睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんは全世界でどれぐらいいるのか
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は睡眠中に呼吸が止まる病気です。
もちろん、睡眠中ずっと呼吸が止まっているわけではなく、呼吸が止まると体内の酸素が不足し無意識のうちに苦しくなるので呼吸が再開します。
ひどいと1分間以上も呼吸が止まっている人もいますが、睡眠中のみなので本人には自覚がなく、ご家族などに指摘されるまで病気が見つからないことがほとんどです。
そのため、かなりの数のSAS患者さんがまだ診断されずに隠れているのではないかと考えられます。
無呼吸のため夜間十分眠れず、車などを日中運転中に突然眠くなり交通事故などを起こし、ようやくSASと診断されることもあります。
しかし、問題は眠気だけではありません。
SASは様々な生活習慣病、特に高血圧や心筋梗塞、脳卒中の原因としてよく知られています。
SASになると、SASそのものの治療だけではなく、高血圧など合併症治療も必要となることがよくあります。
重症SASになると、交通事故や合併症で死亡するリスクが高くなるので、生存率が年々下がっていきます。
SAS患者さんは全世界で何人ぐらいいるのか、どの国に多いのか、そのようなデータは今までありませんでした。
今回紹介する論文によると、全世界で約9億人がSASと考えられ、積極的な治療が必要な重症SASは約4億人いると推計されました。
国別のデータによると、日本のSAS患者さんの数は2,200万人(30〜69歳人口の32.7%)であり、重症SASは940万人(30〜69歳人口の14.0%)と推計されています。
日本にいるSAS患者さんは2~7%と言われていましたので(呼吸器学会ホームページより)、今まで考えられていた患者数の数倍のSAS患者さんがいることになります。
CPAP療法で治療されている日本のSAS患者さんの数は数十万人程度と言われており、治療が必要なSAS患者さんで実際治療されているのは数%に過ぎないことになります。
今回のデータは、16か国で行われた17の疫学研究を元に、その他の177か国の患者数を独自の方法で推計しています。
そのため正確なデータとは言えませんが、SASの有病率が人口の数%と考えて医療政策をとっているとすれば、大幅な修正が必要と言えるのではないでしょうか。
閉塞性睡眠時無呼吸の世界的な罹患率と疾病負荷の推定:文献に基づく分析
Lancet Respir Med VOLUME 7, ISSUE 8, P687-698, AUGUST 01, 2019
DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30198-5
概要
背景
睡眠時無呼吸症候群は主な神経認知障害および心臓血管系疾患を合併する病気であるが、全世界での罹患率に関する公表データはほとんどない。
閉塞性睡眠時無呼吸の世界的な罹患率を推定するために、公的に入手可能なデータを使用し、主要なオピニオンリーダーに連絡をとった。
方法
PubMedとEmbaseを検索し、客観的検査法に基づく閉塞性睡眠時無呼吸の有病率を報告している発表済みの研究を特定した。
国睡眠医学アカデミー(AASM)2012スコアリング基準を使用せずに閉塞性睡眠時無呼吸を診断した研究のために、変換アルゴリズムが作成され、異なる基準を使用した研究でも同等の無呼吸低呼吸指数(AHI)の決定を可能にした。
参考研究および集団データにおける症状に関する情報が乏しいため、症状の有無については特に分析されなかった。
異なる診断基準を用いた研究で横断的に推定した閉塞性睡眠時無呼吸の有病率は、新しく開発したアルゴリズムで標準化された。
閉塞性睡眠時無呼吸の有病率データがない国は、入手可能な有病率データを持つ同様の国と一致させた。国民の体格指数(BMI)や人種、および国同士の地理的な近さに基づいて国民類似性を判断した。
主要な評価項目は、30〜69歳の個人におけるAASM 2012診断基準に基づく閉塞性睡眠時無呼吸の有病率であった(公表済み研究では通常この年齢層で利用可能なデータがあり、すべての国の国連情報に関連しているからである)。
結果
閉塞性睡眠時無呼吸の有病率に関する信頼性の高いデータは、17の研究、16か国で入手可能でした。AASM 2012の診断基準と、1時間あたり5回以上のイベントおよび1時間あたり15回以上のイベントというAHI閾値を使用した。
その結果、全世界で30〜69歳(男性と女性)の9億3600万人(95%CI 9.03億–9.70億)が軽症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸、30〜69歳の4億2500万人(95%CI 3.99億〜4.50億)が重症の閉塞性睡眠時無呼吸に罹患していると推定された。
睡眠時無呼吸症候群の数は中国で最も多く、アメリカ、ブラジル、そしてインドがそれに続いた。
解釈
我々の知る限りでは、本研究は閉塞性睡眠時無呼吸の全世界における罹患率を報告した最初の研究である。
約10億人が罹患し、一部の国では50%を超える有病率であった。
健康への悪影響を最小限に抑え、費用対効果を最大にするために、効果的な診断および治療戦略が必要である。
資金提供 レスメド株式会社 |
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)
睡眠時無呼吸症候群について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから