住宅の断熱化と入院率は関連するかもしれない(BMJ誌より紹介)
一方、住宅断熱化が健康維持にもつながることには、政府や個人もあまり気づいていないのではないでしょうか。「ヒートショック」は屋内の気温差によって起こります。寒い脱衣所から熱いお風呂に入浴したり、入浴後に寒い脱衣所に戻ると、血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中を発症する危険があります。これを予防するには、脱衣所の気温が下がらないように、住宅全体を断熱化するのが効果的です。北海道のように寒いところでは断熱化がすすみ、屋内は他の地域より暖かいという話も聞きます。そのため、ヒートショックは寒い地域の方が逆に少ないと言われてています。
今回紹介する論文では、ニュージーランド政府が住宅の断熱化を進めたところ、断熱化された住宅では呼吸器疾患、喘息、虚血性心疾患による入院が少なかったと報告しています。この研究は後ろ向きのコホート研究ですので、エビデンスレベルが低いものになりますが、血圧の変動とは関係のないCOPDや喘息による入院も住宅断熱化により減少するのは興味深いところです。
住宅の断熱材と入院率の関連性:国の介入プログラムのリンクデータを用いた後方視的コホート研究
Association between home insulation and hospital admission rates: retrospective cohort study using linked data from a national intervention programme
BMJ 2020; 371 (Published 29 December 2020)
doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m4571
抄録
目的
住宅に断熱材を後付けすることで、寒冷にともなう居住者の入院率が低下するかどうかを調査し、その効果が集団内の異なるグループ間で、また断熱材の種類によって異なるかどうかを明らかにする。
デザイン
国の介入プログラムを評価するために、関連データセットを用いた準実験的な後方視的コホート研究。
参加者
エネルギー効率化・保全事業局のウォームアップニュージーランドを通じて断熱補助金を受けた204,405戸の994,317人の住民が対象。2009年7月から2014年6月までに実施されたヒートスマート改修プログラム。
主な評価項目
介入を受けなかった対照群の入院患者数の変化と、同じ2つの期間における介入後の研究集団の入院患者数の変化を比較するために、差分の差分法が用いられた。2群を比較するために相対率比を用いた。
結果
研究期間中に234,873件の入院が発生した。太平洋民族の急性入院(率比0.94、95%信頼区間0.90~0.98)、喘息(0.92、0.86~0.99)、心血管疾患(0.90、0.88~0.93)、および65歳以上の成人の虚血性心疾患(0.79、0.74~0.84)を除いて、すべての集団カテゴリーおよび状態について介入群と対照群で、介入後の入院率が増加した。
しかし、介入群では介入後の増加率は対照群と比較して有意に低く(11%)(相対率比0.89、95%信頼区間0.88~0.90)、介入群では1,000人当たりの入院数が9.26(95%信頼区間9.05~9.47)減少した。呼吸器疾患(0.85、0.81~0.90)、全年齢群の喘息(0.80、0.70~0.90)、および65歳以上の虚血性心疾患(0.75、0.66~0.83)で効果がより顕著であった。
結論
本研究では、全国的な住宅断熱介入が入院患者の減少と関連していることが示され、自己申告による健康状態の改善が見られた先行研究を裏付ける結果となった。