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ナザルチニブ(nazartinib)はEGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する新薬となれるか:多施設共同非盲検第1相試験

[2020.03.07]

 

EGFRをターゲットにした治療薬として、ゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)、アファチニブ(ジオトリフ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)が順番に開発され、すでに患者さんに投与されています。開発順とその作用機序から、ゲフィチニブとエルロチニブを第1世代、アファチニブを第2世代、オシメルチニブを第3世代と便宜上呼んでいます。

 

第1世代の薬を投与開始すると著明な治療効果がみられるのですが、数カ月から1年後に薬が効かなくなってしまうことが大きな問題でした。治療が効かなくなる原因としてT790Mという遺伝子変異が主な原因であることがわかり、オシメルチニブはこのT790Mにも効く薬として開発されました。

 

オシメルチニブは期待どおりの効果を発揮し、第1世代の薬が効かなくなった患者さんに奏効するだけではなく、さらには第一選択薬としても有用であることを、2019.12.21記事に記載しました。

 

その後、オシメルチニブに続いて第3世代の薬となるべく、新薬候補が開発されています。ロシレチニブとオルムチニブは、オシメルチニブと同様の設定で臨床効果を示しましたが、安全性の問題または有効性が低いため、どちらも新薬として認められることはありませんでした。 他にもいくつかの第3世代EGFR阻害剤の候補が臨床試験で調査されています。

 

今回紹介する論文では、EGFR変異陽性進行期非小細胞肺がんを対象に、新規の第3世代EGFR-TKIであるナザルチニブを調査する大規模な多施設共同第Ⅰ相試験の結果を発表しています。 主な研究目的は、ナザルチニブの最大耐用量を決定し、次の臨床試験のために推奨用量を推奨することでした。 この研究ではさまざまなEGFR変異を持つ患者の登録可能でしたが、合計180症例のうち162症例がT790M変異を保有していました。

 

第Ⅰ相試験であるにもかかわらず、ナザルチニブで治療された患者数は比較的多く、推奨用量(1日1回150 mg)以上を投与された患者116人が有効性解析の対象となっています。さらに、治療効果と投与量に関連はないようであり、ナザルチニブとオシメルチニブの効果を大まかに比較することが可能でした。奏効率(部分奏効または完全奏効)はオシメルチニブが71%[95%CI 65-76]、ナザルチニブが51%[43–59]であり、オシメルチニブの方が高い印象です。無増悪生存期間中央値は、オシメルチニブが10.1か月[95%CI 8.3–12.3]、ナザルチニブが9.1か月[7.3–11.1]であり、同様でした。

 

ナザルチニブとオシメルチニブはどちらも変異のあるEGFRのみを阻害するように創薬されているため、野生型(正常の)EGFRを阻害しないため、毒性が低いことが予想されます。 Grade3〜4の(強い)毒性は、オシメルチニブで治療された患者の23%に発生したのに対し、ナザルチニブ(任意の用量または推奨用量)で治療された患者の55%に発生しており、ナザルチニブの方が毒性が強いようです。

 

ナザルチニブが、付加価値のある新薬として認可されるようになるのか、ロシレチニブとオルムチニブのように消えていく運命にあるのか、今後経過を追っていきたいと思います。

 

上記はLancet Respir Med.の同号にあるeditorialを参考にして記述しました。Published:January 15,2020 DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30361-3

 

以下は論文要旨の和訳になります。

 

Published:January 15, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30267-X

まとめ

背景

第一世代および第二世代の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKIs)で非小細胞肺癌(NSCLC)を治療すると、50〜60%の患者でThr790Met変異が出現し治療耐性となる。活性化EGFR変異NSCLC患者において、第三世代EGFR TKIであるnazartinib(EGF816)は野生型EGFRには影響せず、Thr790Metまたは活性化EGFR変異(もしくは両方)を選択的に阻害する。今回の試験は、nazartinibの安全性と有効性を評価することを目的とした。

方法

この非盲検多施設第1/2相試験の用量漸増第1相試験部分は、ヨーロッパ、アジア、および北米にある9つの大学病院で実施された。18歳以上で、病期IIIB-IV期EGFR変異NSCLC(色々なEGFR変異状態、前治療は許容)、少なくとも1つの測定可能病変、およびEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のPSが2以下の患者が登録された。ナザルチニブ(75 mgから350 mgの7つの用量レベル、カプセルまたは錠剤)は、28日間の連続投与スケジュールで1日1回経口投与された。過剰投与制御原理で用量を増量し、2つのパラメーターのベイジアンロジスティック回帰モデルを実施した。そして、ナザルチニブの推奨用量を決定し、最大耐用量または第2相試験での推奨用量を推定した(主要評価項目)。この研究はClinicalTrials.gov (NCT02108964)に登録されている;第1相試験の登録完了、研究進行中。

結果

2017年8月31日までに、180人の患者(女性116名 [64%]、年齢中央値60歳(52〜69歳)、ECOG-PS 1が116名 [64%])が登録され、7つの用量レベルでナザルチニブを投与された;75 mg(n = 17)、100 mg(n = 38)、150 mg(n = 73)、200 mg(n = 8)、225 mg(n = 28)、300 mg(n = 5)、350 mg(n = 11)。150 mg、225 mg、または350 mgのナザルチニブを1日1回投与した6人(3%)の患者で、7つの用量制限毒性が観察された。最大耐用量は満たさなかったが、推奨される第2相試験の用量は1日1回150 mg(錠剤)と決定された。因果関係に関係なく、最もよくみられた有害事象は発疹(全サブカテゴリの患者111名 [62%]、斑状丘疹状皮疹72 名[40%]、ざ瘡様皮膚炎22名[12%])、下痢(81 名[45%])、皮膚掻痒症(70名 [39%])、疲労(54名 [30%])、および口内炎(54 名[30%])であり、ほとんどがグレード1〜2であった。すべての原因によるグレード3〜4の有害事象は99名(55%)の患者で報告され、最も一般的なのは発疹(全サブカテゴリで27名 [15%])、肺炎(12名[7%])、貧血(10名[6%])、および呼吸困難(9名 [5%])であった。薬物関連が疑われる重篤な有害事象は、16名(9%)の患者で発生した。

解釈

ナザルチニブは、最小限の用量減量を必要とする斑状丘疹状皮疹を主な特徴とする低グレードの皮膚毒性を認めるものの、安全性プロファイルは良好であった。

資金提供

ノバルティス製薬企業

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

肺がんについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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