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結核菌感染後に、新ワクチンで肺結核発症を予防できるか

[2019.11.04]

結核を予防するためBCGワクチンが昔から使用されており、現在は1歳未満の乳児に1回定期接種されています。BCGワクチンはウシ型結核菌由来の生ワクチンであり、結核発病を1/4程度に抑える効果があり、その効果の持続期間は10~15年と言われています(添付文書より)。私が子供の頃にはツベルクリン反応(ツ反)を行って陰性であれば再度BCGワクチンを接種していましたが、現在は行われていません。ツ反は結核菌由来のタンパク質に対する免疫反応があるかを調べます。結核菌感染が疑われる場合に以前からツ反が検査されてきました。しかし、日本人の場合はBCG接種が必ず行われているので、ツ反が陽性であってもBCGワクチンの影響が残っているのか、最近の結核菌感染なのか鑑別ができません。インターフェロンγ(IFN-γ)遊離試験(IGRA: クォンティフェロン®など)が開発されてからは、ツ反検査をすることはほとんどなくなりました。

 

日本では大人になるとBCGワクチンの効果がほぼ切れており、結核菌を排菌している患者と濃厚な接触があるとまず感染すると考えてよいでしょう。現在は、排菌患者と接触があった場合、感染したかどうかはツ反ではなく血液検査でIGRAを測定します。特殊な採血管に血液を入れると、血液中のリンパ球が採血管内の結核菌特異抗原に刺激されインターフェロンγを産生します。そのインターフェロンγが高値なら陽性と判断し、結核菌感染があると診断します。

 

IGRA陽性で結核菌感染があると判断した場合、胸部X線写真などで結核が発病していないかを検査します。発病していれば、結核の治療を行います(通常4種類の薬剤で6カ月)。発病をまだしていなければ、潜在性結核感染症(LTBI)として対処します。LTBIを治療するかどうかの判断は難しく、現在は発病する可能性が高い患者のみに対して抗結核薬1種類のみで治療します(通常6カ月)。つまり、発病するリスクが低ければLTBIの治療はしないこととなります。

 

今回紹介する論文では、ケニア、南アフリカ、ザンビアでIGRA陽性の参加者約3,500人(LTBIとほぼ同じ集団と考えられる)を集めて、M72/AS01Eワクチンもしくはプラセボを投与し、その効果を検証しています。3年間追跡した結果、ワクチンの有効性は約50%、つまり結核の発病を半数に抑えることができました。

結核菌未感染者に接種するBCGワクチンには、結核の発症を52~74%程度予防する効果があるといわれています。それに対し、結核菌感染者に接種するM72/AS01Eワクチンが結核の発症を約50%予防するという数字は悪くないのではないでしょうか。もちろん、アフリカだけではなく、もっとグローバルな臨床試験が今後必要です。個人的には、LTBIの治療薬とこのワクチンを合わせれば、結核の発病をもっと抑えられないかというところに興味があります。

 

結核菌感染後に、新ワクチンで肺結核発症を予防できるか:M72 / AS01Eワクチンの有効性試験の最終解析

NEJM October 29, 2019
DOI: 10.1056/NEJMoa1909953

要旨

背景

結核菌に対するワクチン候補であるM72/AS01Eの試験を早期に解析した結果、結核菌が感染した成人で、活動性肺結核の発症を54.0%予防し、安全性に明らかな問題はなかった。今回は有効性、安全性、免疫原性について3年間の最終解析の結果を報告する。

方法

2014年8月から2015年11月まで、ケニア、南アフリカ、ザンビアの医療センターにおいて、結核菌が感染(インターフェロンγ遊離試験の陽性結果で定義)しているが、活動性結核に罹患している証拠がない、18歳から50歳までの成人を登録した。参加者はM72/AS01E群またはプラセボ群のいずれかに1:1の比率で無作為に割り当てられ、1か月間隔で2回投与された。主な目的は、第1定義(HIV感染に関連なく、細菌学的に確認された肺結核)による活動性肺結核を予防するため、M72/AS01Eの有効性を評価することであった。参加者は2回目の投与後に3年間追跡された。参加者が臨床的に結核の疑いがあれば、喀痰を採取してPCRか抗酸菌培養、またはその両方の検査を行った。 300人の参加者からなるサブグループで、体液性および細胞性免疫応答を36ヶ月目まで評価した。M72/AS01Eまたはプラセボを少なくとも1回投与したすべての参加者で安全性を評価した。

結果

合計3,575人の参加者が無作為化割り付けを受け、そのうち3,573人が少なくとも1回のM72/AS01Eまたはプラセボを投与され、3,330人が予定通り2回投与された。 プロトコルによる有効性コホートの3,289人の参加者のうち、M72/AS01E群1,626人のうち13人、プラセボ群1,663人のうち26人が、第1定義を満たす結核を発症した( 発生率、100人年あたり0.3例 vs. 0.6例)。 36ヵ月時点でのワクチンの有効性は49.7%であった(90%信頼区間[CI], 12.1〜71.2; 95%CI, 2.1〜74.2)。M72/AS01E群では、M72特異的抗体の濃度とM72特異的CD4+ T細胞の密度が1回目の投与後に増加し、追跡期間を通じて持続した。 重篤な有害事象、潜在的な免疫関連疾患、および死亡の発生の頻度は2群間で同様であった。

結論

結核菌に感染した成人では、M72/AS01Eワクチンの接種により免疫応答が惹起され、少なくとも3年間は肺結核への進行が予防された。 (GlaxoSmithKline Biologicals and Aerasから資金提供あり。ClinicalTrials.gov番号, NCT01755598)

 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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