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喫煙歴があり、咳や息切れなどの症状はあるが、肺機能が保たれている人(一秒率>70%)に対する吸入気管支拡張薬は無効か(NEJMの報告)

[2022.09.18]

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコなどの吸入煙によって生じる気管支の慢性炎症が原因となって起きる病気です。別名たばこ病とも言われ、原因の90%以上はタバコだと言われています。COPDは一般にはあまり認知されていない病気ですが、日本でもありふれた病気の一つであり、40歳以上の日本人の8.6%がCOPDと推定されており、日本人男性の死亡原因の第10位がCOPDです。

COPDの症状はセキ・タン、息切れというありふれたものです。階段の2階まで上っただけで息切れで休むようになったり、風邪でもないのにセキ・タンがでたり、風邪のあとセキ・タンが続いたりすることがCOPD患者さんの特徴です。

このようなありふれた症状を評価する方法として、よく使われるものにCOPD集団スクリーニング質問票(COPD-PS)COPDスクリーニングのための質問票(COPD-Q)、COPDアセスメントテスト(CAT)があり、心当たりのある方は自己評価されることをお勧めします。

COPDを診断するには、症状があること、タバコ煙など曝露因子があること、そして呼吸機能検査(スパイロ検査)で1秒率(FEV1%)が70%未満であることの3つです。必要な検査はスパイロのみですので、COPDの診断は本来難しいものではありません。

しかし、このコロナ禍でスパイロの実施は難しくなりました。スパイロは息を思いっきり吸って吐くという検査であり、マスクを外す必要があります。患者さんがもしコロナウイルスに感染していると、検査を担当する医療従事者がコロナに感染するリスクが非常に高くなるため、学会からも呼吸機能検査を慎重にするように声明が出されています(新型コロナウイルス感染症流行期における呼吸機能検査の実施について) 。

このコロナ禍において、呼吸機能検査を実施しないでCOPDを診断治療をするアルゴリズムが、「COPD診断と治療のためのガイドライン第6版2022」の170頁に掲載されています。これによると、COPD-QまたはCOPD-PSが4点以上であり、喘息やその他の病気が否定的で、CATスコアが10点以上あるいは平地歩行での息切れがあれば、LAMA/LABAで診断的治療を開始してよいことになっています。ただし、脚注には適切な時期に呼吸機能検査で一秒率低下を確認することと注意することと書かれています。

今回紹介する論文では、一秒率が低下していない喫煙歴のある有症状者に、LAMA/LABAで治療しても、プラセボで治療しても、症状改善に違いがなったとする研究結果を示しています。このような結果となった理由は明らかで、プラセボを吸入しても症状が改善してしまい、実薬であるLAMA/LABAの効果が薄れてしまったからです。

症状を評価項目にする研究を実施することの難しさが分かると同時に、検査なしでCOPDを診断して治療することの危うさが分かります。コロナ禍が落ち着いたら、やはり「適切な時期に、呼吸機能検査を実施して、閉塞性換気障害(一秒率70%未満)が生じていることを確認する」ことが必要なんだと改めて理解しました。

 

 

タバコ曝露歴があり症状があるが、肺機能が保たれている人に対する気管支拡張薬

Bronchodilators in Tobacco-Exposed Persons with Symptoms and Preserved Lung Function

September 4, 2022

DOI: 10.1056/NEJMoa2204752

 

概要

背景

タバコの喫煙歴のある人の多くは、スパイロメトリーで評価できる気流閉塞がないにもかかわらず、臨床的に有意な呼吸器症状を有している。彼らはしばしば慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物治療を受けているが、この治療法を支持するエビデンスは不足している。

方法

タバコ喫煙歴が10 pack-years以上あり,COPD Assessment Testのスコアが10点以上(スコアは0~40の範囲で,スコアが高いほど症状が悪い)の呼吸器症状があり,スパイロメーターで肺機能が保たれている人(強制換気量[FVC]に対する1秒量[FEV1]の比≧0. 70、気管支拡張剤使用後のFVCが予測値の70%以上)を無作為化割り付けを行い、インダカテロール(27.5μg)+グリコピロレート(15.6μg)またはプラセボのいずれかを1日2回、12週間投与した。

主要評価項目は、治療失敗(長時間作用型吸入気管支拡張剤、グルココルチコイド、抗菌薬で治療するような下気道症状の増加と定義)がなく、12週間後にセントジョージ呼吸器質問票(SGRQ)スコア(スコアは1~100、高スコアは健康状態の悪化を示す)が少なくとも4ポイントの減少(すなわち改善)とした。

結果

合計535名の参加者が無作為化された。修正intention-to-treat集団(471人)において、治療群の227人中128人(56.4%)およびプラセボ群の244人中144人(59.0%)で、SGRQスコアを4ポイント低下させた(差、-2.6%ポイント;95%信頼区間[CI]、-11.6~6.3;調整オッズ比、0.91;95%CI、0.60~1.37;P = 0.65 )。

予測FEV1値の平均変化率は治療群で2.48%ポイント(95%CI、1.49~3.47)、プラセボ群で-0.09%ポイント(95%CI、-1.06~0.89)であり、吸気量の平均変化率は治療群で0.12リットル(95%CI、0.07~0.18)、プラセボ群で0.02リットル(95%CI、-0.03~0.08)であった。重篤な有害事象は治療群で4件、プラセボ群で11件発生したが、治療薬またはプラセボに関連する可能性があると判断されたものはなかった。

結論

合剤吸入気管支拡張療法は、スパイロメトリーで肺機能が保たれている、症候性タバコ曝露者において,呼吸器症状を減少させることはなかった.(米国国立心肺血液研究所ほかによる助成。RETHINC ClinicalTrials.gov 番号,NCT02867761)。

 

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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