マスクなどローテクな手法で新型コロナウイルス感染拡大を防止(JAMA誌の意見)
マスクやその他の「ローテク」手法によるSARS-CoV-2感染拡大の防止
JAMA. Published online October 26, 2020.
2020年10月のJAMA誌(米国医師会雑誌)に、新型コロナウイルスの感染拡大防止には、マスクを広く使用すること(Universal Mask Wearing)をはじめとする低コストでローテクな手法が重要であるとする意見が載っていたので、今回紹介します。同誌は世界で最も広く読まれている医学雑誌であり、一流の一般医学雑誌のうちのひとつです。
下記は本文(Viewpoint)の全文を翻訳し、私自身の解説を加えました。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、2019年12月に中国の武漢で最初の症例が報告されてから10か月間で歴史的大流行(パンデミック)を引き起こし、 世界中で感染者、死亡者、および社会への混乱を引き起こした。
パンデミックをコントロールし、通常生活における多くの活動が再開するには、最終的に安全で効果的なワクチンが不可欠である。 複数のワクチン候補の第3相試験の結果は間近に迫っているが、SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐための「ローテク」な道具は不可欠である。そして、ワクチン接種が最初に可能となった後もこれらの道具が必要であることを強調しておくべきである。効果の高いワクチンが1つ以上手に入り、集団接種率が高いとしても、集団として免疫を獲得するのに十分な人数がワクチン接種を受けるには少なくとも数か月を要する。」
☞ワクチンの開発は進んでいますが、ワクチンの接種が開始されて、集団免疫が獲得されるまでまだまだ時間がかかります。それまでは今も行っているローテクな対策を続けるべきです。
「SARS-CoV-2感染を予防する、複数の方法「道具箱」には、マスク着用や、身体的距離(ソーシャルディスタンス)、手指衛生、迅速な検査(隔離および接触者追跡と同時に)、人ごみと集会の制限がある。 ワクチンの効果が中程度しかない場合、またはワクチン接種率が小さい場合、これらの方法はさらに重要となる。」
☞厚生労働省の標語である3密(密閉、密集、密接)を避けること、マスク着用と手指衛生、迅速検査が挙げられています。
「地域レベルでSARS-CoV-2の感染拡大を防ぐために、顔を覆うものーマスクーを着用することは、この複合アプローチでキーとなる要素である。 SARS-CoV-2感染予防のためにマスクが有効であることを複数のレベルでの証拠が支持している。公共の場でマスク着用を義務化すると、米国でのCOVID-19感染者数の日々の増加率の低下と関連している。 モデリング推計によると、このような義務の実施により、2020年5月22日までに200,000例を超えるCOVID-19感染が回避された。
地域のおけるマスク使用に関するランダム化臨床試験は、倫理的および臨床現場的に考慮すると、実施困難である。 観察研究には限界がかなりあるが、有益な情報となることがある。 たとえば、中国の124世帯におけるSARS-CoV-2の2次感染に関する研究では、一人目の患者の症状が現れる前に、1人以上の家族が自宅でマスクを着用すると、二次感染のオッズ比が低くなることが示された(調整オッズ 比率, 0.21 [95%CI, 0.06-0.79])。米国の大学医療センターでの研究では、すべての医療従事者と患者にマスクを常に使用した結果、医療従事者と患者におけるSARS-CoV-2陽性率は14.65%から11.46%に減少し、1日あたり0.49%減少した。」
☞マスクの有効性を科学的に証明することは困難です。なぜなら、マスクなしの集団(地域や国)と、マスクありの集団に感染者を一人紛れ込ませ、どちらの地域の感染者が多いか比較するなどという研究は倫理的に許されないからです。観察研究で、マスクは有効だろうと推測されているのみです。しかし、マスクをする習慣がある日本と、習慣がない欧米における感染者数の違いをみれば、マスクの効果は明らかではないかと個人的には思います。
「SARS-CoV-2の感染予防のためマスクを着用する理由を理解するには、ウイルスが人から人へとどのように広がるかを理解することが役立つ。 SARS-CoV-2は、主に感染者が吐き出す呼吸器由来の飛沫によって感染する。 この飛沫の大きさは様々である。 大きな飛沫は、通常6フィート以内の発生源から近いところに、比較的速く空気から落下する。 エアロゾルとよく呼ばれる小さな飛沫も発生源から近距離に存在するが、発生源から外側に移動するにつれて濃度を低下させながら、空気中に長い時間残り、到達する距離も長くなる可能性がある。SARS-CoV-2の疫学は、約6フィート(180cm)以内の至近距離で感染者に近づくことにより、ほとんどの感染が成立する可能性が高いことを示している。 しかし、最近の報告によると、多くの場合、換気の悪い閉鎖空間や、歌ったり、叫んだり、運動中に激しく呼吸したりするなどの行動に関連するような特定の状況で、より長い距離または時間にわたって空気中に残っているエアロゾルもSARS-CoV-2感染にかかわることを示している。 疾病管理予防センター(CDC)は最近、SARS-CoV-2.4の空中拡散の可能性を認めるためにガイダンスを更新した。」
☞新型コロナウイルスは飛沫感染が主ですが、飛沫の大きさにはいろいろあり、小さな飛沫の場合は空中に長く留まっており、感染源になりえます。
「物理的障壁として機能するマスクを使用して、SARS-CoV-2感染者からの呼吸器飛沫の拡散を阻止するという戦略は、感染拡大を抑制するために筋が通っている。 サージカルマスクは呼気中への呼吸器系ウイルスの排出を減らすことができ、布製マスクに使用される材料の一部にはろ過効果があり、サージカルマスクのろ過効果に近い可能性がある。」
☞感染者が飛沫そのものを空中にださないようにするため、マスク、特にサージカルマスクが有効と考えられます。
「呼吸器由来の飛沫は、咳やくしゃみだけでなく、話したり、単に呼吸したりしても産生される。光散乱実験によると、大声で1分間話すと、1000個を超えるウイルス粒子含有エアロゾルが産生され、閉鎖された換気の悪い環境で空気中に残る可能性がある。 ウイルス粒子は、換気の悪い密閉空間で蓄積する可能性がある。したがって、話すときにマスクを外すというよく観察される行動はお勧めできない。北半球での寒い季節が始まるに伴い、活動はますます屋内で行われ、その結果、しばしば集合が避けられない。 したがって、特に屋内環境では、マスクを常に着用する必要性を継続的に強調することが特に重要である。」
☞密閉空間でマスクを外して話をするという行動は厳禁。屋内で会話するときは、マスクを着用する。
「最近のデータによると、SARS-CoV-2感染者の最大40%から45%は無症候性の可能性があるが、無症候でもまだウイルスを感染させることができる。 COVID-19発生における感染イベントの50%以上は無症候性感染者からのウイルス伝播であった可能性がある。SARS-CoV-2を感染させる能力のある人は、症状の存在だけでは特定できないことが明らかになったため、感染源制御のために地域で常にマスクを着用することが勧められる。」
☞症状のないSARS-CoV-2感染者は、当然のことながら自分で感染していることを気づくことができません。自分が感染者である可能性を考え、他人に感染させないように常にマスクを着用することが大切です。
「身体的距離(ソーシャルディスタンス)、手指衛生、適切な換気、混雑した空間の回避など、SARS-CoV-2のを防ぐための他の手法と組み合わせて、マスクを使用する必要がある。SARS-CoV-2感染者の検査拡大も重要であるが、それだけではパンデミック制御には不十分である。 完璧な検査はなく、すべての検査にウイルス検出限界があり、偽陰性の可能性がある。さらに、検査結果はその時点の状態を表すだけであり、検体が採取された瞬間以外の個人の状態を示すものではない。検査は、行動範囲の把握および感染者の隔離とともに、SARS-CoV-2の感染拡大を抑制するための重要なツールである。 ただし、感染を防ぐために検査のみに頼って、マスクの着用や物理的な距離などの戦略を追加しなければ、効果がない。」
☞マスク着用のみ、コロナ検査のみに頼ってはいけません。すべて同時に行う必要があります。
「世界中の国々がビジネス、学校、その他の社会的側面を安全に再開しようとしており、低コスト、ローテク、常識的な公衆衛生活動と併せて、SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐために、地域でのマスク使用は現在も今後も重要である。 正常に戻るには、COVID-19防止ツールの一つとして、マスク着用やその他の安価で効果的な手法が広く受け入れられ、採用される必要がある。」
☞トップがマスクに対して否定的な見方をしている国から、このような意見が医師会雑誌から出されたことに大きな意味があるように思います。
Published Online: October 26, 2020. doi:10.1001/jama.2020.21946
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)