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早期非小細胞肺がん患者に対する手術療法と定位放射線療法では、どちらの生存期間が長いのか

[2019.12.01]

ガンはガン細胞の集まりからなっています。たとえば、径1cmの早期肺ガンが見つかりましたと言っても、顕微鏡レベルでは数百万個以上のガン細胞の集まりです。ガン細胞は1個でも環境が整えば無限に増殖する能力を持っています。すなわち、数百万個あるガン細胞のうち1個でも血液中やリンパ液中に流れ出せば、ガンは転移する可能性があります。実際、早期の肺がん患者さんの血液を調べればガン細胞を発見できることがあります。もちろん、血液中に流出したガン細胞がすべて転移に成功するわけではなく、そのほとんどが死滅します。しかし、流れ出ているガン細胞が何万個とあれば、転移巣を作るのに成功するガン細胞がでてきます。

 

現在の問題は、CTやPETなど最新の医学画像技術をもってしても、ガンは約1cm以上にならなければ見つけられないことです。早期肺ガンでも手術が勧められる理由はここにあります。あらゆる検査で転移が見つからなかった早期肺ガン患者さんでも、手術してみると病理検査ではリンパ節に転移がありましたというケースは少なくありません。病理検査は顕微鏡を使ってガン細胞を探すので、CTなど画像検査では指摘できなかったガン細胞を見つけることができます。

 

今回紹介する論文では、早期の非小細胞肺ガン患者さんで手術と定位放射線治療でどちらか成績がよかったかを比較しています。定位放射線治療とは、通常の放射線治療と異なりターゲットをガン病巣のみに絞るため、正常の肺を可能な限り傷つかないように、放射線を照射する治療法です。定位放射線治療は数日間で完了し、痛みは全くなく、通院治療が可能です。手術は入院や全身麻酔が必要であり、術後の痛みが残るため、患者さんへの負担が大きくなります。しかし、手術では目に見えるガン病巣を切除するだけではなく、近傍のリンパ節も一緒に摘出するので、目に見えない転移があるリンパ節も同時に治療できます。一方、定位放射線治療ではリンパ節に対しては治療しません。もしリンパ節内にガン細胞がいた場合、放射線治療後にそのガン細胞が増殖し、ガンが再発することになります。

 

回の研究では、近傍のリンパ節の摘出(所属リンパ節廓清)を行った手術では定位放射線治療より成績が明らかに良かったことを示しています。ただし、コホート研究であり、無作為化比較試験の結果ではないことに注意が必要です。(実際問題として、手術と定位照射では患者負担にあまりにも違いがあるので、無作為化比較試験を実施するのは困難です。)

 

JAMA Netw Open 2019; 211):e1915724

Published: November 20, 2019. doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.15724

 

キーポイント

質問

早期の非小細胞肺がん患者に対し、さまざまな程度の所属リンパ節郭清を伴う根治手術後の長期生存と、定位放射線療法後の長期生存はどれくらい違うのか?

結果

米国国立癌データベース上で104,709人の早期非小細胞肺がん患者を対象とした今回のコホート研究において、適切な範囲の所属リンパ節郭清および手術を組み合わせた患者では定位放射線治療を受けた患者よりも長期生存率が有意に優れていた。

意味

今回の結果により、所属リンパ節検査郭清を併用した根治目的の手術が、早期非小細胞肺がん患者の長期全生存率が最も優れていることが示唆された。

 

要旨

重要性

 早期非小細胞肺癌(NSCLC)に対する手術と定位放射線治療(SBRT)の今までの比較では、手術中の所属リンパ節郭清の範囲を考慮していなかった。

 

目的

 手術を受けた患者の所属リンパ節郭清の範囲を十分に考慮した上で、手術またはSBRTを受けた早期NSCLC患者の長期全生存(OS)を比較すること。

 

試験デザイン、設定、参加者

 多変数Cox比例ハザードモデルを用いた生存比較、および傾向スコアマッチング後の生存比較をコホート研究で行った。国立がんデータベースのデータを2018年10月28日から2019年4月18日まで分析した。2004年1月1日から2015年12月31日までに診断された早期NSCLCの患者ですべての根治手術またはSBRTを受けた患者が含まれた。

主な結果と測定 

 長期OS

結果

 合計104,709人の患者のうち、91,330人が手術を受け(男性42,508人 [46.5%]; 年齢中央値[四分位範囲], 68歳[61-75])、13,379人がSBRTを受けた(男性6,065人 [45.3%]; 年齢中央値[四分位範囲], 75歳[68-81])。手術、特に肺葉切除術(ハザード比[HR], 0.53; 95%CI, 0.50-0.56)、特に10以上のリンパ節が郭清された場合(HR, 0.73; 95%CI, 0.69-0.77)では、長期OSと関連していた(P <.001)。 リンパ節郭清が0個の場合(stage T1のHR, 1.43; 95%CI, 0.67-3.06; P = .35; stageT2-T3のHR, 0.62; 95%CI, 0.34-1.13; P = .12)、または80歳未満のstageT1の患者で15個以上のリンパ節が郭清された場合(HR, 0.77; 95%CI, 0.54-1.09; P = .14)、または80歳以上の患者で任意の範囲で所属リンパ節郭清を受けた場合(15個以上のリンパ節を郭清:stageT1のHR, 0.65; 95%CI, 0.16-2.64; P = .54; stage T2-T3のHR, 0.90; 95%CI, 0.50-1.60; P = .71)において、肺全摘術は死亡リスク低下とは関連していなかった。

 stageT2からT3の腫瘍を有する80歳以上の患者(肺葉切除のHR, 0.90; 95%CI, 0.65-1.25; P = .53)、およびstage T1の腫瘍を有する75歳以上の手術が選択された患者(肺葉切除のHR, 1.07; 95%CI, 0.57-2.00; P = .84)では、リンパ節廓清が行われない低侵襲手術はOSの改善と関連していなかった。

結論と関連性

 全体的には、適切な範囲で所属リンパ節廓清を組み合わせた手術が早期NSCLC患者の長期OSが最良であることを本研究で示した。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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