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ソーシャルメディアに流れる誤った医療情報に対策が必要(米国医師会雑誌のViewpointより)

[2022.10.10]

昔の情報発信といえば、新聞や雑誌、テレビ、ラジオといったメディアを介していました。しかし、現代では手段が多様化し、インターネットを利用して誰でも手軽に情報発信ができるようになりました。そのような誰でも簡単に利用できる情報発信ツールのことを「ソーシャルメディア」と呼びます。

今回のコロナ禍において、従来のメディアだけでなくソーシャルメディアが相当な影響力をもっていることを実感しました。新聞やテレビにおいても正確な情報が必ずしも発信されていないことは感じるところですが、もっとお手軽なソーシャルメディア上では尚更だと思います。ソーシャルメディアでは過激なタイトルを付けた方が影響力がある(=バズる)ので、実際の内容とは異なるタイトルだけが拡散してしまうこともあります。また、ソーシャルメディアには誤情報(misinformation)だけではなく、人を混乱させるためなどに故意に発信される偽情報(disinformation)も流れます(日本のテレビや新聞にはdisinformationはないと信じますが、他国ではそうではないようですね)。

本日紹介する論文は、米国医師会雑誌(JAMA)に掲載されたDhruv Khullar医師のViewpoint(観点)です。ソーシャルメディア上の誤った医療情報に対する対策について述べています。

拙ブログもソーシャルメディアを利用していることには違いありません。原文のほぼすべてをできるだけ正確に翻訳引用し、私見は→で示します。

 

Viewpoint(観点)

ソーシャルメディアと誤った医療情報 ---古くからある問題の新たなバリエーションに直面する---

Social Media and Medical Misinformation  Confronting New Variants of an Old Problem

September 23, 2022

Dhruv Khullar, MD, MPP  ウェイル・メディカル大学

Published Online: September 23, 2022. doi:10.1001/jama.2022.17191

 

近年、虚偽や誤解を招くような健康情報の拡散が大幅に増加している。例えば,COVID-19 の流行時には誤った情報によって、未承認治療法を使用したり,軽減対策を遵守しなかったり,多数のワクチン忌避につながったりした.反事実的シミュレーションモデリングに基づく研究によると,2021年1月1日から2022年4月30日の間に,ワクチン接種率がもっと高ければ,米国におけるCOVID-19関連の死亡のほぼ半分を防ぐことができたと示唆されている。

→日本だけではなく、米国においても誤った情報が拡散することの弊害がでています。反ワクチン運動も日本だけではないようです。

(中略)

ソーシャルメディア・プラットフォームは新しい町の広場と呼ばれることがあり、人々が互いにつながり、意見を交換し、重要な問題について議論することができるオンライン空間である。しかし、健全な世論と情報化社会のために必要な会話を促進するには、多くの点においてソーシャルメディアは適さない立場にある。ほとんどのプラットフォームのビジネスモデルは、広告費と消費者データの販売に依存しており、個人や共同体の福利を促進するものではない。

→情報を受け取る側としては、ほとんどのソーシャルメディアを無料で利用できます。しかし、ソーシャルメディアも民営企業であり、企業の広告費と、我々個人のデータ販売で収入を得ています。ネットサーフィンをしていると、情報の入手先が誘導されているように感じるときはないでしょうか?

ソーシャルメディアは、ニュアンスを犠牲にして道徳的な怒り(義憤)に報いる傾向があり、感情の偏向や確証バイアスを高める可能性がある。しばしば関連する脈絡がないまま、膨大な量の情報が共有され、何に注目すべきか、事実と虚偽をどのように区別すべきかを人々が知ることが難しくなる場合がある。誤った情報を訂正しようとしたり、人気のない意見を共有したりする人は、ネット上の「暴徒」によって排斥されたり嫌がらせを受けたりすることがある。

→確証バイアスとは、すでに持っている先入観や仮説を肯定するため、都合のよい情報ばかりを集める傾向性のことを言います。例えば、テレビなどを見ていて一つの仮説が頭に浮かんだとすると、検索エンジンでその仮説を確認したくなったことはないでしょうか?検索の仕方にもよりますが、その仮説を肯定するような記事が大量にでてくると、その仮説が真実だと思ってしまいます。

ソーシャルメディアは世論を民主化すると理解されているが、驚くほど少数の個人が会話を支配することがある。2021年の分析によると、Twitter、Facebook、Instagram上の反ワクチン情報の65%は、「ディスインフォメーション・ダース」と呼ばれるわずか12のアカウントによって担われていた。ディスインフォメーションとは、意図的に人を欺く誤報の一部で、通常、特定の議題を推進するために組織的に設計されている。誤報やディスインフォメーションを抑制しようとすると、しばしば言論の自由を制限する懸念があり、憲法修正第1条の文言だけでなく、その精神に反すると主張されることがある。民間企業であるソーシャルメディア・プラットフォームには、利用規約を施行するための大きな自由裁量がある。

→disinformationを発信する人は意図的に多くの情報を発信するので、検索結果画面を支配してしまうかもしれません。

何かできることはないのか?

ABIM財団は2022年のフォーラムにおいて、誤情報の有害な影響を軽減するための道筋を明らかにすることに力を注いだ。アルゴリズムの調整、誤報の研究と監視、医療従事者のトレーニングとコミュニティへの参加など、いくつかのテーマと提案がでてきた。

アルゴリズムによる調整

ソーシャルメディア・プラットフォームが使用するアルゴリズムは、ユーザーの関与を維持する目的で、過激でセンセーショナルなコンテンツをしばしば奨励する。その結果、誤解を招く情報を積極的に探していない個人でさえ、日常的にその情報にさらされることになる。誤った情報を見られないように、また質の高い情報を高めるようにアルゴリズムを再設計することにより、情報のエコシステムを改善する機会が提供されることになる。

何をもって誤報とするかは大きな課題であり、科学界と一般市民の双方が、ある主張を誤報と定義する閾値について継続的に議論する必要がある。しかし、多くの場合、流布された情報は明らかに間違っており、悪質である。最初に、このような例を焦点にあてて誤報の重要性を減らすよう努力するべきである。補完的なアプローチとして、質の高い情報の普及があり、これは公衆衛生ガイダンスの遵守を向上させる可能性がある。最近、米国医学アカデミーは、毎月20億人以上のユーザーにアクセスされているYouTubeと提携し、ソーシャルメディア・プラットフォームが、科学的根拠、客観性、透明性、説明責任を有するものに焦点を当て、信頼できる健康情報を識別して高める方法を伝えるための基本原則を開発した。

→例えば、Googleなどでコロナウイルスの検索をすると、厚生労働省の記事がトップにでてきます。政府の記事が常に正しいかはわかりませんが、一般人の個人的意見よりは正しいと思われます。

誤報の調査・監視

ソーシャルメディアによって煽られた誤報は比較的新しい現象である。誤報がどのように広まるかをより正確に把握し、その健康および社会的影響を軽減するような研究が必要であり、それはプラットフォーム、国、人口統計グループによって様々であると考えられる。最近の研究では、政治的偏向や誤解を招くコンテンツを共有する意図を減らす可能性のある介入策(例えば、個々人を横断的なニュースメディアにさらし、正確性について考えるように促すなど)がいくつか確認されているが、この問題全体に対処するためには包括的な研究アジェンダが必要とされている。社会科学研究評議会が2021年に立ち上げた「マーキュリープロジェクト」は、象徴的な有望な取り組みの一つである。同団体は今後数年間、研究者のグローバルコンソーシアムに資金を提供し、誤報の因果関係と潜在的な介入策を検証し、関連するステークホルダー間での研究と政策の共有を促進する予定である。

確固たる証拠に基づいていれば、誤報の監視と対応システムを開発することができると考えられる。このようなシステムは、新興感染症に対応するために設計されたものを手本にすることができるだろう。このシステムは、誤った情報の日常的なレベルからの逸脱をリアルタイムで観察し、誤った主張がソーシャルネットワークを通じてどのように広がるかを説明し、誤った情報の「超広告主」を特定し、誤解を招く健康メッセージを無効にするための根拠に基づいた方法を展開するものである。

→何が誤った情報なのか、境界線を引くことは難しいですが、明らかに間違った有害な情報の発信者を特定し、考え直すように注意を促すようなシステムはあってもよいのかもしれません。

医療従事者の育成と地域社会への貢献

医師や看護師は、米国で最も信頼されている専門家の一人であり、地域社会における誤った情報に対抗する上で、非常に重要な立場にある。しかし、臨床医は、オンラインでも対面でも、誤った情報に対処するための効果的なコミュニケーション方法やその他の技術について、ほとんどトレーニングを受けていない。一部の医療機関では、関連するトレーニングを提供し始めている。例えば、デューク大学では、臨床医が誤った医療情報に対処するための教育プログラムを開発している。そのプログラムでは、患者の価値観や懸念、生活体験への積極的な関与、共感的傾聴、聞き出しに重点を置いている。また、マサチューセッツ総合病院のように、定期的にバーチャルな対話集会を開催し、患者や家族の質問に答えたり、地域社会のリソースとして機能させたりしている施設もある。このような継続的な取り組みにより、医療神話を「打ち消す」ために必要な信頼を築き、一般的な誤報の手口を先取りして教育することができるかもしれない。

また、国民が医師を信頼するためには、医師が誤った情報を流していないという信頼を得ることが必要である。最近、州医療委員会連合は、明らかに誤った情報を故意に流した医師は医師免許の停止または取り消しのリスクがあると宣言する声明を発表し、米国内科学会を含むいくつかの委員会もこの立場を支持している。しかし、多くの州議会は、誤った情報を流したり、証明されていない治療法を処方した医師に対して、免許委員会が懲戒処分を下すことを禁止する法律を検討中、あるいは可決しています。

→医師など医療従事者がソーシャルメディアを利用して医療情報を発信するときは、正しいことがすでに分かっている情報なのか、今後検証すべき仮説なのか、個人的意見なのかも提示しながら、発信する必要があると思います。

結論

誤った医療情報は、米国をはじめ世界中で相当な健康被害をもたらしており、それが引き起こす害とそれに立ち向かうという課題の両方が、ソーシャル メディアによって助長されている。誤った情報の影響を軽減するためには、臨床医、公衆衛生当局、技術者、患者団体、地域社会のリーダーなどが連携した多面的な取り組みが必要である。

前進するには、継続的に注意を払い、相応の努力をすることが必要であろう。しかし、進歩すれば、何が真実で真実でないかについての理解を共有し、健康な人々と健康な社会の基盤を強化することができるようになる。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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