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COVID-19パンデミックにおいて、喘息患者への吸入コルチコステロイド(ICS)の処方が増えている(イングランドの報告)

[2022.01.16]

今回は、Lancet Respiratory Medicine誌のSPOTLIGHT(スポットライト/注目)コーナーの記事を紹介します。

COVID-19のパンデミックでは、COVID-19そのものの感染と重症化、死亡者数が報道などではよく取り上げられています。しかしながら、COVID-19と直接関係のない病気にも多大な影響を与えています。例えば、健診やがん検診の受診率低下によって、がんなどの病気の早期発見が遅れて重症化してしまうことが挙げられます。自殺者の増加もパンデミックと関連があるかもしれません。

喘息はCOVID-19と同じ呼吸器系疾患であり、COVID-19による悪影響が懸念されます。しかし、意外にもそうではなく、喘息にとっては逆に良い影響かもしれません。以前、本ブログでも取り上げたように

新型コロナによるロックダウン後、喘息の増悪(発作)が減少(英国からの報告)[2021.08.29]

フィジカルディスタンスを取ったり、マスクや手指衛生を徹底することにより、コロナだけではなくその他のウイルス感染も減り、喘息増悪が減ったと考えられています。

今回のSPOTLIGHTでは、パンデミックにより、喘息の主要治療薬である吸入コルチコステロイド(ICS)の処方率が増えたことを報告しています。

 

 

SPOTLIGHT| VOLUME 10, ISSUE 1, P6-7, JANUARY 01, 2022

COVID-19パンデミック時の吸入コルチコステロイド処方率の推移

Changes in rates of prescriptions for inhaled corticosteroids during the COVID-19 pandemic

Published:December 09, 2021

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00547-6

 

(中略)COVID-19パンデミックにより、プライマリーケアでの医療提供内容は急速に変化し、対面診察が減少し、電話やオンライン診療に移行した。2020年3月から5月にかけて報告された電話診察の総数(2470万件)は、平均するとプライマリケアにおける全診察数(5860万件)の42%を占め、前年同期(990万件)と比較して2.5倍に増加した一方で、全診察数の絶対数は前年比で17%減少した。この時期は、イングランドで初めて法的に課された全国ロックダウンを含んでいる。

⇛対面診察が減少し、電話やオンライン診察が増加したのは、日本も同じ状況ではないかと予想します。しかし、診察を受けた患者数全体が減少しています。いずれの診察も受けない患者さんが相当数いることが考えられます。

 

患者は指示通りに処方薬を服用しないことがよくある。つまり、ICSを処方された喘息患者が不適切な吸入テクニックをとっていることがよくあり、定期的にICS吸入しないこともある。治療失敗につながるこのような原因は修正可能であり、多職種チームが医薬品情報の提供やサポート、吸入方法を定期的にチェックすることで、治療結果を改善することができる。(中略)パンデミックであるこの時期に、ICS療法に対する患者の要望や処方数が増加している。2020年3月~5月のICS吸入剤全品目の処方数は、2019年の同時期と比較して20%増加した。パニック的な注文が薬剤師から報告され、吸入薬を長期間もらっていなかった患者や、臨床的に必要性が差し迫っていない患者など、多くの患者が処方を希望した。2020年3月に需要のピークが見られ、ICSの処方数は前年比で平均43%増となった。この時、プライマリーケアの診察の絶対数が減少したにもかかわらず、1診察あたりのICS処方数は26%増加した。

⇛診察を受ける患者さんは減っているのに、ICSの処方がパニック的に増えたとのこと。久しぶりに受診して、吸入薬の長期処方を希望する患者さんが増えたようです。このような患者さんには、吸入薬を適切に使用するように指導するチームが必要です。

 

オンライン診察では、対面での診察に比べて処方率が上がることは、臨床医が認識している課題である。処方箋を持って診察を終えるようにという患者からのプレッシャーは、過剰な処方の原因として知られている。さらに、診断に必要な情報が診察時に少なく、診察で患者評価や吸入技術の確認ができないため、処方する際には電話診察の中で薬の最適化を図るというジレンマに陥るのである。

ICSのアドヒアランスの変化は複雑かつ多因子性である。長期管理薬や自己管理計画を使用することに、患者がリスクや価値を見出すことが重要な要因となっている。パンデミック時に長期管理治療のアドヒアランスが向上した理由として、呼吸器疾患などの基礎疾患を持つ患者がCOVID-19に感染した際の重症化を恐れた可能性や、自己隔離期間中における呼吸状態や呼吸器症状に与える影響を恐れた可能性がある。

コントロール不良の成人および小児喘息患者におけるCOVID-19の重症度上昇と高い入院リスクが報告されており、特に感染前の数週間にICSを定期吸入していなかった患者ではされに大きな恐れを感じている。(中略)2020年1月~3月の間、喘息およびCOPDの患者において、長期管理吸入薬のアドヒアランスが相対的に14~5%増加したと報告されており、処方箋発行率の増加はこの間のアドヒアランスの改善傾向を反映している可能性が示唆されている。(中略)

また、パンデミック時には、薬を早めに受け取ったり、禁煙意欲が向上したり、オンライン医療サービスを利用したり、オンラインで吸入方法の動画を視聴したりなど、自己管理行動の変化も報告されており、患者が自己管理によって症状を確実にコントロールしようとする意欲を持っていることが伺える。(中略)

⇛オンライン診療では、聴診器などによる診察もできず、X線写真などで検査もできません。精神科でもなければ面談だけして、オンライン診療を終えることは困難です。話だけ聞いて「お大事に」というわけにもいかず、「処方します」と言って、オンライン診療を終えたくなる気持ちは分かります。患者さんもそれを期待しています。

一方、このパンデミックによって、吸入薬を使用してしっかり自己管理しようと考えている患者さんも増えています。喘息のコントロール状態が悪いと、COVID-19が重症化することが知られています。重症化しなくても、自宅やホテルなどに隔離された場合に薬がないと、増悪(発作)が起きたときに、一人で対処しなくてはなりません。

 

需要のピーク時にサプライチェーンに過度な影響を与えないよう、適切な量の薬を処方することは、今後も継続されるべきである。薬の処方が適切でタイムリーであることを確認し、さらに患者サポート、セルフケアのアドバイス、患者の吸入技術のチェックすることには、薬剤師やその他のチームが適している。スマートフォンを通じて自宅で利用できる診断ツールの拡充は、それらを効果的に使用するための適切な多職種からのサポートがなければ、重大な結果をもたらす可能性がある。急性増悪時の医療機関受診のタイミングを含め、十分な情報提供とサポートを受けた自己管理計画の重要性は、今後ますます高まっていくであろう。遠隔医療の診断・モニタリング機能の強化とさらなる評価により、患者がほぼ自宅にいながらにして症状を管理し、最適な治療法を選択するサポートを、医療従事者は効果的に行うことができる。

⇛このパンデミックによって、対面よりオンラインが身近な存在となりました。オンラインでのツールを駆使して、多職種チームが関与すれば、喘息患者による自己管理がより一層進むことになるでしょう。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

ぜん息について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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