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COPD増悪で入院した患者に対し、血中好酸球数をガイドにした副腎皮質ステロイド療法は実施可能か?

[2019.08.26]

 

COPD患者さんが急に息切れが悪化したり、咳痰が増加した時、まず肺炎や心不全、気胸といった合併症がないか胸部Xpなどでチェックします。合併症があればそれに応じた治療を優先して行います。合併症がなく、咳や痰、喘鳴、息切れが悪化していれば、COPD増悪と診断します。

 

COPD増悪の治療としては、短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が第一選択となります。しかし、SABAは気管支を一時的に拡張させる効果しかなく、作用時間は数時間しかありません。そのため、SABAのみでCOPD増悪を治療するのは困難です。そこで、副腎皮質ステロイドホルモンの全身投与(内服もしくは静注)を行います。さらに、細菌感染症が疑われるときは抗菌薬を投与することもあります。

 

副腎皮質ステロイドの全身投与がCOPD増悪に有効と証明されたのは約20年前です。この20年間でCOPD安定期に対する新薬は多数発売されてきましたが、COPD増悪に対し効果が証明された薬はSABA、ステロイド、抗菌薬の3種類のみで、新薬と呼べるものは出てきていません。COPD増悪に対する治療開発が今後必要と考えられます。

 

今回紹介する論文では、COPD急性増悪のためデンマークの大学病院に入院した患者318人が対象です。大学病院に入院するような患者さんなので、もともと重症COPDであり(%FEV1.0が平均30~32%)、直近1年間に増悪を64~69%の患者が経験していました。

 

まず1日目に80㎎のメチルプレドニゾロン(ステロイド剤)を静脈内投与し、患者登録後に、2日目からの治療を2群に無作為に割り付けました。通常治療群では2日目から5日目まで37.5㎎のプレドニゾロン(ステロイド剤)を毎日内服します。好酸球ガイド治療群では2日目から5日目まで採血を行い、血中好酸球数が300/μL以上の日のみ経口プレドニゾロン37.5mgを投与しました。

 

好酸球ガイド治療群ではステロイド投与量が少ないにもかかわらず、入院日数は同じであったとの結果でした。主要な評価項目はクリアしており、ポジティブな結果であったと言えます。COPD急性増悪においても血中好酸球数をステロイド投与するか否かの判断の一助となると考えられます。しかし、著者らも指摘しているように、注意すべき点がいくつかあります。

 

まず本研究では無作為化試験の標準であるITT解析を採用していますが、プロトコール違反をした患者数が両治療群とも10%前後と少なくはありません。つまり、好酸球ガイド治療群に割り当てられたのに、好酸球が低値な日にステロイドを投与された患者がおり、結果に影響可能性があります。

 

つぎに、患者登録後30日以内にCOPD急性増悪または死亡で再入院した患者が好酸球治療群では39人(24.5%)、通常治療群では27人(17.0%)と、有意ではありませんが差がついています。この差は症例数が増加すれば有意となる可能性を否定できず、要注意と言えます。

 

COPD増悪で入院した患者に対し、血中好酸球数をガイドにした副腎皮質ステロイド療法は実施可能か?(CORTICO-COP試験)

Lancet Respiratory Medicine

| VOLUME 7, ISSUE 8P699-709, AUGUST 01, 2019

Published:May 20, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30176-6

要旨

背景

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪患者に対し副腎皮質ステロイドを全身投与で治療すると、身体機能を低下させるような有害事象を引き起こす可能性がある。したがって、副腎皮質ステロイド全身投与を減らすような戦略が緊急に必要とされており、バイオマーカーを用いた個別化治療が有効かと思われる。本研究の目的は、血中好酸球数に基づくアルゴリズムによりCOPD急性増悪による入院患者への副腎皮質ステロイド全身投与を安全に減らすことができるかどうかを調べることである。

方法

 デンマークにある3つの異なる大学附属病院の呼吸器科において、多施設共同無作為化対照非盲検非劣性試験を実施した。適格な参加者は、40歳以上で、参加病院に24時間以内に入院し、既知の気流制限(気管支拡張薬投与後の一秒率≤70%)を有し、担当の呼吸器内科医が副腎皮質ステロイド全身投与の開始が必要と判断されたCOPD患者とした。血中好酸球数ガイドによる治療法または全身性副腎皮質ステロイドによる標準療法のいずれかに患者を無作為に1:1で割り当てた。研究者も患者もどちらのグループに割り当てられたかを知らされた。すべての患者は1日目に80mgのメチルプレドニゾロンの静脈内投与を受けた。

 血中好酸球数ガイドによる治療群では、血中好酸球数が300/µL以上であれば、経口プレドニゾロン錠37.5mgを2日目から毎日投与した(最大4日間)。血中好酸球数が低い日にはプレドニゾロンの投与はされなかった。患者が治療期間中に退院した場合には、最後に測定した好酸球数に応じて5日間以内の残日数分のプレドニゾロンが投与された(最後の観察は繰り越された)。対照群では2日目から4日間プレドニゾロン錠37.5mgを毎日投与した。主要評価項目はITT(intention to treat)解析で評価され、患者登録後14日以内に生存かつ退院している日数とした。副次的評価項目には、30日目での治療失敗(すなわち、COPD急性増悪再発による救急室の受診または入院、薬物治療の強化)、30日目における死亡数、および副腎皮質ステロイド全身投与期間が含まれた。非劣性マージンは1.2日であった(SD 3.8)。この試験はClinicalTrials.gov(番号NCT02857842)に登録され、2019年1月に完了した。

結果

 2016年8月3日から2018年9月30日まで好酸球ガイド群に159人、対照群に159人が登録され、ITT解析を行われた。登録後14日以内の生存かつ退院日数に群間差はなかった。すなわち、好酸球ガイド群では平均8.9日(95%CI 8.3 ~ 9.6)であり、対照群では平均9.3日(8.7〜9.9)であった(絶対値差 -0.4,95%CI -1.3~0.5; p = 0.34)。30日目での治療失敗は、好酸球ガイド群159人のうち42人(26%)、対照群159人のうち41人(26%)でみられた(差0.6%、95%CI  -9.0~10.3; p=0.90)。 30日目時点で、好酸球ガイド群159人のうち9人(6%)および対照群159人のうち6人(4%)が死亡していた(差1.9%、95%CI -2.8~6.5; p=0.43)。全身性副腎皮質ステロイド投与期間の中央値は、対照群の5日間(5.0~5.0)と比較して好酸球ガイド群の方が2日間(IQR 1.0~3.0)と短かった(p <0.0001)。

解釈

 好酸球ガイド療法は標準治療と比較して、生存かつ退院期間について非劣性であり、全身性副腎皮質ステロイド投与期間を短縮した。ただし、副次評価項目の一部については有害作用を否定できなかった。今回の治療法についてはもっと詳しい安全性プロファイルおよび、COPD増悪の管理における役割を決めることが必要であり、そのためにはもっと大規模な研究を要すると思われる。

資金提供

デンマーク地域医療基金およびデンマーク独立研究評議会

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

COPDについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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