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別の目的で撮ったCTで大動脈石灰化や脂肪濃度などの解析を追加すると、将来の心血管イベントおよび死亡率をついでに予測できるかもしれない(LANCET Digital Health誌より紹介)

[2020.05.31]
  • ある病気の精査のためCTを撮ったら、別の病気が偶然見つかることも

CT検査は、何らかの目的をもって行うことがほとんどです。例えば、肺炎を見つけるため、肺がんを見つけるため、大腸がんをみつけるために、胸部や腹部のCTをオーダーします。胸部腹部には肺や大腸以外にも心臓や肝臓、腎臓など様々な臓器があり、同時に撮影されます。そのため、肺がんを見つけるために撮ったCTで胸部大動脈瘤が見つかったり、腹部CTでたまたま撮影された一部の肺に腫瘍が見つかったり、主目的以外の病気が見つかることもしばしばあります。また、病気とは言えないレベルの所見も指摘しようと思えば、かなりあります。例えば、内臓脂肪や大動脈の石灰化などがあります。

 

  • 無駄だったCT情報を有益に

今までCTを撮って無駄になっていた情報、つまり大動脈石灰化、内臓脂肪、脂肪肝、骨や筋密度を使って、心筋梗塞など心血管イベントを予測できないかを、今回の論文では検証しています。身長と体重から算出する指数(BMI)や、コレステロール値や血圧、喫煙などから算出するフラミンガムリスクスコアと比較して、CT所見からリスクを評価する方法の方が優れていたと報告しています。

 

  • 症例提示

 例えば、下記のような症例が論文中には提示されています。

「大腸がんのスクリーニングのためにCTを受けた無症状の52歳男性の症例。 CTスクリーニング時の体格指数(BMI)は27.3、フラミンガムリスクスコアは5%であり、低リスクと考えられた。 しかし、CTによる代謝マーカーは数種類で基礎疾患の存在を示唆していた。 これら3つのCT結果に基づく多変量Cox予測モデルにより、心血管イベントのリスクは2年以内に19%、5年以内に40%、10年以内に67%、死亡リスクは2年以内に4%、 5年以内に11%、10年以内に27%であった。 縦断的臨床フォローアップで、この患者はこの最初のCTの3年後に急性心筋梗塞を発症し、CTの12年後に64歳で死亡した。」 

 

  • 以下は論文要旨です。

 

別の目的で撮ったCTで大動脈石灰化や脂肪濃度などの解析を追加すると、将来の心血管イベントおよび死亡率をついでに予測できるかもしれない

 VOLUME 2, ISSUE 4, E192-E200, APRIL 01, 2020

Published:March 02, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2589-7500(20)30025-X

概要

背景

体幹部CTスキャンは様々な適応症に対してよく実施されているが、潜在的に価値のある生体認証情報は通常使用されていない。以前から開発されていたディープラーニングおよび形状をベースしたアルゴリズムを発展させたCTベースの体構造の自動化バイオマーカーと、臨床パラメーター(フラミンガムリスクスコア[FRS]および体格指数[BMI])とで、成人スクリーニングコホートにおける主要な心血管イベントと全生存を予測するには、どちらが優れているか比較することを目的とした。

方法

今回の後方視的コホート研究では、大動脈石灰化、筋肉密度、内臓脂肪と皮下脂肪の比率、脂肪肝、骨ミネラル密度を定量化するため、前もって定義した指標を使って完全自動化されたCTアルゴリズムを、大腸がんの定期スクリーニングのために腹部CTを受けた18歳以上の健康で無症候な一般成人外来のコホートに適用した。検査測定値(CT vs FRSとBMI)と検査後の有害事象(CTスキャン後の死亡または心筋梗塞、脳血管障害、うっ血性心不全)との関連を評価するために、無病生存解析と受信者動作特性曲線(ROC)を計算するためロジスティック回帰解析を行った

調査結果

2004年4月から2016年12月の間にCTスキャンを受けた9,223人(平均年齢 57.1歳 [SD 7.8]; 5,152人 [56%]が女性, 4,071人 [44%]が男性)がこの解析に含まれた。縦断的な臨床フォローアップ(中央値8.8年 [IQR 5.1ー11.6])により、その後の主要な心血管イベントまたは死亡が1,831人(20%)の患者に発生した。有害事象に応じて、自動化CTの体組成測定値5つすべてに有意差が観察された(p <0.001)。死亡を予測する単変量5年のROC曲線の下面積(AUROC)は、大動脈石灰化では0.743(95%CI 0.705–0.780)、筋密度では0.721(0.683–0.759)、内臓脂肪と皮下脂肪の比率では0.661(0.625–0.697)、肝臓濃度では0.619(0.582–0.656)、椎骨密度では0.646(0・603–0・688)であった。それに対し、BMIでは0.499(0.454–0.544)、FRSでは0.688(0.650–0.727)であった。これらの同じCT測定値における、最もリスクが高い四分位数とその他に対する単変量ハザード比は、大動脈石灰化では4.53(95%CI 3.82–5.37)、筋肉密度では3.58(3.02–4.23) 、内臓脂肪と皮下脂肪の比率では2.28(1.92–2.71)、肝臓濃度では1.82(1.52–2.17)、椎骨密度では2.73(2.31–3.23)であり、BMIでは1.36(1.13–1.64)、FRSでは2.82(2.36–3.37)であった。 多変量のCTバイオマーカーの組み合わせにより、臨床パラメーターよりも予測がさらに改善された(AUROCではp <0・05)。たとえば、死亡予測するために大動脈石灰化、筋肉密度、肝臓濃度を組み合わせると、2年AUROCは0.811(95%CI 0.761–0.860)であった。

解釈

将来の重篤な有害事象発症前のリスク層別化には、CTスキャンから得られる完全自動化定量的組織バイオマーカーは、確立されている臨床パラメーターより優れており、別の目的で実施されるCTスキャンに付加価値を追加できる。

資金

国立衛生研究所臨床センターの学内研究プログラム。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

CTについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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