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EGFR変異陽性非小細胞肺がんの術後補助治療として、オシメルチニブ(タグリッソ®)が有効か(NEJM誌より紹介)

[2020.11.08]

 

肺がんの治療方針を決めるときに、最初に考えるのはその患者さんに手術適応があるかないかです。まず手術ありきの方針は、薬物治療が進歩した今も変わりません。(将来、このパラダイムが変わる時代は来るとは思いますが、私が生きている間には来ないでしょう。)

ステージⅠの早期肺がん患者さんが、呼吸器外科で根治的手術を予定通り行い、退院しました。といった場合、肺がんは治ったように思われる人もいますが、治ったことを証明するのは簡単ではありません。術後に再発することがあるからです。

 

術後に再発してしまう主な理由として、術前検査の限界があります。術前には、ガンが全身にどの程度広がっているかを、CTやPET-CT、MRIなど最新の画像検査を行います。しかし、どのような検査も偽陰性の問題があります。検査が陰性だからといって、つまり画像検査でガン転移が映らなかったからといって、本当にそうなのかという問題です。画像検査で陽性ととるには、少なくとも1cm程度の大きさが必要です。1cmのガンは小さいと思われるかもしれませんが、10億個のガン細胞でできています。画像検査でガンの転移はないという結果であったも、1cm未満のガン、すなわち数億個のガン細胞の転移がすでにあるかもしれないのです。

画像検査では見つからない、数億個単位のガン細胞を死滅させるために、術後補助治療が必要となってきます。

 

オシメルチニブ(タグリッソ®)については、本ブログで過去に2度論文を紹介しました。

 

頭蓋内転移に対するオシメルチニブ(タグリッソ®)の有効性と安全性の評価:系統的レビューとメタ解析

 

タグリッソ®はEGFR遺伝子変異陽性の未治療進行期非小細胞肺癌の全生存期間をイレッサ®やタルセバ®よりも延長させる

 

今回紹介する論文では、タグリッソ®が術後補助治療として有効かを検証しています。主な対象は、ステージがII期からIIIA期のEGFR変異陽性非小細胞肺癌で完全切除された患者さんです。術後になにも治療しない(=プラセボ群)と、術後2年以内に再発した確率は48%でした。一方、術後補助治療としてタグリッソ®を投与すると、術後2年以内に再発した確率は10%でした。この差は明らかですので、私が患者であれば2年以内に再発はしたくないので、タグリッソ®を投与してほしいと思うことでしょう。

 

 

でも、術後になにも治療しないで再発した場合は、タグリッソ®を投与すればよいのですが、術後補助治療としてタグリッソ®を投与した上で再発した場合は最も効果の高い治療選択肢をすでに1つ消費しているので、治療選択に困るかもしれません。この点については、全生存期間の比較が参考になるのですが、死亡例がまだ少数なのでなんとも言えません。今後のデータ追跡がさらに必要です。

 

 

Osimertinib in Resected EGFR-Mutated Non–Small-Cell Lung Cancer

EGFR変異陽性非小細胞肺癌の術後補助治療としてのオシメルチニブ

October 29, 2020
N Engl J Med 2020; 383:1711-1723
DOI: 10.1056/NEJMoa2027071

概要

背景

オシメルチニブは、上皮成長因子受容体(EGFR)変異陽性の未治療進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対する標準治療である。 しかし、術後補助療法としてのオシメルチニブの有効性と安全性は不明である。

 

方法

今回の二重盲検第3相試験では、完全切除されたEGFR変異陽性NSCLCの患者を、オシメルチニブ(80 mgを1日1回)またはプラセボのいずれかの群に1:1の比率でランダムに割り当て、3年間投与した。 主要エンドポイントは、病期がII期からIIIA期の患者の無病生存期間であった(治験担当医師の評価による)。 二次エンドポイントには、IB期からIIIA期の全患者集団における無病生存期間、全生存期間、および安全性が含まれていた。

 

結果

合計682人の患者が無作為化を受けた(オシメルチニブ群339人、プラセボ群343人)。 24ヶ月時点で、オシメルチニブ群のII期からIIIA期の患者の90%(95%信頼区間[CI], 84~93)、プラセボ群の患者の44%(95%CI, 37~51)が無病生存であった(疾患再発または死亡に対する全ハザード比, 0.17; 99.06% CI, 0.11〜0.26; P <0.001)。全患者集団においては、オシメルチニブ群の患者の89%(95%CI, 85〜92)、プラセボ群の患者の52%(95%CI, 46〜58)が、24か月時点で無病生存であった(疾患再発または死亡に対する全ハザード比, 0.20; 99.12% CI, 0.14〜0.30; P <0.001)。 24か月の時点で、オシメルチニブ群の98%(95%CI, 95〜99)およびプラセボ群の85%(95%CI, 80〜89)が生存しており、中枢神経系疾患を認めなかった(疾患再発または死亡の全ハザード比, 0.18; 95%CI, 0.10~0.33)。全生存データは未完であり、 29人の患者が死亡した(オシメルチニブ群で9人、プラセボ群で20人)。安全性における新たな懸念は見られなかった。

 

結論

IB期からIIIA期のEGFR変異陽性NSCLCの患者では、無病生存期間はプラセボを投与された患者よりもオシメルチニブを投与された患者の方が有意に長かった。 

(AstraZenecaからの資金提供あり、ADAURA ClinicalTrials.gov番号、NCT02511106)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

肺がんについても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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