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呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は喘息増悪(発作)を予測できるのか(LIBERTY ASTHMA QUEST試験の事後解析, Lancet Respir Med誌より)

[2021.07.04]

 

FeNOは気道における2型炎症の重要な指標として注目されています。気道に好酸球性の炎症があると、FeNOは上昇するため、喘息の診断に役立ちます。喘息を疑う症状がある人のFeNOが37ppbを超えていれば、ほぼ喘息と診断してよいと考えられています。 

 

FeNOは喘息を診断するには有用あり、FeNO高値であれば吸入コルチコイド(ICS)が効きやすいことは知られています。しかし、喘息の治療目標には、現在症状を良くすることだけではなく、将来の増悪を抑制することも含まれます。ICSが効きやすいのであれば、増悪も抑制しやすいのではないかと、単純に考えてしまいそうですが、明らかにしたデータはありませんでした。

 

今回紹介する論文では、2型炎症の代表的なバイオマーカーである末梢血好酸球とFeNOを使って、将来の喘息増悪を予測できるのかを検証しています。過去の増悪歴は将来の増悪予測因子であることは分かっています(喘息発作を起こした事がある患者は将来も発作を起こしやすい)ので、過去の増悪歴も合わせて評価しています。

 

LIBERTY ASTHMA QUEST試験は当ブログでも以前紹介しましたように、喘息に対する生物学的製剤デュピルマブの有効性を証明した臨床試験です。

 

中等症から重症のコントロール不良喘息にデュピルマブ(デュピクセント®)は有効(LIBERTY ASTHMA QUEST試験)

 

本試験は、第3相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、コントロール不良な中等から重症の喘息患者を対象に、52週間におけるデュピルマブの有効性と安全性を評価していました。

 

今回の事後解析では、デュピルマブを投与した患者ではなく、プラセボ(偽薬)を投与した患者だけ抜き出して解析の対象としています。

その結果、治療前の末梢血好酸球数や過去の増悪歴に加えて、FeNOが喘息増悪のリスクを予測する上で独立した予後因子として重要な役割を果たしていることがわかりました。

 

具体的には、

FeNOが25ppb未満の患者に比べて、

FeNOが50ppb以上の患者では増悪率が1.54倍、

FeNOが25~50ppbの患者では増悪率が1.33倍高い。

 

FeNOが25ppb以上、血中好酸球数が150/μL以上、過去に2回以上の増悪歴のある患者は、

FeNOが25ppb未満、血中好酸球数が150細胞/μL未満、過去に1回のみ増悪歴のある患者に比べて、

増悪率が3.62倍高い。

 

 

LIBERTY ASTHMA QUEST試験でプラセボを投与されたコントロール不能な中等症から重症の喘息患者における、その後の重症喘息増悪の予後バイオマーカーとしてのベースラインFeNO:事後解析結果

Lancet Respir Med. 2021 Jun 25;S2213-2600(21)00124-7. 

DOI: 10.1016/S2213-2600(21)00124-7

 

概要

背景 

呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は、喘息の予後バイオマーカーとして期待されているが,現在ある他の指標と比較して、予後を予測できるか不明である。血中好酸球数や重症の喘息増悪歴に加えて、ベースラインのFeNOがその後の増悪を予測する効果を持つのかを評価した。

 

方法

52週間の二重盲検第3相試験(LIBERTY ASTHMA QUEST試験)の今回の事後解析では、無作為にプラセボに割り付けられた中等度から重度の喘息患者620名を同定した。吸入グルココルチコイドおよび1ないし2種類の喘息管理薬を併用ししても、コントロールが不良な喘息患者を対象とした。前年に1回以上の増悪歴があり、一秒量が予測値の40-80%、一秒量の可逆性が12%以上かつ200mL、喘息コントロール質問票(ACQ-5)のスコアが1.5以上、ベースラインの2型炎症バイオマーカー(FeNO、好酸球、総IgE)のデータが完全にあれば、ベースラインの値は不問とした。年換算の重度増悪率は、ベースラインのFeNO(25ppb未満、25以上~50ppb未満、50ppb以上;負の二項モデル)で評価し、ベースラインの血中好酸球(150/μL未満、150以上~300/μL未満、300/μL以上)と過去の増悪回数(1回、2回以上)でクロス分類し、ベースラインのACQ-5、気管支拡張剤投与後のFEV1、その他の臨床特性ですべて調整した。Post-hoc解析はintention-to-treat集団で行われた。LIBERTY ASTHMA QUEST STUDYは、ClinicalTrials.gov, NCT02414854に登録されており、完了している。

 

調査結果

ベースラインのFeNOが50ppb以上の患者(n=144)では、FeNOが25ppb未満の患者(n=291、相対リスク 1.54 [95%CI 1.11-2.14]、p=0.0097)に比べて、増悪率が1.54倍高かった。ベースラインのFeNOが25~50ppbの患者(n=185)は、FeNOが25ppb未満の患者に比べて増悪率が1.33倍高かった(1.33 [0.99-1.78]、p=0.0572)。ベースラインのFeNOが25ppb以上、血中好酸球数が150/μL以上、2回以上の増悪歴のある患者(n=157)は、FeNOが25ppb未満、血中好酸球数が150細胞/μL未満、1回の増悪歴のある患者(n=116、3.62 [1.67-7.81]、p=0.0011)に比べて、増悪率が3.62倍高かった。

 

解釈

コントロール不良の中等度から重度の喘息において、ベースラインのFeNO値が高いと、特に好酸球数増多や過去の増悪歴が同時に存在すると、重度の喘息増悪のリスクが高いことが示された。これは、予後予測バイオマーカーとしてのFeNOの付加的な有用性を支持するものである。FeNOが喘息増悪の独立した予測因子であることを確認するには、さらなる研究が必要である。

資金提供 サノフィ社およびリジェネロン社。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

喘息についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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