ぜん息をもつ若者に対しては、同じようなぜん息をもつ若者にぜん息自己管理方法を指導させた方が良い(JAMA誌の報告)
喘息治療薬の最近の進歩は著しく、この20年で喘息死は減少しています。
ここで治療薬という用語を使いましたが、実は正確ではありません。治療薬というと喘息を治す薬という意味になってしまうため、専門的には喘息の管理薬と言います。管理薬は短期管理、長期管理薬の2つに分かれます。短期管理薬はいわゆる喘息発作に対処する薬である一方、長期管理薬は日々の症状を抑え、将来の発作(増悪)を予防し、将来の肺機能低下を抑えるために使用されます。喘息の薬は、喘息を治すのではなく、管理するためにあるのです。
長期管理薬の進歩が喘息死減少の要因となっているのは間違いありません。しかし、長期管理薬には「アドヒアランス(服薬順守)」という問題があります。長期管理薬の目的は将来のリスク回避ですので、症状がなく調子が良い日にも服用しなければならないのです。いくら優秀な薬でも、服用しなければ治療効果はゼロです。医師を含む医療従事者は、将来のリスク回避のため、服薬アドヒアランスを向上するように、喘息患者さんに説明しますが、なかなか届かないという印象をもっています。
今回紹介する論文は、喘息をもつ若者に対しては、同じような喘息をもつ若者に指導させた方が良いという研究結果を報告しています。
まず、持続性の喘息をもつ12才~17才の若者を、同じような喘息をもつ16~20才の若者が喘息自己管理プログラムを教える群と、大人の医療従事者が同じプログラムを指導する群に分けます。屋外や大学構内、病院施設内で1日キャンプを行い、4人から8人の少人数グループに分けて、同じ年頃の喘息患者のリーダーまたは大人の医療従事者がプログラムを指導しました。
登録時からキャンプ15か月後まで3カ月毎に、症状や活動制限、感情的機能からなる小児喘息QOL質問票によりQOLを測定し、その改善度合いを調査しました。下図に示すように、同じ闘病仲間(ピア)に指導された方が、QOLが改善しました。しかも、キャンプで指導された直後ではなく、3~6か月後くらいからその差が開いていることが分かります。
同じ病気をもつ、ちょっと年上の仲間に指導された方が、病気の管理をしっかりしようとやる気になるのでしょう。特に、思春期の若者の場合は、大人に指導されても反抗的に受け取ってしまうのかもしれませんね。
今回の研究は、アメリカの都市圏に住むアフリカ系アメリカ人の若者を対象に実施されていますので、日本にそのまま適用はできないことに注意が必要です。
Long-term Effectiveness of a Peer-Led Asthma Self-management Program on Asthma Outcomes in Adolescents Living in Urban Areas: A Randomized Clinical Trial
都市部に住む青少年の喘息の転帰において、闘病仲間主導の喘息自己管理プログラムが長期的に有効:無作為化臨床試験
JAMA Netw Open. 2021;4(12):e2137492.December 7, 2021. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.37492
キーポイント
質問
都市部に住む青少年の喘息コントロール状態の改善において、闘病仲間主導の喘息プログラムは、大人主導のプログラムよりも効果的か?
研究結果
黒人またはアフリカ系アメリカ人を主体とする青少年320人を対象とした無作為化臨床試験において、闘病仲間主導のプログラムは、大人の教育者が主導するプログラムよりも、喘息のコントロール、QOL、自己効力感を長期にわたって改善する上で有意に効果的であった。
意味
人種的・民族的マイノリティの青少年に喘息の自己管理教育を行う場合、医療従事者を用いた従来のアプローチに代わり、仲間主導のアプローチが有力であると考えられる。
概要
重要性
都市部に住む青少年の喘息転帰の改善を目的とした、闘病仲間主導の喘息自己管理プログラムの長期的な有効性は確立されていない。
目的
都市部に住む主に人種的・民族的マイノリティの青少年を対象に、闘病仲間主導のプログラムが喘息コントロール、QOL、喘息管理に及ぼす長期的効果を明らかにすること。
デザイン、設定、参加者
2015年から2019年にかけて、米国の3大都市圏(ニューヨーク州バッファロー、メリーランド州ボルチモア、テネシー州メンフィス)で並行群間無作為化臨床試験を実施した。持続性喘息を有する12~17歳の青少年を、主に診療所や学校を通じて募集した。参加者は、介入後15ヶ月間フォローアップされた。ベースラインで二重盲検化が実施された。データ解析は、2019年6月から2020年6月まで行った。
介入方法
介入群には闘病仲間主導の喘息自己管理プログラムを、対照群には成人の医療専門家が主導する同様のプログラムを提供した。ピアリーダーは、12ヵ月間、隔月でフォローアップの連絡を行った。
主なアウトカムと測定方法
過去2週間における、症状(10項目),活動制限(5項目),感情的機能(8項目)の3つの下位尺度からなる小児喘息QOL質問票によりQOLを測定した.各項目は7点満点で測定され、平均点が高いほどQOLが高いことを示す。副次的評価項目には、喘息コントロール質問票と、症状の予防と管理の手順、自己効力感、肺機能を把握する喘息自己管理指数が含まれた。
結果
登録可能な青少年395名のうち、35名が拒否し、38名が来なかったか連絡がつかなくなり、2名が無作為化前に撤回した。320名の青年が参加し(平均年齢[SD]、14.3歳[1.71])、そのうち168名が男子(52.5%)、251名が黒人またはアフリカ系アメリカ人(78.4%)、232名が公的医療保険加入者(72.5%)だった。登録された320人のうち、303人が縦断的分析に含まれた。回答率はすべての時点において80%以上であった。ピア主導グループは成人主導グループよりも結果の改善が大きく,ベースラインと 15 ヵ月間の調整平均差(AMDs)は,QOL で 0.75 対 0.37( グループ間 AMD,0.38;95% CI,0.07 ~ 0.63 ),喘息コントロールで -0.59 対 -0.31( グループ間 AMD,-0.28;95% CI,-0.51 ~ -0.01 )であった.結果は、2ヶ月に1回の連絡による影響を受けなかった。
結論と関連性
今回の無作為化臨床試験において、ピア主導の喘息自己管理教育は、大人主導のプログラムよりも喘息の転帰の改善に有効であり、改善は最長で15か月間持続した。これらの知見は,都市部に住む人種的・民族的マイノリティの青少年において、大きすぎる喘息負荷に対処するために,ピア主導の喘息自己管理プログラムを考慮すべきことを示唆している.
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)