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低線量CTによる肺がん検診は、喫煙者の肺がん死亡率を24%低下させる(NELSON試験)

[2020.02.09]

小さな肺がんを発見する上で最も有効な検査法はCTですが、問題もあります。CTで見つかった結節が肺がんなのか良性なのか鑑別するのが容易ではないケースが多々あり、肺がん検診にCTを導入するにはこの偽陽性が大きな障害となっています。

 

低線量CTによる肺がん検診の有効性を検証した最初の試験は米国で行われ、2011年のNEJM誌に報告されました。NLSTと呼ばれるその試験では、30 pack-years以上の喫煙歴がある、55歳から74歳の53,454名を対象に行われました(pack-years=〔1日の喫煙本数/20本〕×喫煙年数)。その結果、胸部X線による検診と比較して、年1回計3回の低線量CT検診は肺がん死亡率を20.0%低下させることを示しました。

 

今回紹介するNELSON試験では、1日15本以上を25年間以上、または1日10本以上を30年間以上の喫煙歴のある、15,822名(86%が男性)を対象に10年間の追跡調査を行っています。その結果、健診なしと比較して、5.5年間に計4回の低線量CT検診は肺がん死亡率を24%低下させました。

NELSON試験の特徴として、CTで発見される肺結節の体積を評価していることが挙げられます。初回CTで指摘される肺結節の体積が、50~500mm³であれば3か月後にCT再検、500mm³以上であれば呼吸器科医を受診としました。さらに、フォローアップCTで結節の体積倍加時間を計算し、その後の方針を決めています。これはNLST試験で問題となった偽陽性を少なくする狙いがあったようです。実際、NLST(結節の直径を評価)と比較して、NELSON(結節の体積を評価)では初回CTの結果に重要な違いが見られました。NELSONではCT検査陽性の患者の割合は2.1%であったのに対し、NLSTでは24%でした。陽性的中率はNELSONで43.5%、NLSTで3.8%でした。

 

NLSTとNELSONという2つの大規模な試験の結果、肺がんのリスクが高い喫煙者に対して低線量CT検診が有効であることは間違いないようです。CT検診をうけると、より早期の段階で肺がんが発見され、手術など根治的な治療を受けることができ、その結果として肺がんで死亡する確率が下がります。現在日本では、肺がんリスクの低い、非喫煙または軽喫煙者に対する低線量CTの有効性を検証する試験(JECS研究)が行われており、結果が待たれます。

 

 

February 6, 2020
N Engl J Med 2020; 382:503-513
DOI: 10.1056/NEJMoa1911793

要旨

背景

結節体積に基づく低線量 CT 健診により男性の既喫煙者および現喫煙者の肺癌死亡率を低下できるかに関する無作為化試験の結果は限られている.

方法

T0(ベースライン)、1年目、3年目、5.5年目にCT健診を受ける群、もしくは受けない群のいずれかに、50~74 歳の男性 13,195 人(主要解析)と女性 2,594 人(サブグループ解析)を無作為に割り付けた。オランダとベルギーの全国登録データより癌の診断、死亡日、死因を入手し,可能な場合は審査委員会によって死因が肺がんかを確認された.2015 年12月31日まで、最低10年間の追跡調査を全参加者に行った。

結果

男性においてCT健診の順守率は平均90.0%であった。健診を受けた参加者の平均9.2%が1 回以上追加のCTを受けた(初回検査で判定不能のため)。結節疑いで病院へ紹介された参加者は全体の2.1%であった。追跡10年目において、肺癌の発生率はCT健診群で1,000 人年あたり5.58例、比較対照群で1,000人年あたり4.91例であった。肺癌による死亡率は1,000 人年あたりそれぞれ2.50例、3.30例であった。10年目の時点で、対照群の肺癌累積死亡率を1とすると、CT健診群の死亡率は0.76(95%信頼区間 [CI] ,0.61~0.94;P=0.01)であり、8 年目および 9 年目も同様の値であった。女性においては、10 年目での死亡率の比は0.67(95% CI,0.38~1.14)であり、7~9 年目での値は0.41~0.52であった。

結論

肺癌高リスク者を対象とした今回の試験において、結節体積に基づくCT健診を受けた方が、受けないよりも肺癌死亡率が有意に低いことが示された。肺癌が疑われた参加者のうちフォローアップされた人の割合は低かった。

資金提供 オランダ健康研究開発機構ほか。

NELSON 試験:Netherlands Trial Register 番号 NL580

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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