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慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率はGOLD基準で10.3%(3.9億人)、LLN(正常下限値)基準で7.6%(2.9億人)(Lancet Resp Med誌より)

[2022.04.03]

日本呼吸器学会のCOPDガイドライン2018では、COPDの診断基準として

①長期の喫煙歴など環境因子がある

②気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで一秒率(FEV1/FVC)が70%未満

③他の気流閉塞を来しうる疾患を除外

の3つが挙げられています。

これは、COPDの世界ガイドラインと言えるGOLD(Global Initiative on Obstructive Lung Disease)を採用したものです。この診断基準は、年齢にかかわらず一秒率が70%未満、という単純明快な数値を設けているのが特徴です。利点は大変分かりやすいので、COPDという概念を世界中に広めるために貢献していると言えるでしょう。

一方、課題として、年齢にかかわらず70%という数字を採用したため、高齢になるに従い、診断が過剰になることが指摘されています。健康で非喫煙の人でも、年齢とともにFVCとFEV1は低下してきます。例えば、FVCが4Lの若年者は、FEV1が2.8L未満まで(1,200㎖以上)下がらなければ一秒率70%未満とはなりませんが、FVCが2Lしかない高齢者はFEV1が1.4L未満(600mlの変化)でCOPDの基準に当てはまるようになります。

スパイロメトリーによるCOPDの定義は、長年にわたり様々な団体により異なるものが採用されてきた。努力性肺活量(FVC)に対する1秒量(FEV1)の比が正常下限値(LLN)未満であること(FEV1/FVC<LLN)が、欧州呼吸器学会や米国胸部疾患学会で採用されている。しかし、Global Initiative on Obstructive Lung Disease(GOLD)では、有害な煙やガスへの曝露、呼吸器症状とともに、固定比率(FEV1/FVC<0.7)の使用が推奨されている。GOLD定義の固定比率による基準は、若年者では過小診断、高齢者では過剰診断につながる恐れがあるため、LLN基準が疫学調査で用いられるようになってきている。(今回紹介する論文のIntroductionより)

GOLD REPORT2022をよく読んでみると、つぎのようなことが書かれています。

しかし、これらの基準(固定比率とLLN)のうち、どれが最適なCOPD診断精度となるかを判断することは困難である。・・・スパイロメトリーはCOPDの臨床診断を確定するための1つのパラメータに過ぎないため、固定比率を診断基準として個々の患者を誤診したり過剰治療したりするリスクは限定的である。症状やその他の危険因子が追加的なパラメーターとして使用される。多忙な臨床医にとって、診断の簡便性と一貫性は極めて重要である。したがって、GOLDはLLNよりも固定比率の使用を推奨している。

世界には医療設備や医師のレベルが様々な国が混在していますので、全世界を対象に作成されたGOLDでは分かりやすい基準である固定比率(一秒率<70%)を採用したと言えるでしょう。

それでは、GOLD基準とLLN基準によるCOPDによって、有病率にどれぐらい差があるのでしょうか?高齢者の診断過剰が危惧されるGOLD基準ではCOPD有病率が高くなることが予想されます。

65カ国260施設にわたる162の集団ベースの研究を含む、今回の系統的レビューとモデリング研究では、2019年の30~79歳のCOPDの世界有病率はGOLD基準では10.3%(95%CI 8.2~12.8)であり、3億9190万人(95%CI 312.6~487.9)に相当し、LLN基準では7.6%(5.8~10.1)、2億9200万人(219.8~385.6)に相当すると推定された。ほとんどの症例はLMICs(中低所得国)であったが、有病率はHICs(高所得国)でわずかに高かった。男性、喫煙、肥満度18.5kg/m2未満、バイオマスへの曝露、粉塵や煙への職業的曝露はすべてCOPDの実質的な危険因子であった。我々の知る限り本研究は、広く用いられている2つの症例定義に基づき、COPDの有病率と症例数を世界、地域、国レベルで初めて報告したものである。(今回紹介する論文のDiscussionより)

日本で行われた有名なCOPD疫学調査に、NICE studyというものがあります。それによると、日本人のCOPD有病率は10.9%と報告されており、今回のGOLD基準10.3%とほぼ同じでした。

高齢者におけるCOPD有病率はGOLD基準とLLN基準でどの程度異なったのか気になります。

本文中のTable1によれば、70~74歳ではGOLD基準で23·4%、LLN基準で15·4%、75~79歳ではGOLD基準で27.8%、LLN基準で17.9%でした。40~44歳ではGOLD基準で3.6%、LLN基準で5.1%、45~49歳ではGOLD基準で4.7%、LLN基準で6.2%でした。

やはり、LLN基準と比べると、GOLD基準によるCOPD有病率は高齢者で高く、若年者で低い傾向がみてとれます。

 

Global, regional, and national prevalence of, and risk factors for, chronic obstructive pulmonary disease (COPD) in 2019: a systematic review and modelling analysis

2019年における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の世界、地域、国の有病率とリスク要因:システマティックレビューとモデル化分析

Davies Adeloye, PhD et al.

Published:March 10, 2022

DOI: https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00511-7

 

概要

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界中で罹患率、身体障害、死亡率の原因としてますます重要性が増している。我々は、政策や住民の介入を導くために、世界、地域、国におけるCOPDの有病率と危険因子を推定することを目的とした。

方法

今回の系統的レビューとモデリング研究のために、1990年1月1日から2019年12月31日までに発表されたCOPD有病率に関する人口ベースの研究を、MEDLINE、Embase、Global Health、CINAHLで検索した。2つの主要な症例定義であるGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease の固定比(GOLD;FEV1/FVC<0.7)と正常下限値(LLN;FEV1/FVC<LLN)を用いて報告されたデータを対象とした。多変量混合効果メタ回帰法を採用し、世界銀行の定義による高所得国(HICs)と低・中所得国(LMICs)の2019年におけるCOPDの年齢別・性別有病率を算出した。GOLD-COPDの危険因子は、ランダム効果メタ分析で評価した。

所見

65カ国、260施設で実施された人口ベースの研究を報告した論文162本を同定した。2019年、30~79歳のCOPDの世界有病率は、GOLD定義では10.3%(95%CI 8.2~12.8)であり、3億9190万人(95%CI 312.6~487.9)、LLN定義では7.6%(5.8~10.1)で、2億

9200万人(219.8~385.6)であることが示された。GOLDの定義を用いると、2019年に世界で30~79歳の3億9,190万人(95%CI 312.6~487.9)がCOPDに罹患し、そのほとんど(3億1550万人[246.7~399.6]; 80.5%)がLMICsに住んでいると推定された。30~79歳におけるGOLD基準COPDの全有病率は、西太平洋地域が最も高く(11.7%[95%CI 9.3~14.6])、アメリカ大陸地域が最も低かった(6.8%[95%CI 5.6~8.2])。

世界的にみて、男性(OR 2.1 [95% CI 1.8~2.3] )、喫煙(現喫煙者 3.2 [2.5~4.0]; 既喫煙者 2.3 [2.0~2.5])、体格指数 18.5 kg/m2 未満(2.2 [1.7~2.7] )、バイオマス曝露 (1.4 [1.2~1.7]) および職業的粉塵・煙への曝露 (1.4 [1.3~1.6] )は、COPD の重大危険因子であることが明らかになった。

解釈

世界のCOPD患者の4分の3以上がLMICsに居住しており、この慢性疾患に取り組むことは、これらの国地域の医療システムにとって主要かつ増大する課題となっている。これらの地域の多くではリソース不足であり、人口全体を対象とした取り組みや医療システムの改革をしなければ、世界的にCOPDの負担を大幅に軽減することは困難であろう。

資金提供

国立健康研究所、ヘルスデータリサーチUK。

 

拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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