療群では12,774例中50例(0~4%)、通常治療群では12,934例中45例(0~3%)に記録された。これらの事象はいずれもモルヌピラビルとの関連はないと判断された。
考察
モルヌピラビルは,ワクチン接種を受けた、高リスクの市中成人におけるCOVID-19関連入院または死亡の頻度を減少させなかった.
資金提供
英国国立医療研究機関(National Institute for Health and Care Research)
:院長 石本 修 (呼吸器専門医)