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肺がん手術後に補助化学療法をするべきかをCT画像スコアで予測できるかもしれない(Lancet Digital Health誌より)

[2020.06.21]

 肺がんの進行度はステージⅠからⅣの4つに大きく分類されます。ステージⅠ(I期)が一番早期であり、ステージⅣ(Ⅳ期)が遠隔転移がある状態です。Ⅰ期とⅡ期の肺がん(非小細胞)患者さんには手術療法を通常行います。そしてⅡ期の患者さんには手術後に補助化学療法といって抗がん剤治療を追加するのが標準的な治療になります。

 

  • 術後補助化学療法を行う訳

 なぜ、補助化学療法を追加しなければいけないのでしょうか。手術前にCTやPETなどさまざまな画像検査を行い、手術をしてガンを完全切除し、手術後の検査でもガンを認めないことを確認した患者さんでも、手術後数ヶ月から数年経つと再発することが少なくないからです。術後の5年生存率を見ると、Ⅱ期の肺がん(非小細胞)の場合は5−6割です。つまり、Ⅱ期で手術して完全切除されたとしても4−5割の患者さんはその後再発し、亡くなってしまうということです。そこで、複数の臨床試験が行われ、補助化学療法を行うことで、術後の再発率と死亡率を下げることが証明されました。

 

  • 術後補助化学療法の問題

 しかし、ここで問題は、もともと再発しないと考えられる5−6割の術後患者さんにも補助化学療法をしなければならないということです。術後再発するのかしないのか、未来を予測できるようになれば無駄な補助化学療法をしなくても済みます。例えば、同じ大きさの肺がんをもち、同様の術式の手術を行って完全に取り切れたと説明を受けた患者さんが二人いたとします。一人には「今後再発するリスクが低いので補助化学療法はしません」、もうひとりには「今後再発するリスクが高いので補助化学療法をしましょう」と説明できるようになれば、患者さんも、治療を提供する医療従事者も納得して治療を継続できるのではないでしょうか。

 

  • CT画像で術後再発を予測する

 今回紹介する論文には、術後の再発リスクを予測するバイオマーカーとして、術前のCT画像をスコア化する手法をとっています。CT上は同じ大きさの肺がんであっても、腫瘍濃度(密度)や腫瘍辺縁、腫瘍周囲の肺に違いが見られます。腫瘍濃度が濃いとガン細胞の数が多いことが予想されますし、リンパ管などに沿ってガン細胞が進展したり、周囲の正常肺組織が腫瘍に引き込まれていたりすると腫瘍の悪性度が高いことが予想されます。本研究では、そのようなCT画像所見、病理所見、病期分類を点数化し、術後再発リスクを予測し、補助化学療法の適応を決めるのに役立つとしています。

 

  • 以下は論文要旨です。

CT derived radiomic score for predicting the added benefit of adjuvant chemotherapy following surgery in stage I, II resectable non-small cell lung cancer: a retrospective multicohort study for outcome prediction

I期、II期の切除可能非小細胞肺癌に対して術後補助化学療法の追加は有益か、CT画像スコアで予測できる可能性

 

ARTICLES| VOLUME 2, ISSUE 3, E116-E128, MARCH 01, 2020

Published:February 13, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2589-7500(20)30002-9

 

概要

背景

早期肺癌患者において術後補助化学療法を行うかどうかは、追加が有益な患者を特定する明確なバイオマーカーが存在しないため、意見が分かれるところである。無病生存率を予知し、術後補助化学療法を追加する利益があるか予測できるように、早期非小細胞肺癌(NSCLC)の定量的ラジオミックリスクスコア(QuRiS)および関連するノモグラム(QuRNom)を開発し、検証することを本研究の目的とした。

方法

手術単独療法または手術および術後補助化学療法のいずれかで治療した早期NSCLC(病期Ⅰ期とⅡ期)患者の後方視的マルチコホート研究を行った。治療前の診断時CT画像および対応する生存情報が入手可能な患者を選択した。QuRiSを開発するため、クリーブランドクリニック財団(米国オハイオ州クリーブランド;コホートD 1)の患者の胸部CTスキャンでの、一次肺結節の内部および外部構造の放射線画像的特徴を使用した。最小絶対収縮および選択演算子-Cox正則化モデルを、データ次元の削減、特徴選択、およびQuRiS構築のために使用された。ペンシルベニア大学(米国ペンシルベニア州フィラデフィア;コホートD 2)の患者コホート、CT画像をThe Cancer Imaging Archiveから抽出した患者コホート(コホートD 3)においてQuRiSを独立して検証した。 腫瘍因子とリンパ節因子(腫瘍、リンパ節、遠隔転移の病期分類)、およびリンパ管浸潤とQuRiSを統合することによりQuRNomを構築した。 この研究の主要評価項目は、QuRiSおよびQuRNomが無病生存を予測できるかの評価であった。QuRiSとQuRNomを用いて術後補助化学療法を追加する利益を推定し、コホートD1 ーD 3において補助化学療法を受けた患者と手術のみ受けた患者を比較して検証した。

調査結果

コホートD 1には 329人の患者(73人 [22%]は手術および補助化学療法、256人[78%]は手術のみ実施)、コホートD 2には 114人の患者(33人[29%]は手術と補助化学療法、81人[71%]は手術単独)、コホートD 3には 82人の患者(24人 [29%]は手術と補助化学療法、58人[71%]は手術単独)が含まれた。QuRiSは3つの腫瘍内CT画像の特徴、及び10ケの腫瘍周囲のCT画像特徴から構成され、無病生存期間と有意に関連していた(QuRiSの予後予測検証;高リスク対低リスクのハザード比はコホートD1では1.56, 95%CI 1.08 – 2.23, p = 0.016;コホートD2では2.66,  1.24 – 5.68, p = 0.011;コホートD3では2.67,  1.39 – 5.11, p = 0.0029)。QuRiSの予測能力を検証するために、対応するQuRiSに基づいて3つのリスク群(高リスク群、中リスク群、低リスク群)に患者を分類した。高リスク群の患者は、手術単独の患者よりも術後補助化学療法を受けた患者で生存期間が有意に長いことが観察された(コホートD 1では0.27, 0.08–0.95, p = 0.042 ; コホートD 2とD 3を組み合わせた場合では0.08, 0.01–0.42, p = 0.0029)。QuRNomに関して、ノモグラムで推定された生存利益は、補助化学療法の実際の有効性を予測するものであった(コホートD 1では0.25, 0.12–0.55, p <0・0001 ; コホートD 3では0.13, <0.01–0.99, p = 0.0019 )。

解釈

QuRiSとQuRNomは無病生存率を予測し、特に臨床的に定義される低リスク群において補助化学療法の追加利益を予測できることが立証された。QuRiSはルーチンの胸部CT画像に基づいているため、他施設での独立追加検証により、切除可能な肺癌の非侵襲的治療における意思決定に使用できる可能性がある。

資金提供

米国国立癌研究所、米国国立衛生研究所、国立研究資源センター、米国退役軍人省生物医学研究所研究開発サービス、国防総省、国立糖尿病および消化器および腎臓病研究所、ウォレスHコールター財団、ケースウエスタンリザーブ大学、ダナ財団

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

肺がんについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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