新型コロナワクチンの接種時期が2ヶ月違うだけで、デルタ株の感染率と重症化率が異なる(イスラエルからの報告)
イスラエルは世界で最も早く、新型コロナウイルスワクチンの接種を始めた国です。イスラエルの経験は、今後の日本でも役にたつと思われます。2021年10月に発表されたNELM誌の論文を紹介します。
イスラエルでは、ファイザー社のBNT162b2ワクチンを用いて、ワクチン接種キャンペーンが行われ、新型コロナウイルス感染者数の急激な低下につながった。2020年12月から3か月以内に成人人口の半数以上が2回のワクチン接種を受けたところ、2021年5月には感染者数が1日数十件に減少した。その頃の感染者のほとんどがワクチン未接種者や海外からの帰国者によるものだった。
しかし、2021年6月に感染者が急激に増加し始め、ワクチン接種完了者での感染も相当数報告された。
2021年6月から8月初旬までのイスラエルにおける、コロナワクチン接種済の人に確認された、日々のSARS-CoV-2感染者数と新規重症COVID-19患者数
1月後半にワクチン接種を完了した60歳以上の感染率は、3月に接種完了した同年齢層の1.6倍でした(下図)。つまり、ワクチンを2か月遅く受けたおかげで、7月のコロナウイルス感染を免れた人がいるとも言えます。
2021年7月11日から31日までに記録されたSARS-CoV-2感染者の割合
60才以上でみると、ワクチン接種の完了時期が遅い人の方が、7月に重症COVID-19が発症する確率が低いことがわかります(下図)。若年者では重症化率が低いために、はっきりしたことは言えません。
2021年7月11日から31日までに記録された重症COVID-19の割合
イスラエルでのBNT162b2ワクチン接種後の免疫力低下
Waning Immunity after the BNT162b2 Vaccine in Israel
October 27, 2021
概要
背景
2020年12月、イスラエルはBNT162b2ワクチンの投与による新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対する集団予防接種キャンペーンを開始した。その結果、Covid-19の流行が急激に抑制された。その後、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染者がほとんどいない時期を経て、2021年6月中旬にCovid-19の流行が再燃した。再流行の原因として、デルタ変異株(B.1.617.2)に対するワクチン効果の低下と、免疫力の低下が考えられる。イスラエルにおけるデルタ株に対するワクチンの免疫力低下の程度は不明である。
方法
2021年6月以前にワクチン接種を完了したイスラエルの全住民を対象に、2021年7月11日から31日までの期間に、イスラエルの国家データベースから収集した感染確定者および重症患者に関するデータを使用した。ポアソン回帰モデルを用いて、異なる期間にワクチンを接種した集団の中で、SARS-CoV-2感染確認率および重症Covid-19の発生率を比較した。年齢による層別と、考えられる交絡因子の調整も行った。
結果
60歳以上では,2021年1月(最初に接種対象となった時期)にワクチン接種を完了した群の方が,2か月後の3月にワクチン接種を完了した群よりも、7月11日から31日までの期間における感染率が高かった(率比,1.6;95%信頼区間[CI],1.3~2.0)。40~59歳では、2月(最初に接種対象となった時期)にワクチンを接種完了した群と、2ヶ月後の4月にワクチン接種を完了した群との感染率比は1.7(95%CI、1.4~2.1)であった。16~39歳では、3月(最初に接種対象となった時期)にワクチンを接種完了した群と、2ヶ月後の5月にワクチン接種を完了した群との感染率比は1.6(95%CI,1.3~2.0)であった。最初の対象者がワクチン接種を完了した月における重症化率と、3月にワクチンを接種完了した群に重症化率の比は、、60歳以上では1.8(95%CI,1.1~2.9),40~59歳では2.2(95%CI,0.6~7.7)であったが,16~39歳では人数が少なく,算出できなかった。
結論
以上の結果から,SARS-CoV-2のデルタ株に対する免疫は,すべての年齢層において,2回目のワクチン接種から数ヵ月後には低下していることがわかった。
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)