約半年前に下記にようなブログ記事を掲載しました。
新型コロナワクチン接種と帯状疱疹発症は関連があるかもしれない(JEADV誌の報告)(2022.05.29更新)
その後、コロナワクチンと帯状疱疹発症との関連については、複数の研究が実施され、以下のように相反する結果を示しています。
関連なしと報告した論文3本
1.Risk of herpes zoster reactivation after messenger RNA COVID-19 vaccination: a cohort study. J Am Acad Dermatol. 2022;87(3):649-651. doi:10.1016/j.jaad.2021.11.025
2.Oropharyngeal shedding of herpesviruses before and after BNT162b2 mRNA vaccination against COVID-19. Vaccine. 2021;39(40):5729-5731. doi:10.1016/j.vaccine.2021.08.088
3.Real-world safety data for the Pfizer BNT162b2 SARS-CoV-2 vaccine: historical cohort study. Clin Microbiol Infect. 2022;28(1):130-134. doi:10.1016/j.cmi.2021.09.018
関連ありと報告した論文2本
1.Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide setting. N Engl J Med. 2021;385(12):1078-1090. doi:10.1056/NEJMoa2110475
2.Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022;36(8):1342-1348. DOI: 10.1111/jdv.18184
今回紹介するコホート研究(レベル4)では、主要研究デザインとして自己対照リスク期間分析自己管理リスク間隔(SCRI)を使用しています。ワクチンを受けた一人一人にリスク期間とコントロール期間をそれぞれ設定し(下図)、各個人においてリスク期間での帯状疱疹リスクとコントロール期間での帯状疱疹リスクが比較されました。
リスク期間:3つのワクチンすべて1回目の接種後30日間、ファイザー/モデルナワクチン2回目の接種後30日間)
コントロール期間:最終リスク期間終了後30~60日間)
このようなデザインを設定した理由として、米国の請求データベースではCOVID-19の接種記録が不完全であるため、ワクチン接種しないと選択した人とワクチン接種した人では行動や健康状態に大きな違いがある可能性があるためと、論文に記載されています。
その結果、OVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していませんでした(発生率比 0.91)。これで、「リスクは増加しない」とする論文の方が多数派(4対2)となりましたが、真実はどうなのでしょうか?
(ここからは私見です)
医学研究結果を見るときに、その研究のエビデンスレベルを意識して見なければなりません。疫学調査でよく使われるコホート研究のエビデンスレベルは、上から4番目で高くはありません(ちなみに専門家の意見は6番目とさらに低い)。帯状疱疹発症を評価項目として大規模な二重盲検無作為化比較試験(=エビデンスレベル2)が実施できれば、真実を知ることができるかもしれません。しかし、そのような試験の実施はほぼ不可能であり、有害事象(副作用)に関する研究の難しさがあると思われます。今回の研究では、コロナワクチンを接種した一人一人の経過の中で、帯状疱疹の発症を比較するという、少々無理のある研究デザインを採用しており、個人的には結果解釈に疑問符をつけてしまいます。ただ、補足研究として、インフルエンザワクチン接種者の帯状疱疹発症リスクと比較すると、コロナワクチン接種後の方がリスクが低いという結果を示しており、興味深いところです。
Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine
COVID−19ワクチン接種者における帯状疱疹発症リスクの評価
JAMA Netw Open. 2022 Nov 1;5(11):e2242240.
DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.42240
キーポイント
質問:
COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹のリスクは増加するのか?
所見:
米国の医療費請求データベースに含まれるCOVID-19ワクチン接種者2,039,854人を対象としたコホート研究において,自己対照リスク期間分析により,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹の発生率比は0.91であることが明らかになった。また,補足のコホート解析では,パンデミック前およびパンデミック初期におけるインフルエンザワクチン接種と比較して,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹のリスクは増加しないことが示された.
意味:
これらの知見は、COVID-19ワクチン接種が帯状疱疹のリスク上昇と関連しないことを示唆しており、COVID-19ワクチンの安全性プロファイルに関する懸念の解消に役立つと思われる。
概要
重要性:
COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹感染症が、多数の症例研究で報告されている。これらの症例が報告数の増加であるのか、あるいは真のリスク増加であるのかは不明である。
目的:
COVID-19 ワクチン接種が帯状疱疹リスクの上昇と関連するかどうかを評価すること。
デザイン、設定、参加者:
今回のコホート研究では、自己対照リスク期間(SCRI)デザインを用いて、COVID-19ワクチン接種後30日間または2回目のワクチン接種日までのリスク期間と、COVID-19ワクチン接種から離れたコントロール期間(各個人の最終記録接種日から60~90日目と定義し、コントロール間隔とリスク間隔の間に30日のwash-out期間を確保)の帯状疱疹のリスクを比較した。パンデミック前(2018年1月1日~2019年12月31日)またはパンデミック初期(2020年3月1日~2020年11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した過去の2つのコホートにおいて補足的コホート解析を行い、COVID-19接種後の帯状疱疹リスクとインフルエンザ接種後の帯状疱疹リスクとを比較した。データは、米国国内の非識別化された請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)から入手した。2020年12月11日から2021年6月30日までに、緊急使用許可されたCOVID-19ワクチン(BNT162b2[ファイザー-ビオンテック]、mRNA-1273[モデルナ]、Ad26.COV2.S[ジョンソン&ジョンソン]のいずれかを受けた計2,039,854人を対象とした。SCRI解析に含まれた人は、COVID-19ワクチン接種コホートのサブセットであり、リスク期間またはコントロール期間のいずれかに帯状疱疹に罹患した。
曝露:
COVID-19ワクチンのいずれかの投与。
主な結果と測定法 :
International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems第10版(ICD-10)のコードで定義される帯状疱疹の発症と、診断から5日以内に新規抗ウイルス薬の処方または抗ウイルス薬の増量があったこと。
結果:
研究期間中にいずれかのCOVID-19ワクチン投与を受けた2,039,854人のうち、平均年齢(SD)は43.2歳(16.3)、1,031,149人(50.6%)が女性、1,344,318人(65.9%)が白人であった。これらのうち、帯状疱疹と診断された1,451人(平均年齢[SD]は51.6歳[12.6]、845人[58.2%]は女性)が、SCRIの主要解析に含まれた。SCRI 解析では,COVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していなかった(発生率比,0.91;95% CI,0.82 ~ 1.01;P = 0.08)。補足コホート解析では、COVID-19 ワクチンは,パンデミック前のインフルエンザワクチン接種と比較して,帯状疱疹のリスクは上昇していなかった(COVID-19 ワクチン初回接種:ハザード比 [HR], 0.78 [95% CI, 0.70-0.86; P < .001]; COVID-19 ワクチン2 回接種:HR, 0.79 [95% CI, 0.71-0.88; P < 0.001]) 。パンデミック初期のインフルエンザワクチン接種との比較でも同様であった(COVID-19ワクチン初回接種:HR, 0.89 [95% CI, 0.80-1.00; P = .05]; 2回接種: HR, 0.91 [95% CI, 0.81-1.02; P = .09])。
結論と関連性:
本研究では、COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹発症リスク増加との間に関連は見られず、患者や臨床医のCOVID-19ワクチンの安全性プロファイルに対する懸念に対応することができると考えられる。
:院長 石本 修 (呼吸器専門医)