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新型コロナウイルス(COVID-19/2019-nCoV)による肺炎41例の特徴(LANCET誌より報告)

[2020.02.01]

 

誤解をさけるため、論文の考察から抜粋して翻訳します。

「今回の新型ウイルス(2019-nCoV)感染症と今までのβコロナウイルス(SARS-CoVおよびMERS-CoV)感染症は、臨床的特徴が類似していることが注目されている。 本研究の患者では、ほとんどの患者で発熱、乾いた咳、呼吸困難を認め、胸部CTスキャンでは両側すりガラス状陰影を呈した。 2019-nCoV感染症のこれらの特徴は、SARS-CoVおよびMERS-CoV感染症とある程度類似しており、標的細胞が下気道にある可能性を示している。 さらに、2019-nCoV患者は腹部症状(下痢など)を認めなかったが、MERS-CoVまたはSARS-CoV感染症の患者の約20〜25%は下痢を認めた。ーー(中略)ーー

 

2019-nCoV感染患者では血漿中のIL-1B、IFNγ、IP10、およびMCP1濃度が高く、おそらくヘルパーT細胞1(Th1)活性化につながっていることに我々は注目した。 さらに、ICU入室を必要とする患者ではICU入室を必要としない患者よりも、GCSF、IP10、MCP1、MIP1A、およびTNFα濃度が高く、サイトカインストームが疾患の重症度と関連することが考えられた。ーー(中略)ーー

 

SARS-CoV、MERS-CoV、2019-nCoV感染によって誘導されるサイトカインの量が多いことから、炎症による肺傷害を引きおこさないようにコルチコステロイドが重症患者の治療に頻繁に使用された。 しかし、現在の科学的根拠によると、SARSおよびMERS患者に対してコルチコステロイドを投与しても死亡率は改善せず、むしろウイルスの除去を遅らせることが示唆されている。ー(中略)- 今回の41人の2019-nCoV感染患者では、非ICU患者のうち非常に少数例にコルチコステロイドが投与され、ARDSの重症患者のうち半数弱に低〜中用量のコルチコステロイドが投与された。 2019-nCoV感染患者に対しコルチコステロイドの全身投与が有益か有害かを評価するには、さらなる研究が緊急に必要である。
以上、論文の考察より抜粋して翻訳しました。
 
以下は論文要旨の翻訳になります。
 

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Published:January 24, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30183-5

概要

背景

中国武漢における最近の肺炎集団発生は、新規ベータコロナウイルス(2019-nCoV)によって引き起こされた。我々は、今回の患者の疫学的特徴、臨床的特徴、血液と画像検査の特徴および、治療とその転帰について報告する。

方法

感染が疑われた患者はすべて、武漢にある指定病院に入院した。検査室でリアルタイムRT-PCRおよび次世代シークエンスにより確認された2019-nCoV感染患者のデータを前向きに収集および分析した。電子医療記録からInternational Severe Acute Respiratory and Emerging Infection Consortiumが共有する標準化データ収集フォームによりデータを取得した。さらに、研究者が患者またはその家族と直接コミュニケーションを取り、疫学および症状のデータを確認した。集中治療室(ICU)に入院した患者と入院しなかった患者の結果も比較した。

結果

2020年1月2日までに、41人の入院患者が、検査で2019-nCoVが確認され、2019-nCoV感染症であると特定された。感染患者のほとんどは男性であった(41人中30人[73%])。基礎疾患をもつ患者は半数以下(13 [32%])であり、その中に糖尿病(8 [20%])、高血圧(6 [15%])、心血管疾患(6 [15%])が含まれた。年齢の中央値は49.0歳(IQR 41.0–58.0)であった。 41人の患者のうち27人(66%)が華南海鮮市場と接触していた。 1つの家族内で集団発生が見つかった。病気の発症時によくある症状は、発熱(41人中40人 [98%])、咳(31人 [76%])、筋肉痛または疲労(18人 [44%])であった。比較的頻度の少ない症状は、喀痰(39人中11人 [28%])、頭痛(38人中3人 [8%])、血痰(39人中2人 [5%])、下痢(38人中1人 [3%])であった。呼吸困難は40人の患者のうち22人(55%)認めた(病気の発症から呼吸困難出現までの期間は中央値8.0日[IQR 5・0–13・0])。 41人の患者のうち26人(63%)にリンパ球減少症を認めた。 41人の患者全員に、胸部CTでの異常所見を伴う肺炎が認められた。合併症として急性呼吸促迫症候群(12 人[29%])、ウイルス血症(RNA)(6人 [15%])、急性心傷害(5人 [12%])、二次感染(4 [10%])が認められた。 13人(32%)の患者がICUに入院し、6人(15%)が死亡した。非ICU患者と比較して、ICU患者ではIL2、IL7、IL10、GSCF、IP10、MCP1、MIP1AおよびTNFαの血漿レベルが高かった。

解釈

2019-nCoV感染により、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスに類似した重症呼吸器疾患が集団で発生し、ICU入院と高い死亡率に関連していた。ウイルスの起源や疫学、ヒトへの感染の期間、病気の臨床状況に関して分からないことが多く、今後さらなる研究が必要である。

資金提供

科学技術省、中国医学科学院、中国国立自然科学財団、北京市科学技術委員会。

以上、論文要旨の翻訳でした。

 

以下は、2020/2/1時点における私の個人的見解を述べます。間違った考え方が含まれる可能性を否定しませんので、ご注意ください。

コロナウイルスは風邪の原因となるウイルスであり、珍しいものではありません。しかし、突然変異を繰り返し、SARSやMERS、今回の2019-nCoVに進化しました。その結果、ヒトに感染すると、上気道(鼻やノド)を素通りし、下気道(気管支~細気管支)に直接到達する能力を得たものと思われます。そのため、風邪であれば鼻水やノドの痛みがまず出現するのですが、2019-nCoVに感染するといきなり発熱とセキが出現するようです。先週のブログで紹介したNEJMの論文の中で、2019-nCoVが気道上皮細胞の中で増殖し、細胞を変性している写真がありました。つまり、2019-nCoVは上気道より下気道で増殖しやすい性質を持っているのかもしれません。そして、下気道に突然出現したウイルスに対し、ヒトの免疫系が過剰に反応(サイトカインストーム)し、ウイルスだけではなく自分の肺にも傷害を与え、急性呼吸促迫症候群(ARDS)を引き起こしてしまうのではないでしょうか。

一方、軽症患者も多いことが最近報道されています。重症化する人と重症化しない人を感染初期に予想できれば対策も立てやすいのですが、今回の41例報告によると、年齢や症状、一般的な血液検査など臨床的特徴では判別できないようです。サイトカインを市中病院で検査することは困難ですし、サイトカインを調べても重症化の予想にはあまり役に立たないでしょう。サイトカインストームが出現している頃には既に重症となっている可能性が高いからです。

2019-nCoVの分離培養に成功したとの報道が最近ありました。まずはワクチンの開発を期待しますが、製品化されるまで早くても半年や1年といった期間が必要でしょう。それまでは手洗いやうがいといった標準予防策で対処するしかないと思われます。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

新型コロナについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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