β遮断薬メトプロロールは重症COPDの急性増悪を予防できない
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は気管支が慢性的に狭窄している病気です。そのため、β2を刺激するような薬剤を使用して気管支を拡張させると、COPDの治療に役立つことが期待されます。現在すでに、内服薬や貼付薬、吸入薬として様々なβ2刺激薬が多数開発され、臨床現場で使用されています。
今回の論文では、β1を遮断する薬(メトプロロール)がCOPDの治療に役立つかをプラセボ対照無作為化比較試験で検証しています。結論はネガティブであり、逆にCOPDの重症増悪をメトプロロールが増やしてしまう結果でした。ただし、COPDに合併した心不全にβ1遮断薬を投与することを禁じるような結果ではありません。重症COPDの長期管理薬にβ1遮断薬は無益であることが証明されたということです。
メトプロロールはβ1を選択的に遮断する薬ですが、β2も少しは遮断します。つまり、COPD患者にメトプロロールを投与すると、気管支が狭窄へ若干傾くことが予想され、COPD増悪を増加させても薬理学的には不思議はないように思います。
プラセボ対照無作為化試験を行うには多額の資金と大変な労力がかかります。そのため、今回の試験の前にはメタアナリスがいくつか行われ、その結果がポジティブであったため、今回の試験が行われました。COPDに対して新たな薬理作用をもつ治療薬候補がない中、β1遮断薬が期待されたことと思いますが、残念な結果に終わりました。薬理学的には心臓収縮力を抑制するβ1遮断薬が心不全や虚血性心疾患に効くという逆転の発想は、COPDには通じないのかもしれません。
β遮断薬メトプロロールは重症COPDの急性増悪を予防できない(BLOCK COPD試験)
N Engl J Med. 2019 Oct 20.
要旨
背景
いくつかの観察研究により、β遮断薬が中等症または重症の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における増悪と死亡のリスクを低下させる可能性があることが示唆された。しかし、これらの知見は無作為化試験では確認されていない。
方法
今回の前向き無作為化試験では、40〜85歳のCOPD患者をβ遮断薬(徐放性メトプロロール)またはプラセボのいずれかの群に割り当てて投与した。すべての患者はCOPDの病歴があり、中程度の気流制限、増悪リスクの上昇を認めた。前年中の増悪の既往または酸素の使用によって増悪リスクを確認された。すでにβ遮断薬を服用している患者、β遮断薬の積極的な適応症を有する患者は除外された。主要評価項目は治療期間内で最初のCOPD増悪までの時間とし、治療期間はメトプロロールの調整用量に応じて336から350日間であった。
結果
合計532人の患者が無作為化された。患者の平均年齢(±SD)は65.0±7.8歳であり、平均の一秒量(FEV1)は予測値の41.1±16.3%であった。主要評価項目と安全性に関して無益であったため、早期に試験中止された。最初の増悪までの期間の中央値は群間で有意な差はなく、メトプロロール群で202日、プラセボ群で222日であった(メトプロロール対プラセボのハザード比, 1.05; 95%信頼区間[CI], 0.84〜1.32; P = 0.66)。メトプロロール群では入院するような増悪のリスクが高かった(ハザード比1.91; 95%CI, 1.29〜2.83)。メトプロロール関連の可能性のある副作用の頻度は2群間で同様であり、非呼吸器系の重篤な有害事象の全体発生率も同様であった。治療期間中にメトプロロール群で11人、プラセボ群で5人が死亡した。
結論
β遮断薬の積極的な適応症をもたない中等症または重症のCOPD患者では、最初のCOPD増悪までの期間はメトプロロール群とプラセボ群で同様であった。メトプロロールで治療された患者の方が、増悪による入院が多かった。 (国防総省による資金提供、BLOCK COPD試験 ClinicalTrials.gov番号、NCT02587351)
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)