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喘息がコントロール不良だと社会に損失をどれくらい与えるのか

[2019.11.10]

しかし、治療を毎日継続することは、症状のない患者さんにとって大変であることは予想に難くありません。処方用法通りに毎日治療してくれる患者さんは35%もいないというデータもあります。喘息は症状に変動性があるため、治療をしなくても全く症状がでない時期があることは確かです。しかし、毎日治療をしていなければ、風邪などを契機に激しい咳や喘鳴など、生活に支障をきたすような発作をおこす可能性があります。喘息発作を起こすと、クリニックや病院を受診したり、重症の場合は入院して仕事を休んだり、子供の喘息発作の場合は親が仕事を休んだりしなければならず、患者さんとその家族にとって大変な負担となります。

 

今回紹介する論文では、通院や入院にともなう医療費を直接的コスト、仕事などを休むことにともなう費用を間接的コストと定義しています。アメリカで今後20年間に発生するコストを、喘息コントロールが良好な患者群と不良な患者群で比較して、州単位で推定値を算出しました。

その結果、コントロール不良喘息により、直接的な医療費だけで米国経済に推定3,000億ドルが負担になると考えられました。仕事の生産性損失による間接的コストが含めると、推定9,630億ドルに増加します。これらのコストは、適切な喘息管理を行って喘息コントロールを良好に保てば、防ぐことができるものと考えられます。20年間の1人当たり損害額は、2,209ドル(アーカンソー州)から6,132ドル(コネチカット州)であり、生活の質も相当さがります。つまり、喘息をちゃんと治療してコントロールすれば、一人当たり20年で約22万円から61万円を節約できる計算です。

 

喘息がコントロール不良だと社会に損失をどれくらい与えるのか:コントロール不良喘息によるアメリカの経済的健康的負担の予測

https://doi.org/10.1164/rccm.201901-0016OC    

Am J Respir Crit Care Med. 2019 Nov 1;200(9):1102-1112.

 

要旨

理論的根拠:

効果的な治療にもかかわらず、多くの喘息患者で喘息のコントロールがされていない。 不適切な喘息コントロールに関連する「予防可能な」負担は、個人および人口レベルで被る損害は高額となる可能性が高い。

目的:

アメリカの青少年と成人におけるコントロール不良の喘息による、今後の20年間の健康と経済的な過剰負担を予測した。

方法:人口増加と高齢化、喘息有病率、喘息コントロールレベルの推定値を州毎に算出した確率モデルを構築した。医療資源の使用や生活の質で調整した寿命(QALYs)、生産性の損失が喘息コントロールのレベルによってどれぐらい差がでるか、メタ解析を数件実施して推定した。 全国および州レベルで、2019年から2038年までにコントロール不良の喘息のために失われる、2018年のドルベースでの直接損害額と生産性損失による間接損害額、QALYs損失の合計を予測した。

測定と主な結果:

コントロール不良の喘息に関連する今後20年間の直接損害額の合計は、3,006億ドル(95%信頼区間[CI]、1,901億〜4,111億ドル)と推定される。 間接的な損害額が追加すると、経済的負担の合計は9,635億ドル(95%CI、6,641億ドルから1兆2,629億ドル)となる。 アメリカの青少年と成人はコントロール不良喘息のために、この期間に推定1546万年(95%CI、1277万〜1814万年)のQALYsを失う。 州毎にみると、コントロール不良喘息による20年間の1人当たり損害額は、2,209ドル(アーカンソー州)から6,132ドル(コネチカット州)の範囲だった。

結論:

コントロール不良喘息による負担は相当なものであり、増加していく。 この負担のかなりの部分は予防可能であることを考えると、エビデンスに基づいた喘息管理方針を医療提供者と患者がもっと守ることにより、コストを大幅に削減し、生活の質を改善する可能性がある。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

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