新規糖尿病治療薬チルゼパチドが肥満症にも有効(NEJM誌の報告)
食事や運動など生活習慣の改善が大切なのは言うまでもありませんが、それだけでは減量に成功しないことが現実としてあります。欧米では肥満を病気と捉えて様々な薬が開発され、本ブログでも紹介してきました。
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今回紹介する新規糖尿病治療薬チルゼパチドは、2022年7月現在、日本ではまだ承認されていません。チルゼパチドは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)およびGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体に結合し、相乗的に作用することで、GLP-1受容体の単剤投与よりも大きな体重減少が期待されています。
治療前の平均体重が104.8kg、平均BMIが38.0と、なかなかの肥満者を対象として、チルゼパチドを週1回注射しました。その結果、体重は約15~20%減少、85~90%の参加者に5%以上の体重減少がみられました。
有害事象は吐き気や下痢、便秘が多く、2-3割の参加者にみられました。
肥満症治療薬としての「チルゼパチド」週1回投与
N Engl J Med 2022; 387:205-216
DOI: 10.1056/NEJMoa2206038
概要
背景
肥満症は慢性疾患であり、相当数の新たな病気と死亡をもたらしている。グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチドおよびグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)の新規薬剤であるチルゼパチドの肥満症患者に対する有効性および安全性は不明であった。
方法
この第3相二重盲検無作為化比較試験において、BMI(体重kg÷身長mの2乗)が30以上、または27以上で糖尿病を除く体重関連合併症が1つ以上ある成人2539名を1:1:1:1の割合で、チルゼパチド週1回皮下投与群(5mg、10mg、15mg)またはプラセボ群に割り付けし、20週の用量漸増期間を含む72週間投与した。複数の主要評価項目は、ベースラインからの体重変化率および5%以上の体重減少率であった。intention-to-treat集団において治療中止の有無にかかわらず、治療レジメンの効果を推定評価した。
結果
ベースライン時の平均体重は104.8kg、平均BMIは38.0、94.5%の参加者がBMI30以上であった。72週目の体重の平均変化率は、チルゼパチドの週5mg投与で-15.0%(95%信頼区間[CI]、-15.9~-14.2)、10mg投与で-19.5%(95%CI、-20.4~-18.5)、15mgで-20.9%(95%CI、-21.8~-19.9)とプラセボ投与で-3.1%(95%CI、-4.3~-1.9)だった ( プラセボとの比較ですべてP<0.001 )。体重が5%以上減少した参加者の割合は、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与でそれぞれ85%(95%CI、82~89)、89%(95%CI、86~92)、91%(95%CI、88~94)、プラセボで35%(95%CI、30~39)であった。10mg群の50%(95%CI、46~54)および15mg群の57%(95%CI、53~61)の参加者が体重を20%以上減少させたのに対し、プラセボ群では3%(95%CI、1~5)だった(プラセボとの比較ですべてP<0.001)。チルゼパチドにより事前規定したすべての心代謝系指標の改善が認められた.チルゼパチドの最も一般的な有害事象は胃腸障害であり、そのほとんどは重症度が軽度から中等度であり、主に用量漸増時に発生した。有害事象による治療中止は、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群およびプラセボ投与群で、それぞれ4.3%、7.1%、6.2%、2.6%に認められた。
結論
肥満症患者を対象とした72週間の臨床試験において、チルゼパチド5mg、10mg、15mgを週1回投与することにより、体重を大幅にかつ持続的に減少させることが示された。(Eli Lilly 社の助成あり。SURMOUNT-1試験 ClinicalTrials.gov 番号:NCT04184622)
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)