閉塞性睡眠時無呼吸を診断する検査方法として下顎運動モニタリングが有用か(JAMA誌よりの報告)
睡眠時無呼吸を診断するには、なかなか大変です。 第一の障壁は、患者さんに自分は睡眠時無呼吸ではないかと自覚してもらい、クリニック等を受診しようという動機付けをするのが難しいことです。
いびきも無呼吸も本人が気づくわけではなく、日中の眠気のみでは自分が睡眠時無呼吸かもと思わないからです。
第二の障壁は、受診後も検査に時間がかかることです。
受診してその日に診断がつくわけではありません。
日本では、まず夜間睡眠中の酸素濃度モニタリングでスクリーニング検査を行います。
その結果をみて、睡眠時無呼吸の疑いが濃厚であれば、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)を次に行います。
PSGは多数のモニターをつけて、脳波や胸郭腹部の動きなど複数のモニタリングを行うため、通常は入院で行います。
クリニックレベルではPSGができないので、PSG検査のできる病院に紹介します。
病院の外来を受診した後に、一泊入院検査の予約をするため、検査待ちの期間が発生します。
さらに、検査結果も入院中に説明するわけではなく、退院後外来を受診して説明してもらうことになるので、ここでも時間がかかります。
PSG検査ができる病院も限られているためどこも混雑しており、結果がでるまで数ヶ月かかることも少なくありません。
治療開始が結果がでてからになるため、最初の受診から治療開始まで数ヶ月以上経ってしまいます。
PSGに替わるもっと簡便な検査方法の開発が求められています。
自宅ですぐにできるような方法であれば、もっと多くの疑い患者さんに検査できるようになり、最初の受診から治療開始まで短縮できるはずです。
今回紹介する論文では、下顎にモニターを一つつけるだけの簡単な検査で、睡眠時無呼吸を評価できるか検証しています。
無呼吸低呼吸の回数が15回/h未満の軽症から中等症の睡眠時無呼吸では、下顎運動モニタリングはPSGとほぼ同様の結果が得られています。
40回/以上の重症となると、PSGよりも下顎モニタリングは値が低くでる傾向があるようです。
閉塞性睡眠時無呼吸を診断する検査方法として下顎運動モニタリングが有用か
JAMA Netw Open. 2020;3(1):e1919657. January 22, 2020. |
キーポイント
質問
閉塞性睡眠時無呼吸を診断する上で、下顎運動の自動分析とポリソムノグラフィとでどちらが有用か?
所見
閉塞性睡眠時無呼吸が疑われる376名の成人を対象とした今回の診断研究では、下顎運動による呼吸障害指数により、ポリソムノグラフィー呼吸障害指数が5回/ h以上では精度0.92で、または15回/ h以上では精度0.88で、患者が特定された 。
意義
下顎運動パターンの自動分析により呼吸障害指数は確実に計算され、閉塞性睡眠時無呼吸の診断においてこの方法は有望と考えられれる。
概要
重要性
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の有病率が高いことを考えると、より簡単で自動化された診断アプローチが必要である。
目的
機械学習による自動分析と組み合わせた、睡眠時下顎運動(MM)のモニタリングがOSAの診断に適しているかどうかを評価すること。
デザインと設定、参加者
研究機関の睡眠クリニックにおいて、終夜ポリソムノグラフィ(PSG)を対照方法として、同時に実施するMMモニタリングを比較する診断的研究(ベルギー、ナミュールにあるSleep Laboratory, Centre Hospitalier Universitaire Université Catholique de Louvain Namur Site Sainte-Elisabeth)。
OSAが疑われる患者が2017年7月5日から2018年10月31日まで登録された。
主な結果と測定値
閉塞性睡眠時無呼吸の診断には、5回/ h以上のPSGによる呼吸障害インデックス(PSG-RDI)とともに、兆候や症状、または関連する医学的または精神医学的併存症の存在が必要とした。
PSG-RDIが15回以上/hであれば、関連する症状や併存症がなくても、診断基準を満たした。 これらの基準を満たさない患者は、OSAではないと分類した。
レシーバー動作特性曲線によって最適化する診断閾値をもつサンライズシステムのRDI(Sr-RDI)とPSG-RDIを比較するBland-Altmanプロットによって、合意分析と診断パフォーマンスを評価し、OSAを5回/時および15回/時で検出する際のデバイスの感度と特異性を評価できるようにした 。
結果
OSAが疑われる376人の成人の中で、
平均年齢(SD)は49.7歳(13.2)、
平均BMI(SD)は31.0(7.1)、207人(55.1%)は男性であった。
OSAのない患者(n = 46、平均差1.31、95%CI、-1.05〜3.66回/h)と、PSG-RDIが5回以上/hで症状のあるOSA患者(n = 107、平均差-0.69、95%CI、-3.77〜2.38回/h)において、PSG-RDIとSr-RDIの間に信頼性のある一致をみた。
PSG-RDIが15回/ h以上のOSA患者で、Sr-RDIでは過少評価されており(-11.74回/ h;95%CI、-20.83〜-2.67)、Sunriseシステムによる診断閾値の最適化によって修正された 。
Sr-RDIの診断機能は、PSG-RDIが5回/hおよび15回/hに対応するROC曲線におけるAUCがそれぞれ0.95(95%CI、0.92-0.96)および0.93(95%CI、0.90-0.93)として示された。
2つの最適なカットオフ値 7.63回/hおよび12.65回/hにおいて、Sr-RDIの精度は0.92(95%CI、0.90-0.94)および0.88(95%CI、0.86-0.90)であり、テスト後の確率はPSG-RDI5回/h以上で0.99(95%CI、0.99-0.99)、PSG-RDI15回/h以上で0.89(95%CI、0.88-0.91)であった。
これは正の尤度比がそれぞれ14.86(95 %CI、9.86-30.12)および5.63(95%CI、4.92-7.27)に相当する。
結論と関連性
MMパターンの自動分析は、RDIの計算において信頼できる能力を示した。
OSA診断においてこの指数の使用は有望と思われる。
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)
睡眠時無呼吸症候群について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから