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睡眠時無呼吸と認知症は関連するのかー睡眠時無呼吸が重症になると、大脳白質病変が増加するー(JAMA誌の報告)

[2021.10.24]

睡眠時無呼吸症候群(SAS)はとてもありふれた病気です。当ブログでも以前紹介したように、全世界で約9億人がSASと考えられ、積極的な治療が必要な重症SASは約4億人いると推計されています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんは全世界でどれぐらいいるのか[2019.08.18]

日本人のおおよそ5~10人に一人がSASに罹患していると考えられます。一度、家族の方が寝ているときにイビキが止まったら、呼吸も一緒に止まっていないか観察してみてください。

 

自分がSASではないかと気づくまでが第一関門とすると、SASの検査を受けるまでが第二の関門です。この第二関門も相当な高さがあります。家族にSASかもしれないといわれても、本人は寝ている間の出来事なので自覚できないからです。新幹線やバスなどの運転手が事故をおこすまで、自分がSASであることを分からないこともあるくらいです。

SASを放置しておくと大変なことになるということを本人に教えてあげることが必要です。日中の眠気や交通事故はSASの問題の一つではありますが、それだけでは職業が運転手でなければなかなか検査を受けようとまでは思いません。

重症のSAS患者さんが眠っている間、呼吸が止まるたびに体内は酸素不足状態に陥ります。その数は1時間当たり30回以上(重症)です。例えて言うと、富士山山頂と地上を1時間に30回瞬間移動しているようなものです。このような酸欠状態を毎晩、なん年も繰り返していて、体に良いはずはありません。酸素を最も必要とする臓器、脳と心臓が少しずつダメージを受けます。

本日紹介する論文では、睡眠時無呼吸があると、大脳白質病変が増加することを示した研究結果を報告しています。

大脳白質病変は,高齢者や認知症、脳卒中患者の脳の磁気共鳴画像(MRI)でよく観察されます。大脳白質病変は、ラクナ梗塞や微小出血などの他の病変と並んで、脳小血管疾患のマーカーとなることが示唆されており、認知症、認知機能低下、脳卒中、抑うつなどのリスク増加と関連しています。

SASを放置していると、脳の小血管に異常をきたし、認知症や脳卒中になるリスクが高くなるのです。

 

睡眠時無呼吸患者では脳の前頭葉の脳室周囲(Aの緑色部位)、後頭葉の脳室周囲(Bの青色部位)に病変ができやすい

 

Association Between Obstructive Sleep Apnea and Brain White Matter Hyperintensities in a Population-Based Cohort in Germany

ドイツの人口ベースのコホートにおける閉塞性睡眠時無呼吸と大脳白質病変との関連性について

Published: October 5, 2021. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.28225

JAMA Netw Open. 2021;4(10):e2128225. 

 

キーポイント

質問  

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、大脳脳白質病変(WMH)と関連するか?

調査結果 

 Pomerania-Trend baselineにおける健康研究の参加者529名を対象とした、今回のコホート研究において、OSAの増加と大脳脳白質病変の増加との間に統計学的に有意な関連が認められた。

意味  

この研究でOSAと大脳脳白質病変との関連が認められ、新規の治療可能な脳白質疾患の病態を示している可能性がある。

 

概要

重要性 

高齢者に多く見られ、アルツハイマー病や脳の老化との関連が指摘されている大脳脳白質病変(WMH)の根底にある病態は、まだ十分に解明されていない。慢性的な閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、大脳脳白質病変増加の一因となる可能性がある、一般にありふれた疾患であり、治療法もすでにある。

目的  

OSAとWMH負荷との関連の可能性を調査すること。

デザイン、設定、および参加者 

WMH,OSA,および重要な臨床データが揃っているStudy of Health in Pomerania-Trend baseline(SHIP-Trend-0)研究の研究参加者529人を対象として 解析を行った。SHIP-Trend-0は、共通の危険因子、潜在的な病気、および臨床疾患の広範なスペクトルとそれらの相互関係を調査するための、一般的な人口ベースの横断的な観察研究で、2008年9月1日からドイツの西ポメラニア州から患者を募集し、2012年12月31日までデータを収集した。データ解析は、2019年2月1日から2021年1月31日まで行った。

エクスポージャー  

無呼吸・低呼吸指数(AHI)と酸素飽和度指数(ODI)は、研究室ベースの一晩の睡眠ポリグラフ測定で評価した。

主要評価項目と測定方法 

 主要評価項目は,1.5T 磁気共鳴画像から自動的に分割されたWMHデータであった。

結果  

試験参加者529名(平均年齢[SD]52.15歳[13.58]、女性282名[53%])のうち、209名(40%)または102名(19%)が、AHIまたはODIによる診断基準によりOSAと診断された(平均AHI[SD],7.98[12.55]イベント/時;平均ODI[SD],3.75[8.43]イベント/時)。AHI (β = 0.024; 95% CI, 0.011-0.037; P <.001)とODI (β = 0.033; 95% CI, 0.014-0.051; P <.001)はともに脳内WMH体積と有意に関連していた。

血管や代謝,生活習慣といったWMHの危険因子を加味してもこれらの関連性は維持されていた。領域別のWMH解析では、前頭葉脳室周囲のWMH体積とAHI(β=0.0275、95%CI、0.013-0.042、P<0.001)およびODI(β=0.0381、95%CI、0.016-0.060、P<0.001)、ならびに後頭葉脳室周囲のWMH体積とAHI(β=0.0165、95%CI、0.004-0.029、P=0.008)の間に最も強い関連が認められた。

結論と関連性  

本研究では、OSAと大脳白質病変との間に有意な関連性が認められ、大脳白質病変の治療可能な病態が新たに示された。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

睡眠時無呼吸について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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