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切除可能肺がんの手術前にニボルマブと抗がん剤併用療法を行うと、抗がん剤単独より再発が抑えられる可能性あり(NEJM誌の報告)

[2022.05.15]

肺がんの治療は新規薬剤の登場により、この10年で格段に進歩しました。私は肺がん診療から離れて5年以上になりますので、私が経験したことのない新しい治療法が次々と登場しており、最新情報についていくのが大変です。

特に、本庶佑先生がノーベル賞を受賞したことで有名となったPD-1を介する経路を抑制する治療法の開発が凄まじいです。がん細胞が体内にできると、免疫細胞が反応し、がん細胞を殺していきます。しかし、がん細胞も強くなります。PD-1というタンパク質をがん細胞表面に発現し、免疫細胞から逃れて、再び増殖できるようになります。

がん細胞の免疫回避能力を抑える薬が免疫チェックポイント阻害剤(ICI)です。詳しくは国立がん研究センターのがん情報サービスを参照してください。このICIが登場して、進行期の肺がん患者さんでも5年以上の長期に生存する方が出てきました。10年前に考えられなかったことであり、隔世の感があります。

次に考えることは、肺がんの手術成績の向上です。肺がんは手術しても、数か月~数年して再発することが多く、決して成績はよくありません。進行期肺がんで効果があるICIを早期肺がんにも利用できないかと考えるのは自然な流れです。

手術で切除可能な肺がんに薬物治療を追加する方法として、手術前と手術後の2通りが考えられます。術前に使用するメリットとして、その薬物の効果を画像で確認できることです。切除前の腫瘍が薬物で小さくなるのかCTなど画像で容易にチェックできます。一方、術後に薬物治療する場合は、腫瘍が切除されてしまっているので、CTなど画像で治療効果をチェックできません。術後治療は画像では確認できない微小病変をターゲットとしているからです。術前治療のデメリットとして、使用する薬剤の効果がない場合、治療している間にガンが進行し、手術で切除不可能になってしまうおそれがあります。

肺癌診療ガイドライン 2021年版では、術前治療について以下のように述べられています。なお、プラチナ併用療法とはいわゆ抗がん剤治療であり、ICIは含まれていません。

 

肺癌診療ガイドライン 2021年版

臨床病期Ⅰ-ⅢA期に対して,術前プラチナ製剤併用療法は勧められるか?

a.

臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(第8版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:74%〕

b.

臨床病期ⅢA期(第8版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:65%〕

 

今回紹介する論文では、手術で切除可能は肺がん患者(病期ⅠBからⅢA期)を対象として、PD-1阻害剤であるニボルマブと抗がん剤の併用、もしくは抗がん剤単独のどちらが再発率が低下するかを検証しています。

下図にあるようにニボルマブを追加した方が、無再発生存期間が有意に延長されています。

 

次に、全生存期間(死亡率)を比較してみても、中間解析の時点では有意差ではありませんでしたが、観察期間を延ばせば、差がでてきそうな印象です。今後、免疫チャックポイント阻害剤が使用される場面がさらに増えてきそうです。

 

Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer

切除可能な肺癌に対する術前治療としてのニボルマブと化学療法の併用療法

 

April 11, 2022

DOI: 10.1056/NEJMoa2202170

概要

概要

背景

切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、術前または術後化学療法は、手術単独療法に比べ、ある程度の利益をもたらす。初期臨床試験において、ニボルマブをベースにした術前治療のは有望な臨床活性を示したが、これらの知見を確認するためには、第3相臨床試験のデータが必要である。

方法

この非盲検第3相試験では、病期ⅠBからⅢA期の切除可能なNSCLC患者を、ニボルマブとプラチナ製剤による化学療法を併用する群とプラチナ製剤による化学療法を単独で行う群にランダムに割り付け、その後切除を行った。主要評価項目は無イベント生存期間および病理学的完全奏効(切除した肺およびリンパ節内の生存がん細胞が0%)であり、いずれも盲検独立審査により評価された。全生存率はキーとなる副次的評価項目であった。安全性は、治療を受けたすべての患者で評価された。

結果

無イベント生存期間中央値は、ニボルマブ+化学療法で31.6カ月(95%信頼区間[CI]、30.2~未到達)、化学療法単独で20.8カ月(95%CI、14.0~26.7)であった(疾患進行または疾患再発、死亡に対するハザード比、0.63;97.38% CI、0.43~0.91;P=0.005)。病理学的完全奏効を得た患者の割合は,それぞれ 24.0%(95% CI,18.0~31.0),2.2%(95% CI,0.6~5.6) であった(オッズ比,13.94;99% CI,3.49~55.75;P<0.001 ).無イベント生存率と病理学的完全寛解の結果は,ほとんどのサブグループで化学療法単独よりもニボルマブ+化学療法が有利であった.事前に指定された最初の中間解析では,死亡のハザード比は 0.57(99.67% CI,0.30~1.07) であり,有意差の基準を満たさなかった.ランダム化を受けた患者のうち、ニボルマブ+化学療法群の83.2%、化学療法単独群の75.4%が手術を受けた。グレード3または4の治療関連有害事象は、ニボルマブ+化学療法群では33.5%、化学療法単独群では36.9%にみられた。

結論

切除可能なNSCLC患者において、術前ニボルマブ+化学療法は、術前化学療法単独に比べ、無イベント生存期間が有意に長く、病理学的完全奏効を認めた患者の割合が高かった。術前化学療法にニボルマブを追加しても、有害事象の発生率は上昇せず、手術の実施可能性も妨げなかった。(ブリストル・マイヤーズスクイブ社からの資金提供あり。CheckMate 816 ClinicalTrials.gov No. NCT02998528。)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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