COPDに対する吸入薬のデバイス(器具)の違いで、死亡率が変わる可能性(CHEST誌の報告)
喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は気管支の病気であり、その治療は、気管支に直接届ける吸入薬が主流です。吸入薬は飲み薬と比較すると、全身に吸収される薬剤量が少ないため副作用が少なく、治療効果が高いと考えられています。良いことばかりの吸入薬なのですが、問題が一つあります。
飲み薬は子供のころから慣れ親しんでいる人がほとんどで、薬の飲み方がわからないという人はまずいません。一方、吸入薬は、使用方法を教わらないと、使用できない人がほとんどです。また、薬の種類によって使用方法が異なるので、薬ごとに使用方法を覚える必要があります。
そもそも、ほとんどの人は薬嫌いで、いやいや服用するものです。さらに、服用方法が難しいとなると、服用するのが面倒になってしまいます。喘息やCOPD患者さんは、将来の増悪リスクや死亡率を下げるため、症状がなくても毎日吸入を継続することが必要です。それは、今日の血圧が高くなくても、明日の血圧が高くならないように、また将来的に動脈硬化が進まないように、高血圧の薬を飲み続けなければならないのと似ています。
このように治療継続のハードルが高い吸入薬ですが、吸入方法の異なる2種類の薬を毎日使用しなければならないとなったら、どうでしょうか。治療継続のハードルがさらに高くなることが容易に想像できます。
今回紹介する論文では、COPDに対して3つの薬剤を2つの器具で吸入する方法(MITT)と、一つの器具で吸入すう方法(SITT)でどちらが効果が高いかを、後方視的観察研究(エビデンスレベル低め)で評価しています。
↑ 一年間の観察期間では、吸入器具が2つ(MITT)になると、一つよりも治療継続率が少しずつ低下していきます。これは予想通りの結果です。
↑ 吸入器具が2つ(MITT)だと、1年後の死亡率が高くなっています。MITTは吸入が面倒なため治療継続率が下がるり、治療効果もさがるため、COPDの増悪が起こりやすく死亡率が高くなると考えられます。SITTにすると、MITTと比較して入院率もさがるため、医療費の削減にもつながるのです。
Clinical characteristics, treatment persistence and outcomes among patients with COPD treated with single- or multiple-inhaler triple therapy: a retrospective analysis in Spain
単デバイス吸入または複数デバイス吸入による3剤併用療法を受けたCOPD患者の臨床的特徴、治療の継続性および転帰:スペインにおけるレトロスペクティブ分析
Published:July 01, 2022
DOI:https://doi.org/10.1016/j.chest.2022.06.033
概要
背景
COPDは死亡および身体障害の主要な原因である。COPDの治療目標は増悪の抑制と症状コントロールの改善である。気管支拡張薬による治療にもかかわらず、増悪が頻繁に起こる患者には、単デバイス吸入による3剤併用療法(SITT)または複数デバイス吸入による3剤併用療法(MITT)が適応となる。治療の継続性、増悪、その他のアウトカムに関して、SITTとMITTを比較したエビデンスは、スペインにおいて現在のところ存在しない。
研究課題
スペインにおいてSITTとMITTを比較したCOPD患者は、治療継続性、増悪、医療資源利用が改善されるか?
研究デザインおよび方法
今回、リアルワールドの観察後方視的コホート研究は、スペイン国立医療システムBIG-PAC®データベースの電子カルテを分析し、2018年6月1日から2019年12月31日までにSITTまたはMITT(2または3つの吸入剤を使用)を開始した40歳以上のCOPD患者を特定した。12ヶ月のフォローアップ期間中の治療継続性(リフィル処方なしで60日間まで許可)、増悪率、医療資源の利用およびコストに関する比較データを分析した。多変量調整分析を実施した。
結果
SITT(n=1,011)またはMITT(n=3,614)を開始した適格患者(n=4,625)の平均年齢は70.9歳で、ほとんどが男性(73.9%)、気流制限は主に中等度(62.0%)または高度(26.5%)であった。ベースラインにおける各コホート間の特徴はほぼ同じであった。12 ヵ月のフォローアップでは,SITT 患者は MITT 患者と比較して,治療継続性が高く(ハザード比 [HR]=1.37;95% 信頼区間 [CI]=1.22~1.53;P<0.001 ),増悪のリスクが低く(HR=0.68;95% CI=0.61~0.77;P=0.001 ),全死亡リスクが低く(HR=0.67;95% CI=0.63~0.71,P=0.027 )であった。SITTは医療資源の使用が有意な低下としていた(年間平均コスト削減[MACS]:MITTより年間408ユーロ削減)。SITTとMITTの両方において、治療継続性は非継続と比較して増悪率の改善と関連し、大幅な調整後MACS(それぞれ2115ユーロと2700ユーロ)と関連していた。
解釈
SITTを開始した患者は臨床的に適切な治療持続性の改善がみられ、死亡率と増悪発生率が減少、医療資源使用が減少、結果として平均コストの削減につながった。
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)