大気中の一酸化炭素は日々の死亡率に影響を与える(LANCET Planetary Health誌より)
COが大量に発生すると、血液中のヘモグロビンと結合し、酸素の運搬機能を阻害し、中毒症状をおこします。しかし、中毒量とまではいかなくても、微量でもCOは健康被害の原因になると考えられています。
そのため、各国はCOの環境基準を設定してます。WHOや欧米の基準は8時間の平均CO濃度が10mg/m³(24時間平均は約7mg/m³)以下であり、中国ではより厳しい24時間平均4mg/m³以下が実施されています。
環境中のCOの発生源は主に自動車ですが、自動車の対策が進んでいるため、大気中のCO濃度は年々改善されています。現在の低いCO濃度でも死亡率への影響があるかは明らかになっていません。
今回紹介する論文では、日々の一酸化炭素(CO)濃度が死亡率に影響を及ぼすのか調べた研究を発表しています。著者らは、世界の337都市から全死亡率と大気汚染に関する日次データを収集し、気温や季節性などの時間的に変化する因子を調整した上で、COと死亡率の関連を調べました。
その結果,前日のCO濃度が1mg/m³上昇すると,翌日の死亡率が0.91%(95%CI 0.32〜1.50)有意に上昇することがわかりました。
WHOの屋内基準である24時間平均7mg/m³以下、EUおよび米国の屋外基準である8時間平均10mg/m³以下よりも、はるかに低い1mg/m³以下のCO濃度でも死亡率に影響を与えていました。(以下のグラフ参照)
しかし、大気中のCO濃度が上昇すると、PM10や二酸化窒素、二酸化硫黄などの汚染物質も同時に上昇します。そのため、低い濃度のCOが単独で人体に影響を与えるのかはさらに検証が必要だと考えられます。
以下は論文要旨の翻訳です。
Ambient carbon monoxide and daily mortality: a global time-series study in 337 cities
大気中の一酸化炭素と日次死亡率:337都市でのグローバル時系列研究
DOI: https://doi.org/10.1016/S2542-5196(21)00026-7
ARTICLES| VOLUME 5, ISSUE 4, E191-E199, APRIL 01, 2021
概要
背景
環境中の一酸化炭素(CO)と死亡率の間に短期的に関連があるかについて疫学的に確証はなく、単一の都市、地域、または国に限定されている。また、出版バイアスの可能性やモデル化手法の違いにより、先行研究の結果を一般化することは困難である。そこで本研究では、大気中のCOへの短期曝露と日次死亡率との関連を多民族・多国間で評価した。
方法
1979 年から 2016 年までの期間に18の 国または地域の 337 都市から、大気汚染、気象、総死亡率に関する日次データを収集した。対象とした都市すべてにおいて、少なくとも2年間のCOと死亡率の両方のデータがあった。都市ごとの関連性は準ポアソン分布を用いた交絡因子調整済み一般化加法モデルを用いて推定した。その後、ランダム効果マルチレベルメタ分析モデルを用いて、統計的不確実性を考慮しながら推定値をプールした。また、曝露-反応曲線の全体的な形状を評価し、健康に影響を及ぼさない閾値の可能性についても評価した。
調査結果
全体として、前日の平均 CO 濃度が 1 mg/m³ 増加すると、翌日の死亡率は 0.91%(95% CI 0.32~1.50)増加した。プールされた曝露-反応曲線は、CO濃度の増加に伴って死亡リスクが継続的に上昇することを示し、閾値がないことを示唆していた。CO濃度が1mg/m³以下では曝露-反応曲線が急峻になり、CO曝露量の増加に伴い死亡リスクが高まることを示したが、1日のCO濃度が0.6mg/m³以下になってもその傾向は変わらなかった。この関連性は、オゾンで調整しても同様であったが、粒子状物質や二酸化硫黄で調整すると減少し、さらに二酸化窒素で調整するとゼロになった。
解釈
今回の国際共同研究は、短期的なCO関連死亡率に関する疫学調査としては最大規模のものである。本研究では、現在の大気ガイドラインよりもはるかに低いレベルであっても、大気中のCOと1日あたり死亡率との間に有意な関連があることがわかった。他の排気ガス関連汚染物質とは独立して、COが影響しているかはさらなる研究が必要である。
資金提供
EU Horizon 2020,英国医学研究評議会,および自然環境研究評議会。