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新型コロナ感染拡大防止のためのステイホームで、体重が増加したわけではないかもしれない(JAMA誌の報告)

[2022.06.19]

新型コロナウイルスの感染が急拡大したころ、全世界でロックダウンやシャットダウン、ステイホーム(stay-at-home)命令がだされました。日本でも命令ではないものの、ステイホームが叫ばれ、学校が休校し、在宅勤務が奨励されました。ステイホームに感染拡大防止効果があったのかについてはさておき、「家から外にでないから、運動できなくて、体重が増えた」という訴えがよく聞かれるようになりました。体重が増えると、メタボリックシンドロームや生活習慣病になるリスクが上がります。ステイホームで新型コロナウイルスを封じ込めたけど、生活習慣病が増加しましたでは、社会の損失が大きいものとなります。

今回紹介する論文では、ステイホーム(シャットダウン)開始前の1年間と開始後の1年間で体重および体格指数(BMI)に変化があるかを、ピッツバーグ大学医療センターの外来を受診した患者で調査しています。10万人という大量のデータを解析した結果、ステイホームがあってもなくても体重やBMIが増える人は増えるし、増えない人は増えないという結果でした。患者を対象にしたコホート研究の結果ですので、病院を受診しない人はどうだったかは分かりませんが、体重が増加したのはステイホームをしたからだとは言えなくなるかもしれません。

本論文は短報であり、本文のほぼ全文を下記に引用し、翻訳しました。

 

COVID-19ステイホーム命令と1年後の体重変化との関連性

Association of COVID-19 Stay-at-Home Orders With 1-Year Weight Changes

JAMA Netw Open. 2022;5(6):e2217313. 

Published: June 16, 2022. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.17313

doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.17313

 

はじめに

COVID-19の感染を遅らせるために、外出を控えたり、公共の場を閉鎖したりすることが、体重増加や肥満の増加につながっている可能性がある。最近の調査では成人の60%が平均5.6kgの体重増加を報告しているが、メタアナリシスにおいては体重増加は1.57kgとより少ないことが示唆されている。このような一貫性のない結果は、サンプル数が少ないことや自己報告であること、横断的なデザインに起因している可能性がある。10万人以上の成人の大規模サンプルの電子医療記録(EMR)から客観的に測定した体重記録を抽出し、COVID-19以前の対照期間とCOVID-19シャットダウン後の1年間の変化を個々人で比較し、COVID-19シャットダウンに伴う体重および肥満指数(BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗)の変化を調べることを目的とした。

研究方法

(中略)

ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の電子医療記録(EMR)システムのデータを用いて、シャットダウン後の1年間(2020年3月16日~2021年11月12日)とシャットダウン直前の1年間(2018年1月1日~2020年3月15日)の両方で外来受診をした時に、BMIを2回以上測定した成人の体重およびBMI変化の平均を求めた。また、対面式体重測定のみを用いた感度分析も報告する。5%以上の体重変化またはBMIの同等の2単位の変化と定義される、臨床的に有意な体重の変化を有する割合を、体重が安定していた個人と比較し、重要なサブグループ間の差異を分析した。参加者と方法についての詳細は、付録のeMethodsに記載されている。人種と民族は、EMRに記録された患者の自己申告に基づく。人種は、アラスカ先住民、アメリカンインディアン、アジア人、黒人、フィリピン人、インド人、ネイティブハワイアン、太平洋諸島民、白人のカテゴリーで構成されていた。民族はヒスパニックと非ヒスパニックで構成されていた。人種と民族は肥満とCOVID-19の発生率に関連しているため、対象とした。

(中略)

結果

成人10万2889名(平均年齢[SD]:56.4歳[18.2],女性64%,黒人8%,非ヒスパニック白人90%,平均BMI[SD]:30.8[7.3])を対象とした。時間0から時間1(シャットダウン前)までの期間の平均(SD)は10.7カ月(2.5)、時間2から時間3(シャットダウン後)までの期間の平均(SD)は10.6カ月(2.5)であった。参加者の体重は、シャットダウン前の1年間(平均変化、0.18kg[95%CI、0.15~0.22])およびシャットダウン後の1年間(平均変化、0.22kg[95%CI、0.19~0.26])で統計的に有意に増加したが、シャットダウン前と後の変化の差は有意ではなかった(差、0.04kg[95%CI、-0.01~0.10]、P=0.11)。4つの指標をすべて対面で評価した患者のみを含む感度分析では、シャットダウン後の期間の体重増加はシャットダウン前の期間に比べて有意に少なかった。体重が安定している人の割合は、シャットダウン前からシャットダウン後にかけて2%減少し、一方、5%増加または減少した人の割合は約0.7%増加しました(図)。シャットダウン前からシャットダウン後までの体重変化は、サブグループ間で差はなかった。BMIの結果も同様であった。

考察

このコホート研究によって、COVID-19のシャットダウン後に見られた体重またはBMIの変化は、医療システム内の外来治療を受けた成人の大規模集団において、シャットダウン前の期間に生じた変化よりも有意に大きくはないことが明らかになった。我々の結果と先行研究との違いは、方法論の違いに関連している可能性がある。多くの先行研究では、自己申告と自己選択した参加者が使用されているか、短い期間での体重増加が報告されている。EMRデータと各個人のデザインを採用し、シャットダウン後の変化をCOVID-19シャットダウン前の同様の期間に見られた変化と比較することにより、より長期の変化を評価し、シャットダウンに伴う変化と時間経過による変化を解釈し、主な固定(時間で変動しない)変数(例えば、性、人種)をコントロールできた。

本研究の限界は、EMRにおける測定方法が標準化されていないこと、体重変化の原因(例:身体活動、食事摂取)を検討できないこと、このサンプルに人種や民族の多様性がないこと、などである。しかし、体重の変化には人種間の差はなく、先行研究と一致していた。 EMRのデータには医療を受けた人しか含まれていないため、我々の結果はすべての成人に一般化されない可能性がある。これらの知見は、COVID-19のシャットダウン・オーダーが成人の体重増加につながるという公衆衛生上の懸念を軽減するのに役立つと考えられる。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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