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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)時代における季節性インフルエンザ (JAMA誌Insightsより紹介)

[2020.08.29]

Solomon DA, Sherman AC, Kanjilal S. Influenza in the COVID-19 Era. JAMA. Published online August 14, 2020. 

doi:10.1001/jama.2020.14661

2020年8/14のJAMA誌に、今後我々が直面するであろうインフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行についてINSIGHTs(見解)が述べられていたので紹介します。

 

「毎年流行するインフルエンザは、世界中の医療システムに対して大きな影響を与えており、2010年以降、米国だけで毎年推定12,000〜61,000人が亡くなっている。・・・ 2019年から流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、インフルエンザよりも数倍の罹患率と致死率をもつ2つ目の呼吸器系ウイルスに臨床医は直面することになった。 公衆衛生当局と臨床医にとって、インフルエンザとCOVID-19の同時流行という迫りつつある脅威は、大きな懸念事項である。」

⇒JAMA誌は1883年に創刊され、世界中の医師に読まれている超一流の権威のある雑誌です。日本語で米国医師会雑誌という名の通り、アメリカの雑誌です。この著者はマサチューセッツ州ボストンに勤務する医師であり、アメリカでのCOVID-19とインフルエンザの状況を踏まえて、主に米国医師向けに書いています。そのため、日本にそのまま当てはまるわけではないことに注意が必要です。

 

「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)はCOVID-19を引き起こすウイルスであり、インフルエンザとは全く異なる病原体であるが、重要な共通点がある(表)。両ウイルスは主に飛沫によって感染する。したがって、公共の場におけるフェイスカバー装着義務化、学校と小売業の閉鎖、移動制限などの非薬理学的介入(NPI)は、両ウイルス感染症の発生率にさまざまな程度で影響を与える。過去のシーズンと比較して、NPIの採用後、2020年(1月から5月)のインフルエンザ発生率が低下する傾向が、複数の研究により示されている。同様の傾向が米国でもみられ、2019-2020年シーズンにはインフルエンザ様疾患の発生数が予測より早く減少した。パンデミック第一波の際にSA​​RS-CoV-2以外の呼吸器系ウイルスの検査数が大幅に削減されたため、これらのデータを解釈する際には注意が必要である。」

 

⇒2019-2020年の季節性インフルエンザは日本でも早く終わりました。例年3−4月頃までインフルエンザ患者が見られましたが、2020年は2月にはインフルエンザは終息した印象です。2月はCOVID−19が話題となった時期と重なっており、日本におけるソーシャルディスタンスや3蜜対策がインフルエンザ終息にも役立ったといえます。

 

「次のインフルエンザシーズンまでインフルエンザ感染の減少傾向が続くと予測するには、NPI遵守が継続されていることが前提である。 感染が増加している期間中、フェイスカバーの使用を継続し、地域のロックダウンを再実施すると、両ウイルスの感染率が大幅に低下する可能性がある。しかし、移動制限が緩和されており、インフルエンザとSARS-CoV-2の両方が増加する可能性もある。」

⇒2019-2020年シーズンのインフルエンザが早期に終息したからと言って、2020-2021年にインフルエンザが流行しないとはいえません。しかし、日本ではマスク装着、手洗いが諸外国より徹底してしているように思われ、2020-2021年のインフルエンザは例年よりは流行しないのではないでしょうか。(そのように期待しています。)

 

「NPIに加えて、集団のウイルス量を最小限に抑えるため、季節性インフルエンザワクチンの重要性が高まっている。複数のインフルエンザワクチンが広く利用可能なのにもかかわらず、国全体のワクチン接種率は常に成人の50%未満である。 保健医療を受けることが少ない人々やこれまでワクチン接種率が低かった若者、などのグループに焦点を当てて、地域のワクチン接種プログラムを実施するとともに、全国的に教育キャンペーンを張ることが、前年度より接種率をあげるために必要である。」

⇒米国と同様、日本においてもインフルエンザワクチンの接種率は低く、補助金がでる65歳以上の高齢者においても50%未満のようです。全体では20-30%程度ではないかと言われています。

 

「初期インフルエンザとCOVID-19を鑑別できる臨床的特徴は特にない。しかし、臨床現場では原因ウイルスを特定することが重要となるであろう。

第一に、2つのウイルスの治療方針が異なる。 インフルエンザはノイラミニダーゼ阻害剤またはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤により治療可能であるが、どちらもSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性はない。・・・

第二に、各ウイルスによって引き起こされる病状経過は異なる。 インフルエンザ患者は通常、最初の1週間に最も重篤な症状を示す。一方のCOVID-19の患者は、症状がもっと長い期間認め、2週目または3週目にピークを迎える。 ウイルスを鑑別すれば、症状が今後どのように進行するか、医師は患者指導することができ、病状経過の後半で生じうる合併症に気づくことができるようになる。

第三に、ウイルスを正しく特定すれば、隔離や検疫を適切に指導したり、学校や職場への復帰に関する推奨ができ、COVID-19患者の特定と接触者の追跡を含む重要な感染制御に影響する。」

⇒症状や臨床的特徴のみでインフルエンザとCOVID-19を見分けられるような信頼性の高い方法はないと言っています。検査をしてウイルスを特定しなければ、治療もできず、十分な説明を患者にすることはできません。

 

「2020年の呼吸器系ウイルスのシーズンが始れば、呼吸器系ウイルス感染症による非特異的な特徴を示す患者は、最低でもSARS-CoV-2の検査を受けるべきである。臨床的診断基準のみでしばしば治療されていた従来の診療からの分岐点である 。 さらに複雑な問題は、インフルエンザとSARS-CoV-2の同時感染が観察されたことである。そのため、1つのウイルスが陽性になったからといって、他のウイルスの感染が除外されるわけではない。最初に両方のウイルス検査をすべきか、それともSARS-CoV-2の検査結果をみてインフルエンザ検査を追加すべきかは、まだあきらかではない。・・・ 」

⇒同時感染がありうるので、どちらも検査しなければいけないのかもしれません。

 

「COVID-19のパンデミックを制御するためには、SARS-CoV-2を大規模に監視することが重要である。検体採取を簡便にし、臨床現場で迅速な診断を普及するように、代替の検体(前鼻腔スワブや唾液など)を検証すれば、診断のための検査を拡大することができるであろう。そうすることで経時的な検査が容易になり、患者の発見率が改善する。そうすることで、無症候性および症状出現前の患者の蔓延や、個人用保護具の使用、隔離期間を減らすことができる。特に、1つのカートリッジを使用してインフルエンザとSARS-CoV-2、RSウイルスの複数検査を可能にするために、既存の測定法を多くの業者が改良している。これらの検査は、患者とスタッフのリスクと不便さを最小限に抑えながら、効率的な診断法を模索している臨床医の需要を満たし、有用である。唾液を臨床現場で使用できるように、これらの測定法を検証する作業がまだ残っている。」

⇒現在のPCR検査では、新型コロナウイルスしか判明しないし、検体採取に伴う医療従事者のリスクが高すぎます。一般の診療所レベルでは、今のところ唾液によるPCRが最も現実的かと思われ、日本でも早く普及させるべきでしょう。

 

「結論。SARS-CoV-2の診断、治療、ワクチン開発の分野は急速に進歩しているが、インフルエンザとCOVID-19の同時流行に対して国民は脆弱である。 罹患率と死亡率の規模は、公衆衛生対策の強さと直接関連する。すなわち、現在利用可能な2つの最も効果的な感染防止ツールが重要であることを強調しなければならない:季節性インフルエンザの予防接種を広範囲で実施すること、有効なSARS-CoV-2ワクチンおよび/または自然感染による地域の免疫が達成されるまでNPIを維持することの2つである 。 臨床医と地域社会の一員として、医師やその他の医療専門家はこれらの重要な介入を促進し、前例のない挑戦の時期に診断アプローチを柔軟に保つ必要がある。」

⇒今年度は、インフルエンザ予防接種が例年よりも大切です。そして、新型コロナウイルスのワクチンができるまで、マスク、ソーシャルディスタンス、3密対策が引き続き必要不可欠です。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

新型コロナについても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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